2年3組の生徒 木村理恵
さて、僕の近頃の波瀾万丈な人生は相当のものだけど、授業中まではそんな展開は押し寄せてくることもなく、平和なまま放課後を迎えることになった。……いやそっちの方が良いんだけどね。最近の展開だと授業中にも何か起こるんじゃないかって心配したのだけれど、そんなことはなかったようだ。
まあ、君代先生の帰りのHRはハラハラドキドキ(古い)だったけど。
そういうわけで僕と小鳥は、トモが訪ねてくるのを待ち、そしてトモと合流後2年3組へと向かうことになった。
「さて、みんな集まったことだしそれじゃあ2年3組に行こうか。早く行かないと人がいなくなってしまうかもしれないしね」
「そうですね。良い情報が手に入るといいです」
……いや、無理だろ。高だか八重樫先生のクラスメイトというだけの存在がそんな重要な情報を握っているわけがない。
自分で提案しておいてなんだけど、この行動も相当に意味がないことを僕自身が理解していた。
犯人を捜す方法か……
こんな情報が少ない中で、犯人を捜す方法……無いわけではない。僕の頭の中にその方法は存在する。しかしその方法はリスクが高すぎる。下手すると犠牲が出る。
だから僕はそれを提案しない。小鳥に、トモに……提案をしない。
結局そんなリスクを犯してまで犯人を捜すよりも、このように見つからなくても適当にやっている振りをしていた方が平和なのだ。
平和はいいことだ。それは誰にとっても……きっと僕にとっても。
「それで、マコちゃん?誰に八重樫先生のことを聞くかとか、目星みたいのはついているのかな?ついているのかな?」
「ん?そんなもの全然つけてないよ。だって僕、八重樫先生のクラスメイトなんて一人も知らないし」
「うわぁ、真君って行き当たりばったりですよね。もう事前に調査とかをするのは、探偵にとって必要なものなんじゃないんですか?」
「いや、僕探偵じゃないし」
そもそも探偵になりたいのは僕ではなく、トモのはずだ。
まあ、トモがそんな調査をするわけなどないことはわかっているのだが。
トモも僕にやる気がないことをもう少し自覚してもらえれば、自分独りで調査などするのだろうか?
……しないな。トモは。
うーん。僕の中でトモは探偵にしたくない奴NO,1に輝いた瞬間だった。
「でも……そうだな。あまり怖そうな人とかには聞きたくないよね。それと先輩ぶる人とかも。まあ僕たちが一年で八重樫先生のクラスは二年だから、必然的にクラスメイトは二年生だけど、まあ気軽に話してくれそうな優しそうな人を捜そう」
「それってかなり条件が高いように思えますけど……」
「あと、僕らが八重樫先生の話題をしても不振を抱かないという条件も付け加えたいね」
「さ、更に条件が高くなってますぅ」
トモはそうは言うけれど、質問をするのは僕なんだ。
今まで一見して何でもないように、八重樫先生のことについて調査をしてきたけれど、僕は人見知りが激しいから、実は結構質問するのは苦痛なのだ。
殺意は見てはいないけど、それでも人が怖いのは変わりない。
……こんな気持ち、誰にもわからないんだろうな。
あぁ、2年3組に知り合いがいればこれも楽に終わらせることができるんだけど。
……ん?知り合い?
「そうだ、小鳥とトモは2年3組に知り合いとかいないのか?いればその人に聞けばいいじゃないか?」
「マコちゃん……私入学してからずっとマコちゃんと一緒に行動してきたし、特に部活とかも入っていないから、知り合いはいないよ。ごめんね」
「あう。そうだった」
となると、後の頼みの綱はトモだけど……
うわ!凄い細い頼みの綱だな!!
「そんな知り合いはいないです」
一蹴。
僕の楽に終わらせようとするプランは、思いついて三十秒もしないうちに打ち砕かれることになった。
はぁ、仕方がない。
やっぱり、怖くなく、偉そうにしないで、気軽に話してくれるような優しい人で、更にはあまり質問に対して疑問を持たないような人を捜すしかない。
……そんな人いるか?
