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魔境行商編第2話 邂逅“魔女の葬儀屋”

 魔女の葬儀屋が住む山、通称“はげ山”。その名の通り草木の生えない山だ。

 けれど、山から熱い力の源を感じる。純粋な火属性の魔力、火山のマグマだろうか。


 けれど、それよりも。


「どうした、ソフィ。何度も同じ方向を見ているが、ノトス大山脈が気になるのか?」


 高くそびえる山々に目を向けていると、ヴェラットに声をかけられた。


「そんな名前があるの?」

「あぁ、山の向こうにある神聖国の言葉で『南』を意味する」

「……あの山から膨大な魔力を感じる。人間にはどう頑張っても到達できない圧倒的魔力量。谷の魔女や森の魔女に匹敵する」

「……魔女がいるということか」


 低い声で言ったヴェラットに、私は頷く。こんな常識外れの魔力持ちは魔女以外にありえない。


「こんな莫大な魔力を持った人が感知できる範囲内にいるのに、この山に住んでいる魔女は気にならないの? 私だったら相手に害がないとわかるまで、落ち着いて眠ることもできない」

「……気になるのであれば、本人に直接確かめるとよい」


 ヴェラットの視線を追うと、開けた場所に複数の洞穴が見えた。その中の一つからノトス大山脈の魔女ほどではないけれど、魔女であることは間違いない魔力を感知する。それから、魔女の気配も。


「誰だ?」


 私が感知できたのだから、相手も気づいて当然だ。私が見ていた洞穴から一人の女が出てきた。

 赤い髪だ。内に秘めた魔力が常に燃えている。ここまで火属性の割合が高い魔力は初めて視た。

 見た目はエマ達とそれほど変わらない年頃に見えるけれど、魔女は若い姿のまま何百年も生きるから当てにならない。


「お久し振りです、魔女の葬儀屋様」


 私と赤髪の魔女が見つめ合うなか、すっと一歩前に出たのはシモンだ。赤髪の魔女の顔が彼に向く。


「なんだ、いつもの行商人か。いつの間に魔女を護衛にするようになったんだ?」

「え、魔女を護衛にですか? そんな恐れ多いことできませんよ。こちらは上級冒険者『狼の集い』の皆さんです」

「だから、その中に魔女が混ざってると言ってるんだ」

「へっ?」


 どうやらシモンは私が魔女だと気づいてなかったようだ。何度も私と赤髪の魔女を見比べる。

 私から自己紹介した方がいいだろうか。


「初めまして。私はソフィ、十五歳。知っての通り魔女。二つ名はない」

「私は魔女の葬儀屋だが……魔女に名を明かすと操られるという噂、知らないのか? 知り合ったばかりの魔女に軽々と名を明かすな」

「……初めて聞いた」


 というより、明かす前から相手が知っていることが多かったので、こうして自己紹介するのはあまりないことなのだ。


「……まあいい、私にそんな力はないからな。私にできるのは何かを燃やすことだけだ」

「魔力感知は?」

「無理だな。……そんなことを聞くということは、あんたは感知できるんだな、あの魔力を?」

「ん」


 私はこくりと頷く。魔女の葬儀屋は魔力感知ができないことをあまり気にしてないのか、魔力に揺らぎはなかった。


「魔力に敏感な奴は『よくこんなところで暮らせるね』と言ってくるが、鈍感な私からすれば何も感じないのは存在しないのと同義だ。百年以上ここに住んでいて一度も襲われることがなかったから、気にする必要はない」


 無視すればいいと言う魔女の葬儀屋。

 百年以上って言わなかった? とエマが小さく呟く。


「魔女の葬儀屋は……」

「葬儀屋でいい、長いからな」

「……葬儀屋は骨も灰も残さずに魔女を弔うと聞いた。私も火魔法を使えるけれど、そんなことはできない。どんな力なの?」

「私としては何かを残す方が難しいんだがな……人の身体は脆すぎる」


 そう言えるのは、彼女が強い魔女である証だろう。

 国外に追放された魔女はやはり生きる世界が違うのだと思い知らされる。私は魔女の世界で生き抜くことは無理に違いない。


「……依頼が一件入ってるから、ついてくるか? そこで私の魔法を見せてやろう」

「依頼?」

「魔女の葬儀だ」


 葬儀屋の魔法を見せてもらえるということで、私達は山を降りて近くの集落に行った。魔女の疑いをかけられ、国外に追放された人達が集まってできた村らしい。

 私達に気づいた人達が集まってくる。


「葬儀屋様、いらしてくださったんですね」

「当然だ。亡くなった魔女はどこだ?」

「こちらです」


 村人に案内され、共同墓地へ。石碑の中に地面に埋められていない棺桶が一つあった。


「魔女の身体の一部が薬になると考える馬鹿が一定数いる。そんな奴らに利用されないよう、私は亡くなった魔女を弔うことにした。それが葬儀屋の始まりだ」


 お前らは墓地に入るな、と葬儀屋一人で棺桶に近づく。追いかけようとしたけれど、商人シモンが伸ばした手に遮られる。


「魔女の葬儀屋様の言うことに従った方がいいですよぉ。あの方、周りのものを巻き込む恐れがありますので。この距離でも危ないくらいです」

「……お前のことも燃やしてやろうか」


 葬儀屋の冗談とは思えない声に息を呑んだけれど、シモンは怯えた様子を見せずに「ほら、下がりましょう」と墓から数歩離れるよう促した。


 私達が十分に離れたことを確認した魔女の葬儀屋が棺桶の側に跪く。棺桶の蓋を優しく撫でて、手をかざした。


「安らかに眠ってくれ……燃えろ」


 柔らかい表情と声で彼女の手から出たのは青い炎だ。

 青い炎は棺桶を包み込み、ひとりでに消える。棺桶があったところには何も残っていなかった。


 葬儀屋が立ち上がり、こちらを振り返る。柔らかい表情は亡くなった魔女にしか向けないようで、振り返ったときには仏頂面をしていた。


「これが私の魔法だ」

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