犯人VS解決役 綾瀬真・風間智美・小宮山小鳥
俺とミコとの付き合い……それは十年なんてものじゃない。俺が物心つく頃にはその横にミコがいた。何でも親同士が知り合いで、小さい頃から(それこそ赤ん坊のころから)一緒に遊ばせていたんだとか。
そんなわけだからか、ミコと俺は物心がつく前から一緒にいた。一緒にいて遊んでいた。
何をして遊んでいたかなんて覚えていない。
ただ、ミコはいつも隣にいた。隣りにいていつも笑っていた。
たまに泣かしてしまうこともあったけれど、それもご愛嬌。その後俺も親に怒られて一緒に泣いていたことも少なくなかった。
だが、段々とミコの体調は悪くなっていった。
そのころの俺はミコが体調が悪くなる事についてよくわかっていなかった。
そうだな。せいぜいあいつと一緒に遊べなくてつまんねえ。それぐらいかな?
俺とミコは同じ幼稚園に入った。
その頃になるとミコの体調はますます優れず、あいつは幼稚園では友達が誰一人できなかった。
みんなが外で泥遊びに夢中になっている中で、俺とミコは園内で積み木をして遊んでいた事を覚えている。
俺だって泥遊びをしたかったさ。だけど、俺にはそれよりも大事なものがわかっていた。
ミコの笑顔。そっちを見るほうが俺にとっては重要だ。
今思い返すと、この時既に俺はミコのことが好きだったんだと思う。ただまだそんな言葉は知らなかったので、ただミコと一緒に……ずっと、一緒に居ただけだった。
ある日、ミコがいつものように積み木を積みながら、俺に訊ねた。
「ねえ……たくちゃんはいかなくていいの?」
「外に遊びにか?」
「うん」
「いいんだよ。別に。『きょうせいじゃない』ってお姉さんも言ってたし」
お姉さんとは、保育士のことだ。
「『きょうせい』ってなに?」
「うっ、ともかく!俺はミコと一緒に居ていいんだよ!そういうこと」
「そういうことなの?」
「そういうことなの!」
「たくちゃんは……ミコのそばにずっと居てくれるの」
「あぁ」
「えへへ……そうか」
そのミコの嬉しそうな笑顔を見て、何故か俺も嬉しくなったのを覚えている。
幼稚園同様に俺はミコと同じ小学校に入学した。
ここでもあいつは友達が出来ることは無かった。だけどいじめられていたわけじゃない。
そもそもミコはこの頃になると、学校を休みがちになっていったのだ。
ミコが来ない学校は、なんだか物足りなかった。
一年・二年・三年・四年と、運が悪いのか俺とミコは一緒のクラスになれなかった。
くそ!俺の学年は三クラスしかないのに。確率的におかしくないか?
だが、五年の時ようやく同じクラスになれた。
ミコはあまり学校に来なくなったけど、それでも俺は嬉しかった。
だけど五年の時、俺は親からわけがわからないことを言われた。
「拓哉……今からお話をするからちょっと、こっちに来なさい」
「なんだよ、母さん?」
別にこの間のテストは悪くなかったはずだ、と考えていた。悪いこともしていない。
「拓哉……ミコちゃんのことなんだけど」
「なに?もしかしてまた明日学校を休むの?」
「そんなことじゃないわよ。あなたも大きくなってきたから、私は言うのよ。ミコちゃんね、あなたより長く生きられないらしいの」
「……なんだよ、それ?」
意味がわからない?
母親がミコの病気のことについて、何か言っていたが正直耳に入っていなかった。
ミコが俺よりも早く死ぬ?
何で?何かあいつが悪いことをしたかよ?
俺とあいつで何か違うことがあったかよ?
わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。
何がなんだかわからない!