いようがいまいが質問しなければならないので、仕方なく僕は最悪な結果をシミュレーションすることにし、いかなることが起こってもあまり落ち込まないようにした。
シミュレーション1:怖い先輩編
…………
……………
がたがたがたがた。
「ん?真君がなんだか振るえだしたですけど」
は、いけない。想像力が豊か過ぎて、かなり恐ろしい想像をしてしまった。
「だ、大丈夫だよ、トモ。きっと何とかなる」
そもそもそんな怖い先輩なら声かけないしね。………でもその人しかいなかったら聞くしかなくなるか。
まあ、どんな怖い先輩でも舌先三寸で丸め込めばいいか。そういうのは得意だったりする。それにいざとなれば、殺意を取ってしまえば……それは最終手段にしておくか。僕自身この能力はあまり好きではないしね。
他人の殺意を取ってしまうなど、ある意味おこがましい行為でしかない。
おこがましい………おこがましいか。
しばらく思考をしながら歩いていると、いつの間にか2年3組の教室の前までついてしまっていた。
さて、今日の本番はここからだ。
HR終了後、意外と早くに行動したことが功を奏したのか、2年3組の生徒は教室にまだ多く残っていた。数にして15名。
とは言うものの、誰に声をかけるべきなのか……
誰と言ったところで、一人として知り合いはいないのだけど……ふむ。それにしても声をかけずらいなぁ。
教室にいきなり入って、優しそうな先輩に八重樫先生の事件のことについて聞く、ってあからさまに不自然だろ?
あぁ、提案しておきながら何て穴がある作戦だったのだろうか。トモを納得させるその場しのぎだったとして、酷すぎる。
うろうろ。
「真君?どうしたですか?教室に着いたですから、はやく行動するです」
……トモは呑気で良いなぁ。おそらく僕が考えているジレンマなど1%もわからないんだろうな。
「そうは言うけどトモ。この状況、意外と質問に行きにくいものだぜ」
「そうですか?街で行なったものと変わらないと思うですが」
「そうかもしれないけど、僕はそうは考えないのさ」
「?よくわからないです」
僕だってよくわからないさ。
確かにこううろうろしているだけじゃ、先には進まない。
こうしている間にも、教室から出て行ってしまう生徒もいることだし。優しそうな先輩が帰ってしまう前に(それ以前に優しそうな先輩がいるのかどうかもわかってはいないのだけれど)、実行するのがベストだ。
……でもこの状況。行きづらいなぁ。
「ん?君たち一年生?こんなところで何してるの?誰か人でも待っているの?」
決心がつかずに、いまだうろうろしていた僕たちに(正確にはうろうろしていたのは僕一人だけど)、声をかけてくるものがいた。
かばんを持って、いかにもこれから帰宅をしますと言っているような生徒。
ちょっと大人びていて、成る程これが一年生と二年生の違いかと実感させられた。
「いえ、その……八重樫先生のクラスの生徒に聞きたいことがあって」
「?何か質問したいことがあるの?私でよければいいわよ」
「あれ?あなたは2年3組の生徒なんですか?」
「おかしなことを聞くのね。今そこから出てきたばかりじゃない」
そことは勿論、2年3組のことのようで、先輩はご丁寧にも指差しをして教えてくれた。
うーん、全く気付かなかったな。
話をしていたせいか、それとも僕の注意力が足りなかったからなのか、ともかく僕には先輩が出てきたのが全くわからなかった。
しかし、この先輩……優しそうでいい先輩のようだ。
このように困っていた後輩を見逃さなかったこともポイントが高い。
うん。何か今日はついているような気がする。
「ところで……その後ろの子……」
「はい?えっと、どちらですか?」
シュン。
先輩が僕の目の前から消えた。と言うのは少し過剰な表現だが、ただもの凄いスピードで僕の背後に回った。
「こっちの子」
僕の背後には小鳥とトモが待機していて、先輩が指名したのはトモのほうであった。何で指名しているかわかるのかと言うと、先輩がトモに抱きついているからである。
