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ファニーボム(奇妙な爆弾)

その声は僕ら三人のものではない、やけに甲高い声で、機械で作り出したような声だった。

僕は瞬間理解が出来なかった。当然だろう?だって周りには僕ら三人しかいないのはわかっているし、スピーカーから流れ出た声でもなかったのだから。

その声がトモの背後からしたことを理解するのに、数秒かかった。

「トモ!」

何がなんだかよくわからないが、トモの背後から声がしたのなら、トモが危険である。僕はトモの後ろの方を見た。

トモも僕と同じように背後を向く。

しかしそこには誰もいなかった。

「え?」

「今確かに声が……」

したはずだ。あれが空耳であるはずが無い。

そう思っていると……

『ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ソッチじゃナイよ!!オジョウサン。こっちダヨ』

再びトモの背後から声が……

トモの反応は素早く、背後を向いた。遅れて僕も向く。

だから、僕は気付いた。

それはトモの背後にいたんじゃない。

トモの背中にいたんだ。

何だ?これは?

これは、殺意か?僕は今までいろいろな殺意を見てきたが、こんな殺意見たことがない。

トモの背中についていたそれは、ピエロの顔であった。手や足、胴体は無く、顔だけ。そしてその口にはアナログ式の時計がはめ込まれていた。

……口が塞がれているのにどうやって喋っているのだろうか、と思うことは余計なことだな。

一目、その殺意を見て、僕はわかった。こいつは爆弾だ。

「トモ!背中だ!背中に爆弾がついている!!」

「え?ええ!!」

『ありゃリャ。見つかっチャッタ。マあ、ミツカッタところでドウもしないケドナァ。ヒャハハハハハ』

「なに、何?何なんですか!?」

トモが必死でその爆弾を見ようとするが、無駄なことだ。人は自分の背中を見ることは出来ない。鏡でも使わない限り。

「ピエロみたいな爆弾がトモの背中に引っ付いてやがる」

『アレ?オ前、オレの姿ガ視認デキるのカ?普通ジャねえナ。見えたところデどうにもデキナイだろうけどナ。ヒャハハハハハ』

「視認?」

何だ、こいつは?こんなに存在感を持っているというのに、もしかして普通の人には見えないのだろうか?聞こえないのだろうか?

まさかな?

試しに、小鳥に聞いてみた。

「小鳥。お前、このピエロが見えるか?」

トモの背中を指差す。

小鳥は首を横に振った。

「見えないよ。何があるのかわからないけど、小鳥には見ることが出来ないみたい」

「普通の人には見えない。視認出来ない?」

こんな存在感があるのに、普通の人は見えないのか?

そんなバカな?これは確実に人を殺せるだけのエネルギーを有しているぞ。

『俺をシニン出来るノハ、オレノますたーと付けられたヤツだけダヨ。モットツケラレタ奴は死んじまうケド。視認出来るだけに、死人ニナル。なんちゃって。ヒャハハハハハ』

つ、つまらねえ。

何だ?今のギャグは?センスのかけらも感じない。

とか考えている場合じゃない!

えっと、どうする?意味がわからないがどうする?

そうだ!この殺意はトモの制服についているように見えるから……

「トモ!制服を脱げ!!」

「え?」

「え?」

慌てていたトモの動きが止まり、妙な眼で僕のほうを見る。

小鳥も同じだ。この表情は……唖然?

あれ?僕何かおかしなことを言ったかな?

…………言ってる!!