俺はその時はその事実を認められなかった。
俺とミコは同じ中学に入学した。
ミコは、もうほとんど学校に来なくなった。
入院することも少なくなくなった。
俺は毎日ミコに顔を合わせにいった。雨の日だって関係ない。毎日、毎日。
中学に入って、俺はようやく気付いた。
すこし遅いんじゃないかって思うが、そういう話題から遠ざかっていたので仕方がない。
俺は、ミコのことが好きだ。
中学三年の春、俺はミコに告白した。
屋上で夕陽をバックにロマンチックにとか言うわけでもなく、ミコの病室で何気なく。
「ミコ……俺、お前のこと好きだ」
「え?」
「付き合わないか?」
断られるとは思っていなかった。ミコと俺は長く時間を共にしているんだ。
俺がミコのことが好きなように、ミコも俺のことが好きであると、そう考えていた。
しかし、
「ごめんね、たくちゃん。私好きな人がいるの」
「は?」
ミコが何を言ったか、理解が出来なかった。
好きな人?バカな?
ミコにそんな時間は無かったはずだ。
ミコは確かに学校には行っていたが、それはもうわずかな時間と言っても過言ではない状況だった。
「……誰だよ?」
「え?」
「ミコの好きな奴って誰だよ?」
「えっと、好きって言うか……正確には気になる、なんだけど」
「……それで?」
「で、でも言うの恥ずかしいよ。いくら、たくちゃんでも」
「……連れてきてやるよ」
「え?」
「そいつをここに連れてきてやる。その様子じゃろくに話したこともないんだろ?そいつをここに連れてきてやるから、名前教えろよ」
どうせ、憧れか何かからくる恋心だろう?
そんなものなんて何分か話していくうちに、相手の嫌なところが見えすぐに崩れ去るに決まっている。
「ほ、本当に?でも、いいのかな?」
「俺に気を使っているのか?今更そんなもの使うなよ?……それでそいつの名前は?」
「うん……綾瀬真君って言うんだけど」
ミコの言っていた綾瀬真っていう奴は……良い印象は持たなかった。
暗い感じで、なんだろうな……ミコに似合わないって思った。
こんなやつの何がいいのか?ミコの神経を少し疑った。
それでもミコが気になると言うんだから、俺はそいつをミコの病室まで連れて行ってやった。
わざわざ、二人きりの空間まで作ってやって。
ふん。
あいつの内面を知れば、ミコだって幻滅するだろう。
あんな変な奴を好きになる奴なんていないだろう。そもそもそんな奴がいたら神経を疑うね。
………だが、あろうことか綾瀬真は楽しそうに病室から出て行った。
しかも、ミコがまた来てくれと言ったとか……
何だよ?それ?意味がわかんねえ!?
何であんな奴をもう一度呼ぼうとするんだよ?もうわかっただろ?あいつは変な奴だって、わかんねえのかよ!?ミコ!?
次の日の昼、綾瀬真を訪ねると案の定一人で座っていた。
奴の周りには誰も人が近づかない。そのことについて聞いてみると、なにやら自分からクラスメイトと距離をおいているとか言い出した。変な奴だ。正直好きになれん。
しばらくして、奴の幼馴染の小宮山とかいう女が現れた。
可愛い女の子であったが、奴同様に変な奴であった。お似合いと言えばお似合いだな。
その幼馴染の態度は明らかに綾瀬真に好意を持っているのに、この二人は付き合っていないという。
聞きたくは無かったが、綾瀬真に今日もミコのところに行くかどうか聞いたところ、また行くとかいいやがった。くそ!どうやらこいつミコのことが気に入ったらしい。気に喰わねえ。
そんなことを聞いたせいか、小宮山とかいう女も行くとか言い出して、よくわからない事態になっちまった。
でも小宮山とミコが仲良くなったことは良かったことだと思う。唯一の女の子の友達ができたんだ。それだけは感謝してもいい。
綾瀬真には感謝したくは無いが、小宮山という知り合いがいたことは……正直良かったと思ったよ。
俺は、段々とミコが幸せならそれでもいいか、と思うようになってきた。
あの日までは。
……あの日のことは許さない。
俺の、俺の大事なミコをあいつは泣かせやがった。
ミコがあいつを好きだということは、認めたくは無いがわかった。徐々に惹かれていっていることもわかった。
そして綾瀬真もそうだった。あいつもミコに惹かれていった。
それなのに、何故だ!?何故あいつはミコを……見捨てたんだ!?