ちなみに先輩はどう見ても女性だ。制服もそうだし、なにより胸が膨らんでいるからね。
だからこの行為はおかしい。
いや、レズビアンであるならおかしくはないけど……って何を言っているんだ、僕。
「凄く可愛いわね~」
「うぐ。うぐ~。何なんですか」
「あ、ごめんね。私可愛いものに目がないんだ」
謝りながらも、トモから離れる様子のない先輩。
「ねえ、ねえ。この子って君の彼女」
「違います」
「じゃあ、頂戴」
「だめです。人はモノじゃないですから」
「ぶー」
口を尖らせる先輩。
……ヤバイ。僕はとんでもないハズレ引いてしまったのかもしれない。
「まさか一年にこれほど可愛い子がいるとはね~。ちょっとチェックが足りなかったわ」
「はぁ、そうですか」
「ふぐ。うぐ~」
「私はね常々思うのよ。美女なんて存在に意味はないの。確かに美しいものに人々は惹かれるけれど、それは決して心を和ますものではないのよ。わかる?とげとげしさ?そういうものがあるのよ、美女ってやつには」
「はあ、さいで」
「うぐ。うぐ。ふぐ」
「でもね、美少女は違うの。美少女は人々を惹きつけるだけでなく、和みの効果もあるのよ。癒し系ってやつよ。わかる?美少女がこの世界を救うのよ。いえ、美少女こそがこの世界を救うのよ」
「はあ、なるほど」
「う……うぐ」
「あ、ちょっと話が脱線しちゃったわね。私は木村理恵。それで君が聞きたいことって何?」
「とりあえず。その前に彼女を放してくれませんか?」
「ぶー」
先輩は口を尖らせて、僕の提案に否定の意を示した。
「僕が綾瀬真で、横にいるのが小宮山小鳥です」
「そんなことは別に聞きたくないわよ」
「……それで、僕らの背後で怯えているのが、風間智美です」
「そっか~。智美ちゃんていうのかぁ」
「(びくっ)」
トモが怯えたように、というか怯えて身体を震わせた。うむ、確かに先程窒息寸前まで抱きつかれていたからなぁ。恐怖があるのもわかる。
しかし、このおかしな雰囲気……もしかすると異常者かもしれない。
僕は念のため眼鏡を外して木村先輩の殺意を見た。何て事のない普通の殺意だった。
「そんなに怯えないでよぉ。もうあんなことはしないから、ね?」
その発言はおそらく嘘であることは間違いない。
気配でわかる。
トモが気を抜いた瞬間に、また行く気だ。
トモにもそれがわかったのか、依然前に出てくる気配はない。
「ぶ~。お姉さん嫌われちゃったかな?」
「そうみたいですね」
「君、綾瀬真君だっけ?説得してくれないかな?彼女に、お姉さんが怖くない人だって言ってくれないかな?」
「僕は事実以外は口にはしない主義ですから」
嘘ですけど。
「ぶ~。そんな態度じゃ友達が出来ないよ」
……僕は、これからこの先輩に八重樫先生のことについて聞かなければならないのか?あぁ、頭痛い。
どうして、僕の進もうとする道はいつも茨の道になるんだろう?
謎だ。僕には疫病神がついているとしか思えない。
「さて、おふざけもこれくらいにして……それで質問ってなんなの?」
急に木村先輩が真面目に戻る。
……というかキャラ変わりすぎ!!
まあ、僕としてはこちらの方がよいけれど。人間ってこれほどまでに変われるものなのだろうか?
実際変わっているわけだけど。
「実は八重樫先生のことについて、聞きたいんですよ」
「ウチの担任だった?どうして?」
どうしてと言われても、その犯人を追っているわけなのだが……
八重樫先生は一般には事故死ということになっているので、それは言えない。つまるところ、ここは僕のお得意の嘘で乗り切るしかないわけなのだ。
さて、今度はどんな嘘を吐こうか?
「他の人には黙っていてくださいよ。実は僕らは新聞部の新人部員なんですよ」
「新聞部って、あの毎回うそ臭い記事を書く、この高校の汚点とも言えるあの新聞部」
汚点って……確かにうそ臭い記事ばかり書いているのは知っているけど、そんなふうに捉えられていたのか?新聞部って?