何だ、今の発言は!?気が動転していたか何か知らないけど、まるっきり変態じゃないか。

「ち、違うよ!これは、そのほら爆弾が!」

『H』

「違うんだ!!と言うか爆弾のお前が言うなよ!」

『ヒャハハハハハ!!お兄さんもオジョウチャンも慌てているネエ』

落ち着けよ、僕。この爆弾は殺傷率があることはわかるが、だけどここでは落ち着くことが重要だ。

爆弾……殺意……成る程ね。

「なんですか?これ。いったい何なのですか!?」

「どうやらこれは犯人の能力らしいね」

『ピンポーンピンポーン。セイカイだよお兄さん。俺はヤエガシをコロシタ犯人のサツイさ。名前はファニーボム。ヨロシク!ヒャハハハハハ!!』

いちいちうるさい殺意だ。癇に障る。

『オレとしてもカワイイ女の子をコロスノハ忍びないンだけど、発動ジョウケンが満たされちゃッタからシカタネエな。ヒャハハハハハ!!』

「発動条件?」

『ソウ!発動ジョウケン!マスターがタイショウに触れることと、対象があるきーわーどをイウことで俺はハツドウされるのサ』

「キーワードだって?」

『そうサ。今回のキーワードは、ナガメダッタカラ、発動後サンジュップン爆発ってトコロカナ。ちなみにコンカイのきーわーどは‘八重樫’でしタ。ヒャハハハハハ!!』

そう言えば、この声がしたまえにトモは八重樫先生という単語を言ったが……

いや、そんなことより、今の会話で抑えておくところはそんなことではないんだ。

サンジュップン?それはあと三十分でこの爆弾が爆発するということか?

「ひや。三十分で爆発ですか!?た、大変です!取ってください!真君取って下さいです!!」

『やめときナ。無理にトロウトするとバクハツするぜ。そうなっテンダ。ヒャハハハハハ!!』

「……爆弾の威力はどのぐらいなんだ?」

『おっ、ソッチのオニイサンは冷静ダネ。それともジブンノイノチが惜しいだけカナ。アンシンしなよ、お兄さん。オレの爆発はケッシテ他人をマキコマナイ。付けられたヤツがシヌダケさ。ヒャハハハハハ!!』