許さない!絶対に許さない!
綾瀬真は絶対に許さない!
自分が八重樫先生を殺したと認めたマカベ君と、初めて目があった。
その目は、その眼差しは完全に憎悪のものであった。
「ふん。いつから俺が犯人だと気付いていた?」
「今だよ。それまでは本当にわからなかった」
何せマカベ君は何の証拠も残さなかったのだ。完全犯罪と言っても過言ではなかった犯罪。異常者の犯罪。
そんなもの、普通に調べてわかるものじゃない。
「まさか君が犯人だったとはね、マカベ君」
「意外か?」
「どうだろうね。意外かもしれないし、そうでないかもしれない」
「ふん。その物言い、相変わらずむかつくな」
「どうも」
そんな会話をしているうちにトモと小鳥が立ち上がり、こちらに近づいてきた。
「そうか……あいつらのも全て演技だった、というわけか」
「そういうこと」
僕は殺意を見ることが出来る。
そしてその特性も一目見れば大体わかる。『複製』できるのだから当然と言えば当然だ。
僕はあの後、トモから一瞬でファニーボムとかいう殺意を奪取し、そしてそのエネルギーを抜き取って再びトモに返した。
うーん。奪取って本当に便利な能力だね。まさかエネルギーまで奪取できるとはね。僕自身も驚きだ。
まあ、できるという確信はあったけれど。
この間約一秒。だからマカベ君も気がつかなかったのだろう。
そうして、僕はトモと小鳥に台本を渡した。
台本は先程トモと小鳥が行なった通りのことが書いてあった。つまりは犯人を騙すもの。
ちなみに、トモの血液は小鳥が買ってきたトマトジュースで代用しました。
さて、その間僕は別行動。と言っても、トモ達の背後から怪しい人物がいないか探るだけだったけど……
なかなか犯人はその姿を現さなかったけど、最後の最後に、本当に最後にその姿を現した。それが、マカベ君だった。
「そんな……マカベ君が犯人だったなんて」
小鳥は信じられないようだ。無理もない。
僕達の知っているマカベ君は短気ではあったが、人殺しをするような人物ではなかったからだ。
「どうして……」
「あー!!この人昼に真君を訪ねてきた人です!!」
小鳥の重要な質問シーンをトモが割って入った。
うん。やはりトモは空気が読めない子のようだ。
あれ?でも確か……
「昼間に僕を訪ねに来た人って、苅部君とか言う人じゃなかったっけ?」
「あ、小鳥間違えちゃったみたい」
「……」
「お、怒ってる?マコちゃん怒ってるかな?」
「いや……」
昨日会ったばかりなのに、名前を間違えられるマカベ君に少し同情しただけだ。
「……お前ら、俺の名前を覚える気がないだろ?」
「そんなことないよ、マカベ君」
「だから!何で片言なんだよ!?」
「いやだなぁ、マカベ君。気のせいだよ、気のせい。そもそも君は被害妄想が強すぎると思うんだ」
「あいかわらず、むかつくな」
マカベ君の殺意が……こちらを向いた。
……ふん。そうか、そういうことか。
「……どうして八重樫先生を殺した?」
僕は、小鳥がしたかったであろう質問をマカベ君にぶつけた。
「はぁ?どうして、だと?お前、何かすることにいちいち理由がなければいけないのか?道を歩くのに理由がいるのか?テレビを見ることにいちいち理由が要るのか?」
「道を歩くのは目的地に向かうため、もしくは散歩のため。テレビは娯楽のために見る、だろ?」
「はっ!口の減らない奴だぜ!なら理由はそうだな……むかついたからだ!あいつはいつも態度がでかくて、大して頭も良くないくせに威張っていたからな。正直うざかった。だから殺した」
「……」
そう応えるか。あくまでもそういう態度で応えるか。
まあ、いいさ。そっちがその気なら、こっちもそれに応えるまでだ。
「マカベ君、人を殺すことがどういうことかわかっている?」
「ふん。わかっていなければ殺しはしない」
「自首する気は?」
