おくりものと新たな困難と
「カナタ様。これをお納めください」
旅立ちの朝、わざわざ村長が手渡しに持って来てくれたのは、服だった。
「失礼ながら、そのお召し物だと目立つと思いましてね。こちらを用意したんです」
「そ、そんな……一晩で?」
「我らは職人ですからな。それぐらい簡単なものです」
言う村長の目にはしっかりとクマがあった。徹夜したんだな。
くそっ。
泣きそうになるのを我慢する。あれだ、二〇代後半から妙に涙もろくなってんだよ。
俺は早速着させてもらうことにした。
ゆったりした感じのベージュ色の長袖のシャツ、というか、フード付きのパーカーに近い。袖口とかが広く作られてて、動きやすい。パンツは伸縮性のある生地で、こっちもゆとりがある。カーゴみたいな感じだけど、すごく動きやすい。
あとは太くて黒いベルト。こっちはしっかりと巻きつけることができて、右から後ろにかけて小袋みたいなのがいくつかついてる。小物が入れられそうだ。
後、左側にはホルダーがあって、剣を備え付けられそうだ。
俺が持ってるのはただの鉄剣だけど、正直使う機会はもうない。でも、やはりビジュアル的に冒険者を装うなら必須のようで、つけてくれたんだろう。
後はブーツ。
これはすごく頑丈だ。特に靴底は強い。けど、内側は柔らかくて、足には優しい。
「ありがとう、ございます……!」
なんとか泣かないで、お礼を言えた。
「お気に召したようでよかったです」
「本当に嬉しいです」
「ちなみに色違いバージョンで一〇着程作ってあるので、洗濯にも困りませんぞ」
「アフターフォロー完璧ですね」
いやもうホント。
俺は微笑みながら有難く受け取る。
「いえ、皆さん全員分をご用意できなかったのが……」
『大丈夫です』
『形状変化させればいいだけだし』
『それに、そういうのはマスターの特権だしね』
『実際、一番頑張ったのもマスターだし』
口々に、『俺』たちがフォローを入れてくる。
こういう時、思考がまったく同じなのは本当にありがたい。安心して聞いていられるからなぁ。絶対に愚痴らないって分かってる。
何より、本心だし。
村長にもちゃんと伝わったようで、目尻にうっすら涙を浮かべながら、何度も頷いてくれた。
「本当にあなた様は優しいお方だ。真の勇者だ」
「そんなんじゃないですよ」
そこは即座に否定させてもらう。
今回は仕方なく、勇者になっただけなんだ。
これからも、そうだ。
俺は、ちっぽけだから、ちっぽけだからこそできることをするだけ。
ただ楽に、自適に生きる。
そのついでで、亜人族のために何かしようって思っただけだ。こんなの、高尚でもなんでもないだろ?