「成る程。爆弾といってるが、その威力は僕と小鳥には及ばないわけか」

つまるところ、最悪の場合でも僕と小鳥の安全だけは保証されたわけか。

「……真君。私を見捨てようとしているわけじゃないですよね?」

「ん?爆弾の威力が僕らにまで影響が及ぶのならばそれも考えたけど、及ばないならそんなことしないよ」

「ひ、ひどいです。鬼です!悪魔です!」

「冗談だよ」

一部は本心であるが……

もしもこの爆弾が僕らにも影響を与えるとしたら、僕は小鳥だけでも逃がすつもりだった。

小鳥は異常者じゃない。普通の人間だ。本来ならばこんな事件に関わりを持たなかったはずなのだ。それを僕が巻き込んだ。だから、小鳥だけでも逃げてもらおうと思ったのだ。

いや、爆弾の影響があるない以前に、小鳥はこの事件から外すべきなのかもしれない。

しかし、今はそれを話している場合ではない。

「おい爆弾」

『ヒドイナァ、お兄さん。俺にはファニーボムッテいうイカシタ名前ガあるんダゼ』

「長いし言いにくい。お前の解除方法はあるのか?」

一応聞いてみた。答えてくれるとは期待していなかったが。

『あるぜ。ソレモ三つモナ~』

あれ、答えてくれたよ。意外と親切な殺意だな。

『マズ、俺のますたーがシヌコト。ソウスリャオレハ消えちマウ』

殺さなきゃ解除できない、か。物騒だな。

「二つ目は?」

『オジョウチャンがマスターに触れるこト、だ』

「それじゃあ、一つ目の解除方法が要らなくないか?」

殺そうするならば犯人に触れることになるだろう。つまり一つ目と二つ目はほぼイコールって言うことになる。

『セイカクには違うッテコトサ。俺のマスターがウッカリして交通事故ナンカでシンダトしてもオレハ解除されるゼ』

「成る程ね。でもそれは正直望みが薄いね。それで三つ目は?」

『コノ解除ホウホウが一番カンタンさ。たいむリミットをムカエルコト、つまりお嬢チャンがシヌコト。ヒャハハハハハ!!』

三つ目は当てにならなかったということか。

事実上解除方法は二つ……いや一番目のものだって確率が非常に低いものだし、運任せのものだから、事実上は一つとなるのか。

「トモ……これは犯人を見つけるしかない」

「で、でもです。あと三十分しかないです。私達が今まで何時間費やしても見つけることが出来なかったですのに……見つけることが出来るのですか?」

「出来る出来ないじゃないぜ。するんだ。いいか。犯人は僕らを追い詰めたつもりかもしれないけど、これは犯人が僕に近づいたとも言える。三十分以内で犯人を特定し、見つけるんだ」

「でも、どうやってです?」

「この爆弾の発動条件は対象に触れること、だ。つまり今日トモに接触した人が犯人なんだ。トモ、思い出してくれ。今日トモに触れた人物を」

「そ、そうか、です!えっと……うんと……」

『おやオヤ。遂にハンニン探しの始まりカイ?それじゃあオレからヒトツひんとをヤルヨ。‘マスターは今学校にはいない’だ』

「!お前、敵に不利になるような情報を与えるのか?」

『お兄さん。コレハげーむだぜ。三十分イナイにカイジョデキレバお兄さん達のカチ。デキナケレバマスターの勝ち。俺はサシズメ司会シンコウ役だ。ヒャハハハハハ!!』

よくわからない殺意だ。

こんなヒント。犯人の不利になるだけじゃないか?一体犯人は何を考えているんだ?わからない。犯人が考えていることがわからない?

第一、何でトモなんだ?

この犯人探しは僕を主体に行なっていた。トモが発案したことだけど、動き回っていたのは僕だ。

トモが狙われたことはおかしい。何故僕を狙わずにトモを狙った?

戦闘能力が高いことがわかったのか?

いや、トモは僕との戦闘以降その能力を全く披露していない(僕らといる間だけだが)。だからトモの戦闘力などわからないはずだ。

どうして、トモから?

「そうとわかれば学校から早く出るです!」

トモが走り出す。

僕と小鳥もそれに続いた。

『それじゃあ、ココデるーるの説明。げーむのルールはサッキセツメイしたとおり。解除できレバ、オニイサンタチの勝ち。デキナケればますたーのカチ。ココマデハいいな?それとオレのひんとダガ必ずしも真実をイッテイルトハ限らない。三分のイチのカクリツで俺は嘘をつく。あとオレノヒントは五分にイッカイあるから、それを時間のメヤスニしてくれよ。ヒャハハハハハ!!』

よく喋る殺意だ。

しかし、三分の一で嘘を喋る殺意か……

これは思った以上に厄介かもしれない。

果たして僕らは犯人を見つけることはできるのか?

僕は思った。

そんなことは簡単だ、と。


僕らが校舎をでて校門に辿り着いた時、そいつは言った。

『ヒントソノニ。‘マスターはヒガシ北ノミヤの……’コレ以上はオシエられねえナ。ヒャハハハハハ!!』

やはり八重樫先生を殺した犯人はこの高校の生徒なのだろうか?しかしこいつは三分の一の確率で嘘を吐く。それは嘘かもしれない。

いや、もしかしたら最初のヒントからして嘘かもしれない。

こいつが僕らに真実を言うメリットなどないのだから。だから僕はこいつの言うことは大して気にしないことにした。

そんなことよりもだ……

「もう五分経ったのか?」

「そんな早いですよ!!」

『正確には、ハツドウされてからゴフンだな。すこしアソコデながく話たから、第一のひんとがオソクナっちまったダケダ。だから、爆発までアト二十五分だよ。ヒャハハハハハ!!』