「そんなものがあったら、最初から八重樫を殺していないし……貴様らにだって手は出さなかったぜ」
「そう……」
僕は残念そうに言った。実際は何も思ってはいなかったが。
「トモ……」
「はい」
「行こうか」
「はい」
僕はマカベ君から距離をとり、トモの横に並んだ。
トモは切択剣を具現化させ、構えた。戦闘はやはり、僕らでは最強のトモに任せるのが一番だ。
「へえ。そっちの女の子も変な能力を持っているのか?」
「あなたの能力はわかっているです。ファニーボムとかいうのは触れられなければ設置されることはないですし、またキーワードを言わなければ作動はしないです。つまり、あなたはこのような接近戦は苦手なんですね。それでも、まだ自首はしないんですか?」
お、トモにしては珍しく難しいことを言っている。敵の能力とか分析してしまっている。
……しかし、トモのその分析は間違いだ。
トモには見えない。殺意が見えない。
自分の具現化した殺意なら見る事は可能だが、相手の殺意は見ることが出来ない。
だから、わからない。
僕は、見てわかった。
「何か、勘違いしてないか?」
ファニーボムは彼の能力の一部だと。
……正確には彼の殺意から作られたものであると。
マカベ君の手にそれが集まっていき、形を作る。
僕の複製に似ていると思った。
そしてそれは具現化した。
「俺の能力は『火薬庫』。ファニーボムは俺の能力の一部に過ぎない」
マカベ君は具現化した爆弾を僕らに投げつけた。
その生成された爆弾を一目見て僕はわかった。
ファニーボムほどの威力は無いにせよ、あの爆弾は僕らに重傷を与えるのに充分な威力であると。
その爆弾が……僕らに向かって投げられた。
その爆弾の対処方法を……僕は何も考えていなかった。
あ、やられる。
そう思った瞬間トモが僕らの前に飛び出した。
「トモ!?」
「真君達は後ろで丸くなっててくださいです!!」
丸くなっていろって、亀みたいにか?
それは格好悪いのだけど、そんなことを言っていられるような状況ではない。
トモにはきっと何か策があるのだから、僕らに亀のように丸くなっていろと言ったのだろう。
というわけで、僕と小鳥は言われた通り、トモの後ろでしゃがんで亀のように丸くなった。
しかし、トモはいったいあの爆弾をどうする気だ?
トモがあの自信満々な態度なのだから大丈夫だと思うのだが……いや、大丈夫なのだろうか?
僕の心配は無駄に終わった。
トモは自分の持っている馬鹿でかい剣を盾にした。
ドカーン。
そして聞こえる爆音。
……僕らが生きていて、トモも何も変わらず立っているということは、どうやら僕らは無事に爆弾の攻撃を防ぐことに成功したらしい。
「大丈夫ですか、真君?」
「あぁ、何とかね」
トモの剣が馬鹿でかいおかげで助かった。
今の様子じゃ、どうやらその盾で完全に爆発を防ぐことが可能のようだ。
立っても平気だな。
トモがその盾にしていた馬鹿でかい剣を手に取った。
行く気だ。
僕としては、もう少し穏便に済ませたかったのだけど……マカベ君にその気は無いようだし致し方ない。
トモは僕がやり合った中で最強の異常者だ(トモとしかやり合ってないけど)。
マカベ君の爆弾も確かに怖いけど、トモのあの異常な身体能力プラス馬鹿でかい剣に比べれば大したことはない。
トモなら大丈夫だ。大丈夫だ。
トモが地を駆けようとした。
その駆ける様子は疾風のごとく。その小さな身体から繰り出される攻撃は火のごとく。
トモの身体が、地を駆けるために前屈みになった。
そこで、僕はようやく、マカベ君の表情に気がついた。
マカベ君は今の攻撃を防がれたのにも関わらず、笑っていた。
今からトモが攻撃に行こうとしているのに笑っていた。
何で、笑っている?トモが怖くないのか?トモの攻撃が怖くないのか?トモがちびっこだからか?
