報酬と横暴と
と、とりあえず気にしないで治療しにいこう。
俺はなんとかやり過ごして、次々と治していく。
そんな治療には、一〇分とかからなかった。
列に並んでいたのは五〇人程度だったってのもあるけど、命にかかわるような怪我人がいなかったのもあるし、なんてったって『俺』たちは三〇〇人である。
あっという間にみんなを回復させ、いそいそと『俺』たちはルームに戻っていく。
設定では、魔法で分身したってなってるからな。
まぁ、なんとなってくれてよかった。
しかしこの《治癒粘液SSS》はめっちゃ便利だ。なんてたって魔力を消費しない。確かに体力は多少削られるけど、微々たるもんだし。それに俺、自己再生があるから一秒もかからずに復活しちゃうんだよ。
「あ、あの……」
ふうと一息ついていると、一番最初に助けた中年の親父が声をかけてきた。
見ると、何か小袋を持っている。
「助けていただいて本当にありがとうございました。これは心ばかりのお礼です」
「え?」
戸惑う内に手渡されてしまった。中年の親父は見た目からして商人だったが、どうやら中々のスキルを持っているらしい。
それからも何度もお礼をいってもらって、中年の親父は荷馬を連れて町の入り口門へ向かっていった。
すると、次々と助けた人たちが同じように小袋だったり、パンだったり、干し肉だったり、色々と何かを手渡してきてくれた。誰もがありがとうとお礼をいってくれた。
まって、なんだ。優しすぎかこの世界は。
でも、悪くない。
なんかちょっと癒された。
「まぁ、クソみたいなヤツもいるから、そういうのは元いた世界と変わらないのかもな」
見送ってから、俺はそっとその小袋を開ける。
入っていたのは、お金だった。
おう。
パンや干し肉のような現物支給は確認するまでもないけれど、他の小袋にもお金が入っていて、集めるとそれなりの金額になってくれた。
ぶっちゃけ、三人が余裕で門を潜り抜けられるくらいには。
なんとまぁ。
「カナタさまっ!」
「アニキ!」
お金を勘定し終えたタイミングで、フェリスとチョビが目をきらきらさせた。
俺は苦笑しながら頷く。
俺としては、こういうつもりじゃなかったんだけどな……。でも、いただけたものであれば、有り難く活用させてもらおう。
「よし、じゃあいくか」
「「はいっ!」」
俺の合図に、二人は嬉しそうに手を挙げた。
うん。フェリスは可愛いけど。フェリスは。
俺たちは列の最後尾に並んで、ようやく門の入り口にたどり着く。
白い全身鎧の二人が、槍を交差させて入り口を塞ぎ、残りの二人が声をかけてくる。
木のボードには分かりやすく大きい文字で料金が提示されていた。
俺はさっぱり読めないけど。
でもこういうのは良心的だと思う。人によって不正で金額を上下させたりとか起こらないからな。信頼性がでてくる。
とはいえ、警戒は必須。
フェリスは大きいリボンのついたずきんで耳を隠し、チョビは仮面とフードで顔を隠す。フェリスはともかくそれだけだとチョビは怪しさ全開なので、木の枝をテキトーに布で巻きつけて武器っぽく見せることで、用心棒っぽい雰囲気を出してもらった。
結果としては成功だ。
一応、町の中での武器使用についての注意事項はついてきたけど。
「おおーここが東のマーテルか」
門をくぐると、別世界だった。
元の世界でもそうそうは目にかかれないような大通りは石畳で、左右に整列するように並ぶ街並みは、白と黒のレンガで作られていた。
フェスティバルなのだろうか、三角の布が幾重も貼り付けられた紐が電線のように家々を結んでいて、大通りもまたいでいて、見る目にも楽しい。
何より、この人の数!