時間は無い、か。

三十分。授業中は長く感じるその時間が今ではもの凄く短く感じる。

やることはさっさとやらなくては。

「トモ!それで先程の回答は?」

「先程の回答って、何ですか?」

「今日トモに触れた人物だよ」

「え?えっと……だ、駄目です!木村先輩の印象が強すぎて、他は思い出せないです」

……確かにあれはインパクトが大きかったな。

木村先輩が犯人だとしたら、僕らは堂々と犯人に接触を許していたわけか。

うーん、ちょっと危機感が足りていなかったな。

これは犯人に狙われても仕方なかったと思うしかないか。

「木村先輩が犯人じゃないとは思うけど……他に今は当てが無いし、とりあえず木村先輩を探そう」

「はいです!でも、木村先輩が犯人だったら……やり合いたくないです」

「どうして?」

「木村先輩は確かに怖い先輩でしたけど、でも悪い先輩じゃなかったです。きっと、きっと何かわけがあるですよ。だから、木村先輩が犯人だった場合は説得を一杯したいです」

自分が殺される立場にいるというのに、トモは何を甘いことを言うんだ?

相手は殺す気で僕らに接触しているんだ。

そんな甘い考えをしていては、その甘さを突かれて再び危機的状況に陥るだけだ。

「トモ……とりあえずそのことは爆弾を解除してから考えろ。いまは何が何でも爆弾を解除する。先のことは後で考える。いいな」

「でも……」

トモは納得がいかないようだったが、トモに今そのことを考えさせている場合ではない。

「僕とトモは木村先輩を探す。犯人の可能性は低いと思うけど、現在の唯一の容疑者だからね。小鳥は別行動を取ってくれ」

「え?小鳥は一緒に行けないの?」

「小鳥には他の事をやってもらいたい。今から紙に書くものをどこでもいいから購入してきてくれ」

僕は紙にそれを書いた。

言葉にして伝えると爆弾が気付くかもしれないからだ。

正直爆弾とそのマスターがどの程度のつながりがあるかわからない。爆弾が聞いたことはマスターに全て筒抜けになるのか?爆弾の喋っていることはマスターが言っていることなのか?それとも爆弾は完全に自立しているものなのか?わからない。

だから爆弾が聞こえないように、また見えないように紙に書いた。

『オイオイ、なにを買わせルキダ?というかコノ状況でモノなんてカッテイル場合かよ?ヒャハハハハハ!!』

うるさい。犯人を見つけるためには、もう手段を選んでいる場合じゃないのだ。

最悪のことも考えて動かなければ、皆やられる。

「こいつを頼む」

僕は書き終えた紙を小鳥に渡した。

「え?何でこんなものが必要なの?」

「質問は無しにしてくれ。必要になったら用途も話す。とにかく今はこれを買ってくること。それが小鳥の仕事だ。それを購入したら、小鳥はここで待機していてくれ。僕らも十分経ったらここに戻ってくるから」

「う、うん。わかった」

そうして、小鳥と僕らは別方向に走り出した。


「っと、ちょっと待て、トモ。木村先輩の帰宅経路ってこっちでいいのか?」

小鳥と一緒の方向に走り出しては格好がつかないと思い、逆方向に走り出した僕らだけど、果たしてこちらで合っているのだろうか?