違う!あれはそういう笑みじゃない!
あれは……あの笑みは人を陥れる時にでる笑みだ。
例えるなら、ババ抜きで相手にババを取らせた時の笑み。
つまり、マカベ君は何か策を、罠を仕掛けている?
僕はマカベ君の周囲を、そして僕達の周囲の様子を見た。
そして、それを見つけた。
「トモ待て!」
「あ、あわわ、わわわわ」
トモは駆け出そうとしていたところを止められたため、バランスを崩してこけそうになった。
「あ、すまん」
「もう!何なんですか!?またいきなり止めないで下さいよ!」
「トモ行くな、地面に、壁に……四方八方に地雷みたいのが仕掛けられている」
「へ?」
非常に見難く隠しているが、確かにそれは存在した。
「ち、ばれたか。わかりにくく生成したっていうのによ」
そう言いながらもマカベ君は次の爆弾を生成していた。
……どうやら彼は話しながらも仕事を怠らないタイプのようだ。
働きすぎだよ、日本人は。
「まあわかったところで、この地雷の山をかいくぐるのは不可能だろうがな!」
マカベ君は生成した爆弾を投げた。
あれから数分経った今も人が集まってこないということは、ファニーボム同様にそれは僕らにしか見えないし、聞こえない爆弾らしい。つまり殺そうとする対象とマカベ君だけがそれを感知することが出来るようだ。
そして同じように壁などに傷跡が残らないところを見ると、その威力は僕らにだけ及ぶようだ。
『火薬庫』と言っていたか、マカベ君は。
なるほど、人殺しには便利な能力だ。簡単に完全犯罪ができる。推理小説も真っ青だ。
マカベ君の殺意の形……それは袋であった。一見すると何がなんだかわからないが。あの中に火薬が入っているのだろう。
激情なマカベ君らしいといえばらしいが……
さて、真壁君が攻撃をしてきて既に数分が経過してどうなったかというと、どうにもなっていなかった。
トモの馬鹿でかい剣が盾となって爆発を防いでくれたため、僕らに傷はひとつとしてなかった。
しかしマカベ君も攻撃の手を休めることがなく、今でも攻撃が続いていて……つまり僕らは防戦一方であった。
攻撃に移ろうにも移れない。
トモが防御をしなければ僕と小鳥がやられる、ということもあるのだけれど、それ以外にもマカベ君が四方八方に地雷を仕掛けているため下手に近づけないという理由もあった。
本当に四方八方だ。
地面、壁、天井はこの空間に存在しないから設置されていないが、ともかくこれではマカベ君に近づくことは不可能だ。
「ふん、どうした!攻めて来なければ俺は捕まえられないぜ!?」
マカベ君はこの状況を利用して僕らから逃げられることもできるのに、それをしなかった。
どうやら確実にここで僕らを始末するつもりのようだ。
「しかし、この状況……簡単には攻められないしねぇ」
「何弱気なことを言っているんですか!?確かにピンチな感じですけど、きっと突破口はあるですよ!」
突破口ねぇ……
僕の考えにそれはあるにはあるのだけど、実行はしたくなかった。
怖いし。
ドカーン。
マカベ君が爆弾を投げてきたようで、再び爆音が響いた(僕らにしか聞こえないけど)。
「トモ……お前の超高速移動でなんとか倒してくれ」
「無理ですよ。確かに爆弾生成までの時間で距離を詰めることはできるですけど、その移動の間にいくつもの地雷が設置されてるですから。踏まないで近づく自信はないですよ」
「だよなぁ。僕の眼が正しければ、あれで人は吹っ飛ぶからな」
ファニーボムほどの威力はないように見えるが、それでも威力は充分にあるようだ。
その地雷の山を越えて行けるわけがない。
ドカーン。
「トモ、お前の洗濯剣で地雷を切るというのは?」
切りたいものが切れるというんだったら、具現化してある地雷の真管を切れば爆発しないで行けるんじゃないだろうか?