ちなみに五月に出た校内新聞トップ記事は、『スクープ!血まみれの殺人鬼!!機関銃とピアノ線と日本刀による殺人!!!』とかいうわけのわからない記事だった。勿論読んでいない。
「その新聞部です。正直入る部活を間違えてしまったかなと思いましたが、入ってしまったからには仕方ありません。それで今度の校内新聞の二面記事を僕らが担当することになりまして、と言っても新人ですから題材は選べませんでした。とりあえず、先輩からは取材だけをして来いと言われまして、その題材が『八重樫先生の死の真相』だったわけです」
「うわ、何それ?」
「わかりませんけど、先輩が言うには『八重樫先生は事故死じゃない!真相は他にあるのだ!私は悪霊に取り付かれた結果、錯乱して交通事故を起こしてしまったのではないかと考えている。これを裏付けるための聞き込みをしてこい』ということらしいです。というわけで、最近の八重樫先生のおかしいところとかありませんでした?」
「……あなたたちも大変ねぇ」
「はぁ、全くです」
嘘だけど。しかし僕が事件を追っていて大変な思いをしていることも事実であったりする。
「八重樫先生、ねえ。私あいつのことあまり好きじゃなかったからなぁ。ほら、あいつっていつも機嫌が悪いって感じだったじゃない?何か気に入らないことがあると、それが私達にまでとばっちりがくる、みたいことが多くてさ」
「そうですね」
何せ八重樫先生の殺意は散弾銃。そういうふうに出来ていると言っても言い過ぎではないだろう。
「最近、か。そう言えば一週間ぐらい前だったか、やけに落ち込んでいたような雰囲気があったわね」
「一週間前、ですか?」
「うん。でも次の日にはもういつも通り嫌な奴に戻ってたけど……それぐらいかな?」
「事故の当日、又は前日には変わった様子はなかったですか?」
「うーん。特には……あ、いえ。そういえば」
「何かあったのですか?」
「確か、亡くなった日の当日、放課後に誰かが八重樫先生を訪ねてたわ」
「!!」
それは、もしかして、犯人?
いや、落ち着け、僕。ただ単に八重樫先生に授業のことについて質問に来ただけかもしれない。
「どんな人、でした?」
「うーん。正確には覚えてないわね。確か、男、だったと思うけど……」
「見覚えのある顔ではない、と?」
「そう、ねえ?ちょっと見たことがないと思ったけど私も帰宅しようとしていたから、正直よく覚えていないのよね」
「どんな話をしていたかとかは、わかりませんか?」
「わからないわ。すぐに二人でどこか移動しちゃったし」
「そうですか」
「他には……うーん、ないかな。ごめんね。あまり役には立たなかったでしょ?」
「そんなことないですよ。とてもいい取材になりました」
何も得られないと思っていたが、想像していたよりは情報が手に入った。
一週間前に八重樫先生が落ち込んでいたこと。
そして八重樫先生が殺された当日に八重樫先生を訪ねてきた生徒。
うまく思考をすれば、事件の解決への糸口が見つかるかもしれない。
……でも、見つけてどうするのだろう。
八重樫先生を殺した異常者を見つけてどうするのだろう?
僕は、僕は、それほどには、それほどには、この事件を……
僕らは木村先輩にお礼を言って、2年3組の教室の前を後にした。
去り際にトモがまた木村先輩に捕まりそうになったりしたけど、まあとりあえず僕らはこの時までは平和だった。
廊下を歩きながら、僕らは木村先輩から得た情報を整理することにした。
「トモ、小鳥。木村先輩の話どう思う?」
「うー、恐ろしい先輩です!」
誰も木村先輩についての意見を聞こうと言っていない。僕は木村先輩から聞いた話をどう思うか聞いたのだ。
まあ、トモはこの際放っておくしかあるまい。
よっぽど怖かったんだろうなぁ。
「小鳥、木村先輩の話、どう思う?」