「そんなの私が知っているわけないです!真君がこっちに走り出したんじゃないですか!?」

「いや、何か小鳥と一緒の方向に走り出すのは間抜けかと思い、ついこっちの方向に走り出してしまったわけで……」

「じゃ、じゃあ、もしかしてこっちじゃないですか!?」

「こっちじゃないかどうかもわからない状況なんだけど……」

いきなり壁にぶち当たったようだ。

木村先輩とは今日会ったばかり。勿論住所など知るわけがない。

「どうするですか?こっちじゃなかったらどっちですか?」

「いや、だからわからないって」

『ヒャハハハハハ!!アワテテるねえ。おふたガタ。でもいいのカイ。そんな言い争いシテイル暇があるのカ?』

「あと二十五分ぐらいはあるな」

その間に犯人を見つける、か。

ふん。

だが、そんなことはどうでもいいのかもしれないな。犯人、犯人ねえ……

「……なあ、トモ。少し落ち着こうか?」

「この状況で落ち着けるわけがないです」

トモは足踏みをしてすぐさま犯人を見つけにいきたいようだ。

だが、がむしゃらに追って犯人を見つけられるわけがない。

「トモ、お前は本当に木村先輩が犯人だと思うか?」

「え?それは、でも……現段階ではそれしか考えられませんし……」

「僕は違うと思う」

「ど、どうしてですか!?」

断言はできないが、多分違う。

「トモ、お前が木村先輩に触れられたのは会話の最初のほうだよな?」

「そ、そうですけど……」

「つまりその時にトモにこの殺意を取り付けたと。でもね、それっておかしくないか?」

「な、何がですか?」

「犯人は少なくとも僕らが八重樫先生の事件を追っていることを知っていた。知っているから八重樫先生の名前をキーワードにしたんだ。ここまではいいな?」

「はい、です」

「木村先輩が犯人だったと仮定しよう。木村先輩は僕らが八重樫先生の事件を追っていることを知っていた。そして、知っている上で僕らに近づいてトモに爆弾を取り付けた。そして僕らに八重樫先生の情報を提供した。おかしいだろ?」

「何がですか?全然わからないですよ?」

「つまり僕らが八重樫先生の情報を聞きに行くことを知っていたのにキーワードを八重樫なんて設定するのはおかしいと言っているんだ」

「どうしてです?すぐ出る言葉じゃないですか?逆にいいじゃないですか」

「すぐ出てしまう可能性があるからいけないんだ。いいかいトモ。仮にだ。仮にトモがあの場で八重樫先生の名前を出し、この爆弾を発動させてしまったとしよう。そして犯人が木村先輩だった場合、それは非常にまずいことなんじゃないか?何故なら爆弾の解除方法はマスターに触れること。マスターが近くにいるならばそれは容易い。つまり木村先輩が犯人だった場合八重樫なんて言葉をキーワードにしないと思うんだ。犯人は木村先輩じゃなく他の人物だと僕は思う」

「で、でもそれじゃあ犯人が特定できないです」

「木村先輩が犯人ではないと僕が考える理由がもうひとつある」

「なんですか、それ?」

それは、あまり当てにはならないんだけど……

「木村先輩がトモに触れているとき、僕は殺意を感じなかった」

僕は殺意が見える。あの時木村先輩は僕らに殺意を向けていなかった。

「とにかく、木村先輩が犯人の可能性はかなり低いと思うんだ。絶対違うとは言えないけれど、でも違うと思う」

「うー、でも、でも……それじゃあ、どうするですか!!この後どうするですか!?」

「今のところ僕が考えているプランは二つある。①この爆弾のヒントを頼りに犯人を捜す。ヒントは三分の一の確率で嘘というけれど、でも犯人特定につながるものは幾つかあると思うんだ」