「無理ですぅ。大体地雷がいくつあると思ってるですか?目標を定めて切ろうとしている間に生成した爆弾にやられちゃうです」
「その間だけ瞬間ガードは?」
「そんな器用なこと出来ないです。というか、それだったらいくら経っても前には進めないですよ」
確かに。
目標を定める→切ろうとする→爆弾が来る→瞬間ガード→地雷を切っていないから目標を再び定める……だからなぁ。いくら時間を費やしてもその繰り返しで、地雷を切るまでには至らないわけだ。
他にいい案は?
……うーん。
ドカーン。
「トモ、投降するっていうのは?」
「却下です!真面目に考えてください!」
怒られてしまった。冗談なのに。
普段の行いが悪いから、どうやらトモは冗談に思ってくれなかったようだ。
以後気をつけよう。
さて、そろそろ決断の時か。
余裕が無くなってきたからな。
あ、僕らがじゃないぞ。マカベ君がだ。
これだけ攻撃を繰り出しているのに仕留めきれない。このまま続けていけば消耗戦となり、その場合不利になるのはマカベ君だ。
僕らは剣を盾にしてガードしていればいいけれど、マカベ君は爆弾を作り出し、それを投げているのだ。いつかは疲れをみせる。その疲れを見せたら、僕らはそこをつけばマカベ君を倒せるかも知れないけれど……そろそろマカベ君は気付くだろう。
どちらが不利になっていくかを。
そうなれば彼は逃げ出すかもしれない。地雷を設置しながら逃げ出すことは、おそらく容易に出来るだろう。
逃げ出す前に、捕まえるしかないか。
「……よし、トモ。そろそろ真面目に作戦を実行させようか?」
「いままで真面目じゃなかったですか!?」
「いや、真面目だったけど……あんまり僕がリスクを背負いたくないなぁと思っていたり……とそんなことを言っている場合じゃない。リスクとかリターンとかそんなことより今は彼を取り押さえることだけを考えることにしたよ」
「最初から考えてください、です!」
「まあまあ。ところでトモ、確認だけどその洗濯剣はもしかして出している間は身体能力が上がるのか?」
この間複製した時に力がみなぎる感じがしたので間違いはないと思うのだけど、念のため確認だ。
「そうですよ。この前真君と戦った時のようにできるです。あ、でもちゃんと身体を作ってないとその過激な運動に耐え切れないですよ」
……ちょっと、いや激しく不安になってきたが、仕方がない。
他に方法が思い浮かばないのだから。
いや、トモと僕の立場を逆にすればそれはそれでうまく行くのだけど、その場合は結果が非常にまずいことになる。
おそらく後味が悪い結果になる。
これは僕が決着をつけなければならない問題だ。
「トモ、今から作戦を言う。あまりやりたくはないけれど、これ以外思い浮かばないから仕方ないね」
爆音轟く中、僕はトモに作戦を話した。
今回の作戦を説明するとこんな感じだ。
まず、マカベ君の爆弾攻撃の終わりの瞬間を待つ。そうしたらトモの洗濯剣の上に僕が乗り、トモがそれを思いっきり振って、僕は上空へと飛ばされマカベ君に近づく。
それでマカベ君の殺意を取って一件落着。
上空には地雷は設置されていないから、マカベ君に近づくにはこれしかなかった。
……あぁ、成功するか?この作戦?
トモが投げるのを失敗して、僕が地雷の方に飛ばされたら?
