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東街道編第6話 旅の醍醐味

「とりゃ、やぁ!」


 レオがアルムアッフェの群れ相手に一人で戦っている。

 以前は周りが見えていない独断行動だった。けれど今は私が土の矢などで加勢すると軌道に入らないよう行動することができるし、攻撃を籠手で受け止めているおかげか怪我も少ない。


 ヴェラットから身体強化のやり方を教わったのか、魔力を籠手に込めることで魔力操作のコツを掴んだのか、振り抜く拳や蹴りの速度や威力も上がったように見える。魔力操作にはまだムラがあるから、伸びしろも十分だ。


「レオ、こんなにも強かったっけ?」

「装備の強さもあるだろうけど、間違いなく本人の腕も上がっているね。僕達も負けてられないよ」

「よーし、後方支援を頑張ろう!」


 アルムアッフェはレオとヴェラットを中心に私が援護射撃をして、残りのエマとカイは依頼主である商人ジェロラモの護衛だ。

 素材はいらないので、土の矢を胸に直撃させて一体ずつ倒していく。私ではアルムアッフェと自然の魔力の違いがわからないので、討ち漏らしがないか確認するのはヴェラットだ。


「ソフィ、あの木の枝に魔物が隠れている」

「土の矢」

「よし、これで最後だ」

「やったな!」


 無事に討伐を終えた私達は魔石を回収して、護衛任務に戻った。魔石の換金は道の途中にある子爵領でやる予定だ。

 森は魔力が溜まりやすいから、魔物の出没も多い。集落に辿り着けなくて野宿することになった夜はほとんど休めなかった。


「子爵領に近づけば騎士団によって魔物が間引かれているから、そこまで辛抱だ」

「はぁい」


 元騎士のヴェラットは連戦に慣れているのか涼しい顔だけれど、他の皆は疲労が溜まっているのが顔を見ればわかる。私も似たような顔をしているだろうけれど。

 そんな私達の顔色を見て、ジェロラモが提案をしてきた。


「子爵領に着いたら、疲れを癒やすために宿屋に泊まりませんか?」

「いいの!?」

「えぇ。早く目的地に行くためにしっかり休息をとる。これも長旅で大事なことですよ。疲労で注意力が散漫になると、普段は難なく倒せる相手に苦戦したり怪我を負ったりする危険性がありますから」

「そこまで言うなら、仕方ないかな?」


 仕方ないと言いながら、エマの口元が緩んでいる。


「それに、今だからこそ訪れたいのですよ」

「ん?」

「美味しい料理に美しい街並み。旅の良さはいくつかありますが、私は『街に住む人達の日常』を知ることができるのを旅の醍醐味に挙げたいと思います」


 着いたらわかりますよ、とジェロラモに促されたので、街が見えてくるまで彼の言葉の意味がわからなかった。


 ヴァイス子爵領。アルムスターベリー公爵領の南東に接している領地だ。

 東街道沿いにある街だけれど小さくて見所が少ない、というのが前情報だけれど。


「あれ、いっぱい並んでるよ?」

「まだ日は高いとこにあるぜ?」

「冒険者より旅人が多いね」


 門に並ぶ列が日没間近の王都と同じくらいで驚いた。

 閉門の時間である日没が迫ると列ができるのは当たり前だけれど、日没にはまだ早い。今も周辺の森で冒険者が狩りをしていることから、この街だけ閉門が早いわけでもなさそうだ。


「当然ですよ。今日は『聖女祭』が開かれる特別な日ですから」


 行列を見てもジェロラモは一切表情を変えない。始めからこうなることはわかっていたのだろうか。


「お祭り?」

「えぇ、大陸に光を取り戻した英雄『純白の聖女』の復活を願う祭りです」

「純白の聖女? どこかで聞いたことがあるような……あっ、食前の祈りだ!」


 ここでも純白の聖女の話が出てきた。


「確か災厄を破った魔女ですよね?」

「ご存じでしたか。王都では聖女への祈りをあまり耳にしないと思ってましたが」

「あたしとカイが暮らしてた孤児院では、純白の聖女に祈るのが当たり前だったの。でも、カイ。復活は願ってなかったよね?」

「そうだね、『今日も美味しいご飯を食べられるのは、世界に光を取り戻してくれた聖女様のおかげです』って感じかな」


 大陸を覆う闇が抽象的で実際に何をしたのかはわからない。

 ずっと垂れ込めていた暗雲がなくなり日の光を取り戻したという意味なら、草木が大きく育ってそれを食べる生き物が増え、私達も豊かな食を楽しめるようになるだろう。

 そう考えると、純白の聖女が成し遂げたことは凄い。


「復活を願うとはどういう意味だ? 魔女であろうと死んだ者は蘇らないだろう」


 ヴェラットの疑問にジェロラモが答える。


「悪しき魔女によって封印された聖女……という伝説がこの地には残っているようです。封印はいつか解けるもの、ヴァイス子爵領の人々はいつか来るその日を待ち続けているのでしょう。もしかしたら、既にどこかで復活したかもしれませんが、素敵な話ですよね」


 その語りにヴェラットが少し眉を潜める。


「……随分と詳しいな。俺達を休ませるためとか言っていたが、本音はこの祭りを楽しみたいだけではないか?」

「気づかれてしまいましたか。えぇ、私は毎年祭りの時期になるとこの地を訪ねてます。……話している間に私達の番が来ましたね。手続きを済ませたら祭りを存分に楽しみましょう」


 気がつくと門番の目の前で、冒険者プレートを見せたらすんなり中に通してくれた。

 振り返ると私達が並び始めたときより列が伸びている。街に住む人もいるだろうけれど、こんなにも人が多いと泊まる部屋を確保するのも難しいだろう。


「ジェロラモ様と護衛の冒険者パーティーですね。三部屋用意しております、お好きな部屋をお使いください」


 そう思っていたけれど、一軒の宿屋に入るジェロラモを追いかけたら、私達の分まで部屋を確保してあった。

 彼の護衛は男三人で話し合った結果、ヴェラットになった。

 そして祭りの時間が訪れる。

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