二番目のヒントは『犯人は東北宮の……』だった。あと四回のヒント……そのヒントの中に犯人を特定できるものがあるかもしれない。

「もう一つは何なんですか?」

「②諦めてこのまま爆発するのを待つ」

勿論僕たちが選ぶのは①だった。


三番目のヒントは『犯人は女性』というものだった。

そのためトモが慌てて木村先輩を捜しに行こうとしたが、僕は止めた。あの会話の後のこのヒント……うそ臭いと思ったのだ。

いや本当かもしれないが、しかしやはり木村先輩の住所など僕らにわかるわけがないので、動かないことにした。

四番目のヒントは『お兄さんよりも背が高い』、つまり僕より背が高い人物らしい。

僕は男性としては平均的な身長であり、木村先輩よりは背が高かった。

三番目と四番目、どちらかが嘘のヒントなのだろう。僕よりも背が高い女性はいなくはないが、それを捜す方が大変だ。

それにトモに聞いたらそんな背が高い女性に会っていないとのこと。やはりどちらかのヒントが間違いらしい。

しかし、この時点ではやはり犯人の特定は不可能であった。

どちらかが嘘だという事はわかったが、どちらも嘘であるかはわからないし、どちらが嘘かもわからない。

結局はヒントによる進展は全く無かった。

そうこうしている間に残り時間十五分。

半分の時間が過ぎた。

時間は無くなってきているというのに、新たな情報は何も無かった。

「……さて、小鳥との約束の時間になったし、行こうか」

僕は校門の方に戻ろうと歩き出したが、トモがついて来なかった。

「どうした?トモ?」

「……もう、いいです」

「は?」

何て言った?トモは今何て言った?

「もういいですよ。犯人なんて捜さなくていいです。もうやめにしましょう、です」

『ヒャハハハハハ!!お嬢チャン。まさかモウ諦めちまったノカイ?まだジカンハ半分ノコサレテいるんダゼ』

「お前は少し黙ってろ」

うるさいんだよ。いらつくんだよ。

あの時みたいに……してやろうか?

あいつみたいに……してやろうか?

…………ふー、落ち着けよ、僕。それよりも今はトモの発言に気にかけるべきだ。

「犯人を捜さなきゃトモ死んじゃうじゃないか。何でそんな発言したんだよ?」

「だからそれでいいんです!!」

トモは今までに聞いた事が無いような大きな声で叫んだ。

「いいんです!!いいんです!!犯人なんて見つからなくてもいいんです!!私が死んじゃってもいいんです!!どうせ誰も悲しまないんです!!」

「お、おい。トモ何を言っているんだよ?」

「私は……私は……犯人を見つけたかったです。犯人を見つけて、自首を勧めて、そして、お兄ちゃんに認めてもらって……そうしたかったです」

「だから、犯人を見つければいいじゃないか」

「でも、でも……それ以上に友達が傷つくのは嫌なんです!!」

友達、傷つく?何を言っているんだ?トモは?

「私は、自分が傷つくのは我慢できると思ってました。自分が死ぬのは我慢できると思ってました。そう育てられてきましたから。でも、友達が出来て……友達が傷つくと考えたら……耐えられないんです!!そんなこと耐えられないんです!!」

「友達って……もしかして僕らのこと?」

コクリとトモが頷いた。

トモは……僕らを友達と認識していたのか?

友達……か。あぁ、その言葉久しぶりに聞いた気がする。

「今、今ここで引けば、私だけが死ぬことで終わるです。きっとこれ以上深入りをしなければ犯人は真君も、コッコちゃんも狙わないです。だから、だから……」

だから、犯人探しはもう止めよう、か。

今まであんなに張り切っていたトモの初めての諦めの言葉。

あんなに僕らを振り回したくせに……大した理由でもないのに、僕らを振り回したくせに……

僕らの身に危険が降りかかりそうだから、止めよう、か。

自分が死ぬというのに、止めよう、か。

「バカ」

「ふ、ふえ?」

「ここまで言わなきゃ、トモはわからないのか?全くトモはバカだとは思っていたけど、ここまでとは……」

「何なんですか!?それ!?バカじゃないです!私はバカじゃないです!!一生懸命考えて……」

「そんなこと考えている暇があるんだったら、犯人が誰なのか思い出していればいいんだ」

そう、トモにそんなことを考えている姿は似合わない。トモは適当に僕らを振り回していればいい。この数日間ずっとそうだっただろう。これからもそうしていればいい。

「そんなことって……」

「いいか、トモ。僕は一度しか言わないぜ。そもそも僕はそういうのが苦手だし、そんなものあるなんて信じていないんだ。せいぜいトモを励ますために嘘をついたと思ってくれ。そうじゃなきゃ言わないからな」