最悪だね、それ。
これはトモの腕に賭けるしかないな。
「真君……でも着地の衝撃に、多分身体が耐えられないですよ」
「そこでトモの洗濯剣を『複製』する」
「切択剣です!」
そうすれば身体能力が強化され、まあ着地の衝撃ぐらいは耐えられるかと思った。
「うーん、でもベースの身体がしっかりしてないと……どうなるかわからないですよ」
「わからないのか?」
「わからないのです」
「じゃあ、その辺は賭けだな」
……やけに運任せの要素が高い作戦だが、それしか考え付かなかったのだから仕方ない。
僕らの低い知能じゃこの程度の作戦が関の山なのだ。
「このまま状況が変化しないと、多分マカベ君は逃げると思うんだ。だから、次の爆発の後に、行くぞ」
「え?ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?早い、早いです!」
ドカーン。
「行くぞ、トモ!」
「あ、もう!どうなっても知らないです!」
トモは剣の盾を解除した。そして僕が乗れるように剣を地面に水平にした。
僕はすぐにそれの上に乗って…………
打ち上げられた。
流石トモ。人一人など簡単にその腕力で吹っ飛ばせることが確認できた。
人間業じゃない。これが異常者、か。
「な?」
マカベ君の顔が驚きの表情に変わる。
あんな小さなトモが実は怪力少女などとは想像がつかなかっただろう。
「あ」
トモの口からそんな言葉が漏れた。
ん?何かトモに不備があったのか。
うまく上に飛んでいるのだけど。壁や地雷に当たることなく上に、上に、上に、上に……
って!飛ばしすぎだ!
僕の身体は既に上空五メートルほどの高さを飛んでいた。
それでもまだ上に飛ぶ。
あれ?僕の作戦的には、マカベ君のちょっと頭上に打ち上げてくれれば良かったのだけど、これは飛ばしすぎだ。
これじゃあ僕が飛んでいる間にマカベ君が『火薬庫』で爆弾を生成してしまう。というか、していた。
「あはは!ちょっと、驚いたけどよ!お前らバカだろ!その高さから落ちれば当然助からないよな!」
うん、普通なら助からないな。
でもそれは身体能力のアップで何とか……なるのか!これ!
いや、その前にマカベ君の……
「でもよ、俺は慈悲深いから……」
爆弾が……
「その前に殺してやるよ!!」
来る!!
僕は……
マカベ君は……
トモの殺意である切択剣を……
生成した爆弾を……
『複製』した。
僕に向かって……投げた。
ぎりぎり、本当にぎりぎり、マカベ君がそれを投げる前に僕はトモの殺意を『複製』した。
「な!?」
再びマカベ君の驚きの声。
マカベ君は知らなかったのだ。僕が異常者であることを。
そしてマカベ君は知った。
僕がその剣を用いてその爆弾から身を守れることを。
僕は先程のトモと同じようにその馬鹿でかい剣を盾にした。
そして……
ドカーン。
盾で衝撃は防げたが、振動は僕の身体にも伝わった。
だが、防げた。
特に、外傷は、無い!
よし!作戦続行可能!
マカベ君はまだ状況が整理できていない。
こちらを見たまま動かない。惚けたように動かない。
僕はもう落下中。マカベ君との距離は……もう無い!
僕はマカベ君のその殺意を、火薬が入っている袋型の殺意を、今まであれだけ防戦一方だったのにまたやけに簡単に、取った。
「え?な!?」
「終わりだよ、マカベ君」
そして僕はマカベ君の背後に着地した。
考えられない手段で、奴は俺の背後に飛び降りてきた。
信じられん!あの高さから落ちて全く無傷だと!?
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。奴が近づいてきたということを逆に好機と取るべきだ。
俺の『火薬庫』は爆発の威力を対象だけに与えることが可能だ。
よってこの近距離から俺が爆弾を奴にぶつけたとしても、俺に被害が及ぶことは無い。
この距離なら奴も逃げられまい。
俺は爆弾を生成しようと……できない!?
爆弾の生成ができない!?いや、違う。できないのもあるが……これはしたくないんだ。
奴を殺したいという気持ちが、さっきまで存在した殺意が無いんだ。
どういう、ことだ?
そういえば奴は「終わりだ」と言っていた。
奴が、何か、した?
「……マカベ君」
奴が相変わらずの片言で俺に語りかけた。
……やめろ。
そんな目で俺を見るな。
俺は、俺は……俺は人殺しだ。
自分の意思で、八重樫を殺した人殺しだ。
それはお前はわかっているんだろ?知っているんだろ?