「うーん、どう思うって言われても……先輩の話、参考になるのかな?参考になるのかな?」
あれ?僕としては木村先輩の話は犯人に繋がりそうなものだと思うのだけど。
小鳥はそうは思わなかったようだ。
「えっと、今回得られた証言をまとめてみようか?まず、一週間前の八重樫先生。何か落ち込んでいるような雰囲気だったらしい。よくわからないけど、きっと何かがあったんだと思う」
「そうかな?小鳥はそうは思わないけど……」
「どうして?」
「落ち込むことって、そんなに珍しいことじゃないと思うんだ。例えば私はマコちゃんに冷たくされたら落ち込むよ」
「僕はそんなに冷たいか?」
「そ、そうじゃなくて!例え、例えだよぉ。つまり私が言いたいのはね、人って何か些細なことでも落ち込んだり悲しくなったりすると思うの。だからね、この八重樫先生が落ち込んでいたっていうのは、事件とは関係ないと思うの」
「そうかな?」
「一週間前って言うと、事件の四日か五日前……もし木村先輩が大体で言ったなら、もっと前の話かもしれないよ。そんな前の話が事件と関係すると考えると安直じゃないかな?どうかな?」
「そう言われると、そうかも……」
しかし、何か気になる……
一週間前……一週間前……
「それに次の日にはいつもの八重樫先生に戻っていたって木村先輩は言っていたし、やっぱり事件には関係ないって思うけど」
流石小鳥だ。学年五位の頭は伊達じゃない。
僕みたいにすぐに事件と結び付けてしまわずに、冷静に判断してそして答えを出したのだろう。
うーん。僕ら三人の中では小鳥が一番探偵に向いているかもしれない。
「それじゃあ、次の証言は?事件があった当日に八重樫先生を訪ねてきた生徒がいるっていうもの」
「あ、それは私思ったです!その訪ねてきたのが、きっとこの事件の犯人に間違いないです!!」
トモが自信を持って言い出す。
……やっぱり、僕が最初に思ったことは少し安直であったと後悔した。
トモの発言で再確認した。
「それこそ、安直じゃないかな?八重樫先生は、先生だよ?生徒が先生を訪ねてきても何もおかしくないのが普通だよ」
「でも、事件の当日ですし……」
「事件の当日だって、生徒が質問に来るのはおかしなことじゃないよ。それに八重樫先生が亡くなったのは、その何時間後でしょ?えっと、木村先輩がその光景を見たのを仮に四時頃として、八重樫先生が亡くなったのはその約四時間後。訪ねてきたのが犯人だったら、どうして犯人は四時間もの猶予を八重樫先生に与えたのかな?」
「そ、それは、その……」
確かに、それは謎だ。
八重樫先生を訪ねてきた奴が犯人なら、何故その時に殺さなかった?人の目があったからか?
いや、でも二人で移動したって言っていたし、人の目のないところに移動したのかも……
だから、それで、どうしてその時に八重樫先生は殺さなかった?
……うーん、やっぱり小鳥の言うとおり訪ねてきた人は何にも関係ないのかな。
そう考えるのが妥当か。
「つまり小鳥は今回の聞き込みは無駄だったと思うわけか」
「うん。マコちゃん頑張ったんだけど、私はそう思うな」
「うぅー。でも、でもです!」
トモはまだ納得がいかないようだ。
初めて出た犯人らしき証言だからなぁ。これでそいつが犯人だったら、少しは話が楽であっただろう。
……いや、外見の特徴とかは得ることが出来なかったわけだし、結局は意味がないか。
まあ、僕としては意味のない方がありがたいが……
そんな凶悪な犯人と対峙なんてしたくはない。
トモの戦闘力は知っている。あれは普通じゃない力だ。
真面目にトモだったら拳銃を所有している人間なんて目じゃないだろう。
しかし、犯人はトモと……いや僕らと同じ異常者だ。
君代先生はトモの戦闘力が上の上であると評価したけれど……犯人がそれ以上の戦闘力を持っていたら?
どうする?僕はどうする?