「……?」

「トモが僕らを友達と思っているように、僕だってトモを友達だと思っている」

「あ」

「友達が傷つくのを見るのはつらい。死んでしまうのはもっとつらい。僕は正直犯人を見つける事なんてどうでもいい。ただ、友達を助けるというんだったら……話は別だ。全力を尽くす。全力を尽くしてトモを助ける策を考える」

……恥ずかしい事を言ったな、僕。

ま、まあほとんどが嘘だからいいか。

「先に嘘とか言わないで下さいです。折角の感動のシーンなのに、泣けないじゃないですか」

と言うトモは、ちょっと涙目だった。

「そんなシーンはいらないだろ?僕らの間ではさ、いつも通りが続いていればそれでいい。そうだろ?」

「はい、です」

「さて、小鳥との約束の時間を少し過ぎてしまったけど、行こうか」

「はい、です!」

僕らは校門に向かって歩きだした。


校門には、既に小鳥が待っていた。

「ごめんな、小鳥。少し遅れた」

「ううん。そんなことより、木村先輩は見つかったの?」

「その事なんだけど……」

僕は、自分の推理と今までのヒントについて小鳥に話した。

「うーん、確かにそう考えると木村先輩は犯人じゃないかも」

「うん。それに僕らは木村先輩の住所を知らないしね。木村先輩を追うのは止めようと思う。それよりも僕が紙に書いたものをちゃんと買ってくれた?」

「あ、うん。コンビニに売ってたよ」

ビニール袋に入っていたそれを僕は確認した。

「うん。確かに」

「でも、マコちゃん?こんなものどうするの?」

「それはだな……」

『ヒントそのゴ。‘マスターはイガイと近くにいる’ダイヒントだぜ!ヒャハハハハ!!』

うん、今のが本当なら大ヒントになるね。

ただしこいつは三分の一嘘をつく。

もしかするとそのこと自体が嘘かもしれない。

「ま、真君」

「落ち着けよ、トモ。もう、ヒントに構っている場合じゃなくなった」

「え?今ヒントが出たの?何て言っていたの?」

「犯人は近くにいると。嘘かもしれないから、この際これは無視だ」

『ヒデエヨ、お兄さん。オレダケ仲間ハズレカイ?』

さてと、残り時間は十分。

やはり犯人を見つけるのは無理だったか……

まあでもここまでは想定内。全ては想定内。

「いいか、トモ、小鳥。これから僕の言うとおりに行動しろ。正確にはこれから僕が紙に書くとおりにだけどね」

僕はこれからの行動を紙に書いて二人に渡した。

そして行動に移った。


『ヒント六。‘マスターはオマエラガ調べていたトコロニいる’。最後のヒントだ。セイゼイ頑張ってサガシテクレ!ヒャハハハハハハハ!!』

トモと小鳥は走っていた。

残り時間が五分であることを知らせるファニーボムの声も気にせず、ただ目的地に向かって。

真の言うとおりであるならば、もう時間が無い。

トモの足を使えば、目的地に時間通りに着くことは容易いが、それでは意味がないのだ。あくまでトモと小鳥が一緒に目的地に辿り着くことが重要なのである。

「はぁ、はぁ……トモちゃん。ごめん。少し早いよ」

「何言ってるですか?このペースじゃ間に合わないですよ」

「そうは言われても。はぁ、はぁ」

五分近く走っているのだ。毎日ジョギングをしていたり、体育が得意ならまだしも、小鳥はジョギングをしていないし、体育も苦手だった。

家庭科の次に苦手な授業であった。ちなみにその次は美術である。

「でも、本当に……はぁ、はぁ……本当にあの場所に?」

「真君がそう言うんですから、そうなんです。私は真君を信じるです」

「む、そう言われると私がマコちゃんを信じていないみたい。わ、私も頑張る!頑張るんだよぉ!マコちゃん!!」

そう意気込む小鳥は周りの人から奇異の目で見られた。


トモと小鳥は目的地に着いた。そこは八重樫先生が死んだあの路地裏であった。