なら、どうして、そんな目をする。
お前は真相を知っていないし、わかっていないんだろ?
それだというのに……何故俺に憐れみの目を向けて来るんだよ!?
やめろ。やめろ!
俺は後悔していない。八重樫を殺したことを後悔していない。
「君は……どうして、八重樫先生を殺したんだ?」
そんなこと……そんなことは貴様に関係ないだろ!!
何も知らないくせに!何もわかってないくせに!
「さっき言ったとおりだ!むかついたからだよ!!」
「……そう。あくまで自分の意思で殺したと。そう言うのか?」
「そうだよ!!」
俺は後悔していない。八重樫を殺したことを後悔していない。
綾瀬を殺そうとしたことも後悔していない。綾瀬の仲間を殺そうとしたことも後悔していない。
「後悔していないと?」
「後悔?そんなものするはずが無い!俺は何も後悔していない!八重樫を殺したことも後悔していないし、お前を殺そうとしたことも後悔していない!その女に爆弾を取り付けたことも後悔していない!何も、後悔していない!」
「そうだね、君はそんなことに後悔していない」
「何を!?」
何を知ったふうに!?何も知らないくせに!何もわかってないくせに!
お前が何を知っているというんだ!!
「俺は何にも後悔などしていない!ぶっ殺すぞ!!」
「そんな気はないんだろ?」
確かにこいつの言うとおり殺す気なんてない。
どういうわけか知らないが、こんなにむかつくことを言われているのに殺す気がおきない。
「さて、行こうか。トモ、小鳥」
「な!?」
こいつ!!俺を捕まえないのか!?俺が、どういうわけか無力になったというのに、捕まえないのか!?
「ま、真君!!彼を捕まえなくていいですか!?」
「そうだね。今なら捕まえることも可能だけど、でも彼が犯人だという証明は出来ないからね」
「え、だ、だって自分で八重樫先生を殺した犯人と……」
「もしかしたら、真犯人にそう言われているだけかもしれない。殺したのは彼だけど、それを指示したのは別の人物かもしれない」
「え、でも殺した犯人は……」
「彼だね。だけどさ、トモのお兄さんはこの事件を解決することを条件にしたんだろ?犯人を捕まえることを条件にしたわけじゃないんだろ?」
「えっと……確かそうですけど」
「それなら、この事件はもう解決した。彼の殺意は僕が預かったから、これでもう事件は起きないよ」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
何だこいつらは?それで納得するのか!?それで納得して、俺を許すというのか!?
「さて、マカベ君」
「な、何だよ」
「今言ったとおり、僕らはもう帰るから」
「……」
「だから聞くよ。君はどうして八重樫先生を殺したんだ?」
「……」
「君は後悔していないのか?」
「……」
「それは、本当は誰も望んでいなかったんじゃないのか?」
「……」
「君は何のために動いたんだ?」
「……」
「マカベ君……君が僕のことをどう思っているかなんて知らない。どうして僕に殺意を抱いたなんて、正直興味がない。そして、それは八重樫先生のケースでも同じだ。君がどういう経緯で八重樫先生に殺意を持ったかなんてどうでもいい。そして僕を殺そうとするのも別にいい。八重樫先生を殺した事だって別にどうでもいい」
「……」
「だけどね、僕の友達を殺そうとしたことは許さない。僕の周囲の人間を殺そうとすることを僕は許せないんだよ」
「……」
「僕は君を許さない」
「……」
「君は君を許すのか?」
「……」
「関係のない人を巻き込もうとした自分を許すのか?」
「……」
「彼女はそんなことを望んでいたのか?」
「……」
「それじゃあ僕は行くよ。これから君がどうしようと僕は興味は無い。生きたければ生きればいいし、彼女の後を追いたければ追えばいい。どうでもいい。ただね、最後にもう一度だけ聞くよ」
「……」
「君は、本当に後悔して無いと言うのかい?」
「……」
「それじゃあね、マカベ君」
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