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魔境行商編第1話 国を発って

「あれ、もしかして海!?」


 魔女を相手に商売する闇商人シモンを先頭に、私達「狼の集い」は王国を抜け出し道なき道を進んでいる。

 休憩を挟みながら何日か歩き続けていたら、右側に青い海が広がっていた。


「あぁ、そういえば皆さんはフリートベルクに行ったことがあるんでしたよねぇ」

「うん、とっても大きな港街だったよ! フリートベルクを発ってからまだ一、二か月しか経ってないけど、久し振りに海を見た気がするなぁ」


 海を懐かしんではしゃいでいるのはエマだ。この旅が始まったのも、元を辿れば彼女の提案がきっかけだ。


 ――みんなで海に行こうよ!


 そこから私達は港街に行き、拠点の王都に戻り、再び旅に出た。

 今度の目的地は魔の森――私の育て親で、エマに魔法を教えた“まじょさん”こと森の魔女が住む地だ。


 国外追放された魔女に会ってはならないし、国外に行くことすら禁じられている。

 それでも、私達は危険を覚悟で会いに行くのだ。様々な理由を胸の内に秘めて。


 けれど、闇商人シモンの護衛依頼を引き受けたから、彼の行動が優先される。

 国の外側――魔境に散らばる魔女に食料品や日用品など生活に欠かせないものを売るのが彼の仕事だ。森の魔女相手にも商売するけれど、それは一番最後と言っていた。


「ところで、炎の魔女さんの話を歩きながら聞かせてくれるんじゃなかったっけ?」


 海から進行方向に意識を戻したエマがそう話題を振る。出国前に訪れた辺境の村で聞いた話だ。


「ワタクシは守秘義務がありますので、ヴェラットの旦那、お任せしてよろしいですか?」

「あぁ。……とはいえ、俺もさほど詳しくはないが」


 顧客の情報は流せない、とシモンがヴェラットに託した。


「骨も灰も残さずに魔女を弔う赤髪の魔女がいた。生者を焼く黒い炎と死者を弔う青い炎、様々な炎を操る彼女は『魔女の葬儀屋』と呼ばれている」


 骨も灰も残さずに燃やす。それがどれだけ凄いことなのか、一応火魔法を使える私には理解できた。

 少なくとも今の私にはできないことだ。土魔法と違って手加減が難しいから、怖くて人に向けることすらできないけれど。


 カイが首を傾げて尋ねる。


「葬式は遺体を土に埋めるものですよね?」

「火葬、という文化が他国にはあるらしい。もっとも、それは遺骨と遺灰を埋めるものだから葬儀屋のやり方と違うが。恐らく魔女という生き物は骨の一部、灰の一粒残すことすら許されないのだろう」


 加減ができないだけかもしれぬが、とヴェラットが付け加えた。


「魔女なのにどうして赤い髪をしてるの?」

「これは魔女に限った話ではないが、特定の属性を極めて多く有する者は、属性の色が髪や目に表れると聞いたことがある。赤髪だから、よほど火属性に高い適性を持っているのではないか?」

「オレも赤い髪だぜ! 炎、出せるんか?」


 レオが自分の髪を指差してにかっと笑う。ヴェラットはレオをじっと見つめて、首を横に振った。


「レオの髪色は遺伝ではないか? 母親と同じ髪色であろう?」

「いでん? あぁ、母ちゃんも赤毛だぜ! 最近知ったことだけどな」

「だが、孤児院が燃えても死ななかったのだから、火属性に適性があるのは事実だろう。どの属性が多く含まれるかは、ソフィの方が見分けやすいだろうが」


 そう言いながらちらりと視線を向けられたので、私もレオを見つめることにする。


「燃え盛るような炎。見ているだけで熱く感じる。レオの適性は火」

「やっぱりそうなんだな! 火、出せるんか?」

「それは無理。魔力不足」

「ちぇっ」


 残念そうなレオと入れ替わるように、エマが視界に入ってきた。


「ねぇ、ソフィ! あたしはどんな風に見えるの?」

「清らかに流れる川。穏やかで綺麗。エマの適性は水」

「あたしの魔力って清らかで綺麗なんだ。なんだか嬉しい!」


 ありがとう! とエマが手を振りながら持ち場へ戻る。次に話しかけてきたのはカイだ。


「ちなみに僕はどの属性に適性があるんだい?」

「水。一切の揺らぎがない穏やかな水面。冷静な印象を受ける」

「へぇ、同じ水でも印象が違うんだね」


 関心した様子のカイの横で「だから魔力だけで人物を特定できるのか」とヴェラットがぼそりと呟く。

 そんな彼の魔力も視ようと、私が一歩近づくとはっとして距離を取られた。


「何で逃げるの?」

「俺の魔力は視なくてもよい」

「そう」


 ただでさえ魔力をほとんど感じないのに、ヴェラットは蓋をするように完全に隠してしまう。そこまでされたらくっつく距離まで近づかないと魔力を見極めることができないので諦めた。


「ソフィさん、でしたっけ? ワタクシの魔力もご覧になりますか?」


 前方を歩くシモンからそう提案された。

 確かに彼の魔力を意識して覚えようとはしていない。どんな色をしているのだろうかと、私はシモンをじっと見つめた。


「……混沌」

「えっ?」

「様々な属性が入り混じってどれが一番多いかわからない。光がないのは確か。強いて言えば闇?」


 火も水も風も土も感じる。雷も微量に含まれるだろうか。ほとんど同じくらいに思えるけれど、闇がほんの少し多いような気がする。

 他の人も雑多な魔力を持っているけれど、ここまで複雑に絡み合っているのは珍しい。


「闇、ですか。魔女と商売をするワタクシにぴったりの属性かもしれませんねぇ。魔女は誰しも闇属性を持つものですから」


 全ての始まり、災厄の魔女は闇属性に適性を持つ。少なからずその血が流れている私も、ひょっとしたら闇魔法を使えるかもしれない。


「雑談している間に到着しましたよぉ。こちらが最初のお客様、魔女の葬儀屋がいらっしゃる地です」


 シモンが手で指し示したのは、高くそびえる山々……ではなく、その手前にある低い山だった。

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