さすが大きい町、かつて戦乱の地にあっただけある。
活気がすさまじかった。
「す、すっごいですねぇ!」
「ちょっと俺にはうるさいくらいだな」
呆気にとられるフェリスに、チョビはちょっと不快感をみせる。まぁ俺はどっちも分かる。人の騒々しさって、イライラする時あるもんな。
「とにかくまずは冒険者ギルドだ。いこう」
いつまでも入り口付近でたむろしてるワケにもいかないしな。
俺は道に詳しそうな感じの人にギルドの場所を訊ねる。やみくもに探すより、手っ取り早いからな。こういう時は。
いくつか集めた情報では、白い剣と盾があしらわれた、黒い旗が目印らしい。
早速俺はそれを見つけて向かう。
ギルドは大通りに面していて、中々目立つ、というか、それはそれは立派な建物だった。ここだけレンガ造りじゃない。コンクリートのような壁だ。
門の柱はエンタブラチュアだし、中に入ればだだっ広いホール。ここもエンタブラチュアの列柱があって、なんかこう、神殿っぽい。
当然、中の人たちもガラっと印象が変わる。
荒々しい、というよりも物々しい雰囲気だ。ほとんどの人が武装していて、ギラギラとしている。早速チョビがあてられてしまって、俺の背中から離れなくなった。
「チョビ……」
「し、しししし仕方ないだろっ!? 怖いもんは怖いんだっ!」
「まだ誰もお前に害を与えようとしてないだろ……?」
「雰囲気だ! 空気だ! なんかそういうふわっとしたもんが俺を傷付ける!」
「豆腐より柔らかいメンタルだなおい。もはやシャボン玉メンタルか」
俺は呆れてツッコミを口にした。
ま、時間が惜しいのは事実だしな。俺はさっと周囲を見渡し、受付らしき場所を見つける。ああ、文字も読めるようにしないといけないのかなぁ。
言葉は通じるのにな。
「いらっしゃいませ。ギルドに登録希望の方ですか?」
受付前までいくと、お姉さんが声をかけてくれた。
「はい。すみません、田舎から出てきたもので、勝手がわからなくて」
「構いませんよ。こちらの登録用紙に記入してください」
お姉さんはにっこりと爽やかな営業スマイル(業種的に分かってしまう)を浮かべながらざらざらした用紙とペンを机においてこっちに差し出してきた。
さっと受け取って、俺はペンを持つ。
「ここはフェリスに任せてくださいっ」
それはそれは嬉しそうにフェリスが進言してきたので、俺は任せることにした。
すぐにでも言語学習を始めよう、と心に誓いながら。
用紙に書くのは、簡単なものだった。
名前と年齢、性別。あとは、種族や魔法等の適性の有無。
フェリスはきれいな字を書いた。読めない俺でも分かるくらいのきれいさだ。これは村長の教育の成果なんだろうな、と思った。
ちなみにチョビも登録することになった。チョビの字は、ちんまりとして丸々としていて、女子っぽい。見なかったことにした。
「はい、ありがとうございます」
二枚の用紙を受け取って、お姉さんの営業スマイルが硬直した。
「……亜人族と魔族の方、ですか……しょ、少々お待ちください」
言うなり、お姉さんは逃げるように受付の奥へと姿を消した。
予想できていた反応だ。
俺はなんとも思ってなかったけど、フェリスは拗ねるように頬を膨らませ、チョビは何か不備があったのかと怯えていた。分かりやすいなぁ。
しばらく待っていると、体格の大きい半裸の男がやってきた。
いかにもガラが悪いって感じだな。
「お前らか、新しくギルドに登録したいっていう希望者は」
「はい、そうです」
ギロりと睨まれ、男は俺を見て鼻で嗤う。あ、ちょっとムカついた。
「俺たち冒険者ギルドってぇのは、命をはって働く奴等の塊だ。生半可な覚悟と実力じゃあ務まらねぇ。だから、試験を設けてる」
……一応、筋の通った説明だし、試験があるってのも予想はしてた。
筋肉を見せつけるような姿勢で、男はちらりと俺からフェリス、チョビへ目線を動かす。
「この世界は実力がすべてだ。だから亜人族も魔族も関係ねぇ。魔族の世界がイヤになったからっつって、こっちにくる奴等もいるからな」
「じゃあ、その試験を受けさせてください」
「ああ、構わねぇぜ」
ごき、と、男は肩を鳴らす。
もしかしてもしかしなくても、この人と戦うことになるのだろうか。ありがちだからこそのセンに、俺はすぐに《鑑定スキル》を使う。
なるほど。
レベルはそこそこありそうだが――ハッキリと俺の敵じゃあない。
いや、そりゃそうなんだけど。
でも、なるべく戦いたくはない。
というか、どういう基準が合格なのか全然見えないからだ。相手が意地になりやすいっていうのもある。そうなると、いくとこまでいってしまいそうだ。
それで騒がれてもイヤだしなぁ。
「なーに、簡単だ」
男はニヤニヤしながら、言葉を続ける。
「ちょっとフォートドラゴンをなんとかしてこいや」
――――――――は?
とんでも発言に、俺は首をかしげた。
次回の更新は明日です。
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