だから俺に、そんなたいそれたもんは似合わない。
「これから、どちらへいかれるのですか?」
「フェリスとチョビとも相談したんですけどね」
俺はまだこの世界に疎い。だから、二人に相談するのは当然の流れだ。
どうしてか、二人はとっても嬉しそうだったけど。
「とりあえず冒険者登録しようかな、と」
「ああ、なるほど。それは良い」
それだけで意図を理解したらしい。村長って本当に凄い人だ。色々と経験してるから、なのだろうけれど。
「どちらで登録なされるのですか?」
意図どころか。全部悟っているらしい。
俺は苦笑しかけた。
冒険者になるメリットは、税金対策が大きい。
冒険者になれば、各国への入国税金や、関門の税金が安価になる。これは冒険者が様々な情報や物質、そして戦力など、恩恵をもたらすためだ。また、安価にすることで出費を抑えさせ、町で金銭目的の荒事を起こさせないようにするためでもある。
他にも、冒険者になれば様々な依頼をこなせるようになる。
つまり稼ぐぶちとしても適している。
更に、この職業には、亜人族でも登録できる。
とはいえ、身分差別は激しい。
まともな仕事は、特に最初なんかは貰えないらしい。それで命を落とす亜人族も非常に多いようだ。嘆くようにフェリスから教えてもらった。
言い換えれば、亜人族の冒険者登録を許しているのは、手っ取り早く使い捨てにできる駒が手に入るからだ。
だからメリットを最大限取るのであれば、人間として登録することが必須だとか。
「ええ、もちろん亜人族として」
俺は即答する。
今度苦笑したのは、村長の方だった。
「あなた様は、本当にイバラの道を進まれるのですね」
「いえ、単純に遅かれ早かれバレると思ったので」
それなら、最初から亜人族で登録するべきだろうと思っただけだ。
「大変ですぞ?」
おそらくも何も、村長は経験者なのだろう。
ミノタウラを複数同時に撃破できるくらいの腕前があるのだし、何より野太いその精神力と胆力は、きっと修羅場を何度もくぐり抜けてきたからこそ身に着いたんだろう。
「でしょうね。けど、なんでかは分からないんですが、なんとかなると思いますし」
「はっはっは」
村長は朗らかに笑った。
「あなた様がいうと、本当にそうなりそうだ」
「そう願いますね」
「わかりました。冒険者になるには人里に出なければなりません。さらに言えば、それなりに大きい町にいかないと登録機能の持つ冒険者ギルドはありません」
村長は丁寧に教えてくれながら、地面に軽い地図を木の枝で描いてくれた。
「ここから一番近い、それらの条件を満たすのは東のマーテルですな」
「東の、マーテル」
「ここからまず南へ。森を出てから三キロ下れば、大きい街道にぶつかります。そこから東へずっと真っすぐいけば、そうですね、三日くらい進めば、大きい町にあたります。そこがマーテルです」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は丁寧に頭をさげた。
▲▽▲▽
東のマーテル。
そこは村長の言う通り、確かに大きい町だった。街道と街道が交差する一帯に作られていて、近くには大きい川もあるし、緑の加減から土地も豊かそうだ。
実際、大きい規模の畑がいくつもあった。
「物々しい造りだな」
俺はうず高い城壁を見上げて顔をしかめた。門のつくりも、大きい寺のように立派だ。
町は堀に囲まれているし、相当な厳戒体制なのがよくわかる。
「ここは街道の要所で、経済的にも土地的にも豊か。ここを制せば、近隣への影響力は強大なものになりますから。だからしばしば争いの中心でもあって、そこで、自治政府が必然的に生まれて、出来上がった都市でもあるんです」
「そうなのか」
城壁に歴史あり、と言えばいいのか、これ。
近寄ると、確かに分厚い城壁には生々しい傷が幾重にも刻まれていた。
「ああ、ここは魔族も苦戦させられたって聞いたことあるな。っていうか、最後の最後まで攻め落とせなかったんだってよ」
「難攻不落ってことか」
「異世界からの勇者がいたってのもあったみたいだけどな……その当時に生まれてなくてよかった。本気でよかったわ」
なんで空想してビビってんだ、チョビは。
俺は呆れた視線を送りつつも、その感想には同意だ。チョビの言い方じゃあ、あちこちで激しくやりあってたみたいだしな、人間族と魔族は。
そんな時に呼び出されてたら、どうなってたか。
うん、考えるのやめよう、
俺はあっさりと思考放棄して、町へ入るための順番待ち列に入った。
検問そのものはすぐに終わっているようだ。
ま、払うものさえ払えば通すって感じかな。
スキルを利用して観察した結果だ。
ん?
払うものさえ、払えば?
たら、たららら。と、俺の背中にイヤーな汗が流れる。
「…………な、なあ」
俺はおそるおそる声をかける。
「お金って……ある?」
「「いいえ?」」
ですよねぇ!
俺は全力で営業スマイルを浮かべつつ、早速難関に衝突したことを察した。
ど、どどど、どうする?
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