しかし、そこには誰の姿も無かった。トモと小鳥以外にはその空間に誰もいなかった。

「う、嘘?そんな」

「こ、ここに犯人がいるんじゃ無かったですか!?」

『ヒャハハハハハハハハ。残念ダッタなぁ、オジョウサン方。ここにマスターはイネエ。そして、もうジカンモ……』

「!コッコちゃん!?残り時間はどうです!?」

「えっと……一分無いです!!」

『オワリダヨ。オジョウサン方』

そして、ファニーボムは爆発した。


トモのお腹を中心に赤い液体が広がっていった。それは制服を汚し、そしてその後には、コンクリートの地面を汚していった。

トモは、倒れた。

「トモちゃん!!」

小鳥が倒れたトモに駆け寄った。

「大丈夫!?大丈夫!?トモちゃん!?」

「駄目、みたいです。へへへ……失敗、しちゃったですよ。私……」

「トモちゃん!喋っちゃ駄目!傷が!傷が!!」

「もう、手遅れですよ。この爆弾は命を落とすのに充分な威力ですから。もう長くないです」

「そ、そんな」

「こ、コッコちゃん……私達、私達は……友達です……よね?」

「うん!うん!」

「よかったです……私……最後にそれが聞けて……」

「トモちゃん?トモちゃん!!?」

そしてトモは目を瞑った。

赤い液体はまだ流れ続けていた。


おかしい?

これはおかしい?

俺のファニーボムはこんな威力ではないはずだ。こんな腹から血を流す程度の傷では済まないはずだ。

八重樫がそうだった。

八重樫の場合はその胴体がこの世から消滅するほどの威力だった。

それは間違いない。俺が今のように確認したんだから。

何であの女の場合はそうじゃない?

何であの女は胴体がなくならない?あんな綺麗な状態を保っているんだ?

おかしい。

これはおかしい。

俺はファニーボムの能力を確かに二度しか使っていない。

一度目は八重樫。二度目はあの女。だからもしかしたら個人差のようなものがあるのかもしれない。電気と同じように抵抗というものが存在するのかもしれない。

本当にそうか?

この違和感。本当にそうか?何かがおかしい。

そうだ、あいつ。

いつの間にかいなくなっていたあいつはどうしたんだ?

そもそも俺は、あいつを……

「おかしい、か?」

「!」

そいつの声は俺の背後から聞こえた。

ち、そうか……そういうことか。

「おかしいと思うのか?あの状況を?そりゃそうだよな?おかしな状況だよな?」

「な、何がおかしな状況なんだ?」

俺は振り向かないでとぼけた。

大丈夫だ。俺は見ていただけで、まだ奴には犯人とは気づかれていない。

「あれ?『何がおかしな状況なんだ』と言うのはおかしくないか?女の子がいきなり腹から血を流したんだぜ?その状況がおかしくないとはね」

「!」

しまった!こいつ、俺をはめやがった!!くそっ!!

「犯人はこの状況を見て思うはずだ。おかしい。八重樫先生の時はもっと威力があったはずだ。そうだよな。実際に僕は見たわけじゃないけど、見つかったのは頭と両手両足。とてもあの程度の傷で済むわけが無い。おかしいと犯人は思うわけだ。そう考える事でいっぱいで一般人がどう思考するかなんて考えられない」

「……」

「犯人を見つける方法は幾つか考えていたけど、時間制限があって手っ取り早いのは一つしかなかった。つまりは犯人に来てもらうこと。さらには犯人に自分が犯人ですと言ってもらうこと。後者まで言わせればパーフェクトと考えていたけど、まさかこれほどまでにうまくいくとはね」

「……」

「何とか言ってくれないかな?犯人さん……いや」

そうして、奴は……綾瀬真は言った。

「真鍋君」

「真壁拓哉だ。二度と間違えるな」

俺と綾瀬は対峙した。

八重樫殺しの犯人と、その解決役として。

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