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東街道編第9話 闇商人シモン

「ご無沙汰してますねぇ、ヴェラットの旦那。そして初めまして、狼の集いの方々。ワタクシはシモン、魔女相手に商売をする闇商人でございます」


 指定された路地裏に行くと、ボロボロになった黒の外套に猫背、自ら闇商人と名乗る男がいた。


「初めまして、上級冒険者パーティー『狼の集い』のリーダー、カイです。えっと、魔女相手に商売というのは……」

「国外追放された魔女が国内のお店になんて行けないでしょう? 弟子などに頼むのも一つの手ですが、魔境を練り歩く商人がいた方が便利かと思った次第です」


 確かに彼の言う通りかもしれないけれど、国外追放された魔女の中には谷の魔女のように問答無用で襲ってくる人もいるから、自殺行為としか思えない。

 私達が魔の森に行こうとするのも、周囲からは似たようなものに見えているかもしれないけれど。


「……このように変人だが、悪い奴ではない。護衛依頼をしっかりこなせば、俺達がどこへ行こうが感知しないそうだ」

「魔女の領域に入るときの護衛をお願いしますよ。領域さえ出れればワタクシ一人で帰れますから」

「俺達は魔の森へ行きたい。こいつは魔の森を含めた複数の地で商売すれば、自力で国に帰れる。これ以上条件に合致した依頼はなかろう?」


 確かに私達にとっても都合のいい話だ。けれど、そんな話ほど裏があるのではないかと疑ってしまう。


「魔物は魔除けの香水があれば何とかなりますけど、魔女の機嫌を損ねればそこで終わりですからねぇ。腕の立つ冒険者を護衛にしたいんですよ」

「ま、魔女を相手に!? 無理だよ!」

「おや? あなた方も魔女に会いに行くのでは? 命のやり取りが怖いなら、魔境に行くのも辞めた方がよろしいですよぉ」

「うっ」


 依頼主を魔女から守ることなどできないに決まっているけれど、海を目指す旅より過酷なものになることは出発前からわかっていたことだ。

 それに、シモンが何度も魔女相手に商売して無事に生還しているのなら、それほど危険ではないのかもしれない。私達冒険者を囮に逃げたのなら別だけれど。


「魔境行きは命がいくらあっても足りませんからねぇ。お仲間さんと対話して依頼を引き受けるか決めてくださいよ。じゃ、ワタクシはお先に」


 そう言ったシモンは薄暗い路地裏に姿を消した。

 私達は宿屋の一室に集まって会議だ。


「シモンは魔物が嫌がる匂いの香水を持っている。共に行動すれば、魔物と遭遇する危険性は下がるであろう」

「その、魔境の魔物というのはどれくらい危険なんですか?」


 カイが恐る恐る質問する。

 ヴェラットが顔色一つ変えずに答えた。


「グラオヴォルフが最弱と思えるような地だと聞くな。魔境に行ったことはないから詳しくは知らぬが」

「……魔境に行ったことがないなら、どこであの商人と知り合ったの?」


 ヴェラットとシモンは知り合いであるような発言をしていた。王都やレヴィンは国境から離れた地だれけど、どこで接点を持ったのだろうか。

 私の問いにヴェラットが少し苦い顔をする。


「……魔女に与する要注意人物として何度も騎士団に捕らえられたことがあるのだ、あの男は」

「え?」

「国外追放された魔女と繋がりを持とうとする者は王都の騎士団に引き渡される。知り合ったのはそこだ」


 よほど重い罪でない限り、騎士団が平民を捕まえることはない。平民の問題は同じ平民である兵士の仕事だからだ。

 国外追放された魔女と交流するのが重罪なのはわかったけれど、そんな前科持ちどころかこれから罪を重ねようとする人を護衛して大丈夫なのだろうか。


「えーと、シモンさんって悪い人なの?」

「法律で禁じられていることをやったが、本人は魔女も人間も同じ商売相手として見ていると言っていたな。魔女相手に商売する人がいないから、繁盛するのではないかと始めたらしい。そこに魔女と繋がって悪事を働く意思がなかったから、犯罪者という扱いではない。今までに何度も冒険者を雇って商売をしてきたが、雇われた者が罪に問われることはなかったようだ」

「それなら大丈夫……なのかな?」


 恐らく悪い人ではない。魔女を商売相手に選んだことが法律に違反しているだけで。悪の定義がわからないけれど、完全に黒ではないのだ。


「それで、シモンさんを護衛するかどうかだけど、皆の意見を聞かせてくれないかい?」

「オレは賛成だぜ! 魔女ってめっちゃ強いんだろ? 楽しそうじゃねーか!」

「あたしも賛成かな。魔物と遭遇しない道具があるなら、比較的安全に“まじょさん”に会えそうだし」

「提案したのは俺だから反対はしない。皆の意見を尊重しよう」


 カイの言葉にレオとエマが賛成し、ヴェラットは私達に任せると言った。

 皆の視線がまだ答えていない私に集まる。


「森の魔女に会いに行くのは私の我儘。私一人だけで……」

「まだそんなこと言うの!? 仲間なんだから何でも頼っていいってクノール村で言ったよね、あたし! それに、あたしだって“まじょさん”に会いたいよ」

「俺も森の魔女に用事があると言ったはずだ。お前のためだけに行動しているわけではない」


 一人だけで行く、と言おうとしたらエマとヴェラットから反対の声が上がる。


「他の人に比べれば君の我儘なんて稀なものだよ。それを叶えるのが仲間じゃないかい?」

「一人だけ強いヤツがいっぱいいるとこに行くのはナシだぜ!」


 カイとレオも私が一人で行動することは認めないようだ。

 彼らの反応を見ると自分が必要とされていることがわかって嬉しい。


「冗談。皆と一緒に行く以外選択肢はないでしょ」

「えっ、ソフィが冗談を!? しかも笑った!」

「これは……出会ったばかりの頃と比べたら信じられない成長だね」


 不思議な反応を見せるエマとカイに内心首を傾げる。

 二人とも大げさだと思う。私は私なのに。


「じゃあ、シモンさんのところに行こっか!」

「それは駄目だ」


 椅子から立ち上がって部屋から出ようとするエマをヴェラットが引き止めた。


「グレンブルクは治安が悪い。なるべく一人での行動は避け、いつでも自分の身を守れるように武器を携帯した方がよい。路地裏は特に危険だから、俺が伝えに行く」

「ラット一人で行くのは……」

「……俺の腕を疑っているのか?」

「ま、まさか! ラットより強い平民なんていないよ。……むしろ、厄介事に巻き込まれたときにやりすぎないか心配で」


 エマの心配はわかる気がする。元貴族の意識があるのか、騎士らしい思考なのか、ヴェラットは同じ人間が相手でも悪者なら容赦しない印象がある。

 生け捕りが必要なときは手加減するけれど、罪を犯した平民の命なんて軽いものと思っているかもしれない。だからエマはヴェラットが人を殺さないか心配なのだろう。


「……そこまで言うなら仕方あるまい。カイ、同行を頼めるか?」

「あ、はい」


 しばらく黙っていたヴェラットだったけれど、エマの要望をのんでカイと一緒に部屋から出た。

 私達は国外に行く準備だ。

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