そんなこと、考えたくもない。
だから、僕は思う。犯人なんて見つからなくていい。
更には犯人が僕らを見つけることが無いようにとも祈る。
八重樫先生の事件を僕らが追っていることを犯人が知れば、きっと僕らをどうにかしようと考えるだろう。
いずれ自分に辿り着かないように始末しようと考えるだろう。
「……と君」
これ以上目立った行動は、止めるべきかもしれない。
「…こと君」
君代先生は言った。僕とトモが最悪の相性であると。
どういう意味かはわからない。でも君代先生が冗談や嫌がらせでそんなことを言うわけがない。きっと何か意味がある。
手遅れになる前に、決断をすべきだ。
「真君!聞いているですか!」
「ん?」
トモが何か言っていたらしい。
全く聞いていなかった。ちょっと考えすぎたな。
真面目に考えるなんて、僕らしくない。適当にやって、適当に片付けられのが僕らしい。
これもきっとそれで解決できる。事件を解くことは出来ないかもしれないが、いずれはトモも飽きて、それでこの事件は解決だ。
そうだ。きっとそうなる。
そうなるように、行動しよう。
僕はこれからの行動も決まったところで、トモに言った。
「ごめん。ちょっと考えごとをしていてね。聞いていなかったよ。何?」
「うー、真君はどう考えるか聞いていたです」
「何を?」
「聞き込みが無駄だったかです!先輩から聞いたことは無駄だったと思うですか?私が死にそうになったのは無駄だったのですか?」
そうだ、トモは呼吸困難で死にかけたんだったな。
そんなトモに言うのは酷ってモノだけど……
「無駄だったね」
「はう」
小鳥が言うとおりに考えるのが論理的だ。
今回の聞き込みは全てが事件とは無意味な証言。
僕らはまた今回も犯人の手がかりは掴めないまま。
「うぅー。こんなことじゃ犯人なんて、いつまで経っても見つからないです」
「そうは言っても……手がかりがないんだからなぁ。何かトモお兄さんはヒントみたいなもはくれなかったの?」
「ヒント、ですか?えっと……」
トモはうーんと唸る。
その様子からヒントは何もくれなかったことが推測できた。
「ヒントは無し、か」
「そんなことないです!お兄ちゃんは優しいですから、きっと会話の中にヒントがあったのです!」
「あったのですか?」
「あったのです!!」
絶対無いと思ったが、この世に絶対はないし、トモがそこまで言うので聞いてみることにした。
「それじゃあトモのお兄さんはこの事件についてどう言っていたの?」
「え?」
「会話の中にヒントがあるんだったら、教えてよ。もしかしたらトモが気付かないだけで本当にヒントがあるのかもしれない」
「え、えっと……『めんどくさい』って言ってましたです」
「それ前聞いた」
「んっと……依頼料が安いと」
「それも聞いたし、事件のことじゃないし」
「他にはえっと……難しいことを言っていましたです」
「難しいこと?」
「あまり覚えていないですけど、罪がどうのこうの」
「……?」
アバウトすぎてわからない。
罪?何か問い詰めていくと哲学的になりそうなテーマだ。
うーん、唯一八重樫先生の事件を解いた人物だから、その発言に何かあると考えたけど、考えすぎだったみたいだ。
あ、そういえば君代先生もこの事件を解いたんだっけ。
君代先生は何て言っていたっけ?
確か、トモのお兄さんが事件を解かなかったことが納得できるとか、そんなことを言っていた気がする。
それは、どういう意味だ?
八重樫先生が嫌いだから、そう言ったのだろうか?
ありえるけど、でもあの言い方は違う。
「真君……また何か考えている顔をしているですよ。何かわかったですか?」
「いや。トモのお兄さんがヒントを出していないことぐらいしかわからないな」
「そ、そんなことないんです!お兄ちゃんは頭が良いですから、きっとヒントが常人ではわからないんです!」
「はいはい」
常人には理解できないヒントなど、既にヒントではない。
まあ、トモのあれだけのお兄さんの会話の話でヒントがわかったら、確かに異常ではあるな。
「とにかく。犯人は依然不明。勿論犯行理由も不明。うーん、解ける気がしないね」
「ファイトです!私達が八重樫先生の殺人事件を解決しなきゃ誰が解決するんですか!?」
カチ。
時計の針が進むような音がした。
うん?三人の誰かの腕時計の音だろうか?
特には気にしないで話を続ける。
「誰がって……トモのお兄さんだって」
僕はこの後に『解かなかった事件だよ?もしかしたら大した事件じゃないのかもしれない。僕らが解かなくても、極論犯人をこのままにしていてもいいんじゃないかな』と言うつもりだった。段々とトモを諦めさせていこうと、そう思ったのだ。
しかし、それは叶わなかった。
謎の笑い声が、僕の発言をシャットダウンさせたからだ。
『ヒャハハハハハハハ!!ついにキーワードをイッチャッタネ!!残念、ファニーボム発動!!ヒャハハハハハハハはハハハハハハはハッハハハ』
それはトモの背後から聞こえた。
僕は後悔する。
自分が迂闊だったことに。
僕はさっき考えた。
これ以上は犯人を刺激させるかもしれないと。
これ以上は、僕らは目立った行動をすべきではないと。
それは間違いだった。
僕らは、もう既に、犯人に気付かれていたのだ。
僕は、このまま、犯人が見つからなければいいと、犯人に見つからなければいいと、そう思ったが……
どうやらそうも言ってられない状況になったらしい。




