東街道編第5話 グレンブルクへ
「すごい、とっても大きい! そして綺麗! 遠くからでも立派な城なのがわかるね!」
街道からアルムスターベリー城を見たエマは終始興奮していた。
「石を積み上げて造った城だね。重厚感があって歴史を感じられるよ」
「ね! やっぱり近くで見たいなぁ」
「山道の入り口を見ろ。騎士が複数立っているだろう? あの山全てがアルムスターベリー公爵家の敷地なのだ。招待されない限り立ち入ることはできぬ」
カイも興味深げに眺め、エマがうずうずした様子を見せるけれど、ヴェラットが現実に引き戻す。
一冒険者が貴族に招待されることなどめったにないだろう。波間の魔女が私を招待したのは互いに魔女だからで、貴族としての立場ではなかったし。
「観光を楽しむのはいいですが、そろそろ出発しましょうか、狼の集いの皆さん」
「あっ、ごめんなさい!」
「ジェロラモさん、よろしくお願いします」
城に夢中になっていた私達に声をかけたのは、商人のジェロラモだ。護衛依頼を出してもなかなか人が見つからないところに私達が現れて、向かう場所も一緒なので急遽行動を共にすることになったのだ。
「目的地のグレン……ブルク? って人の出入りが多い街なんだよね? どうして依頼を受ける人が見つからなかったの?」
「それはアルムスターベリーからグレンブルクまでの移動距離が長いからですね」
皆の疑問を代弁するようにエマが聞いた。
「隣や一つ挟んだ程度の距離なら引き受ける方が多いですが、今回はそこそこ大きい子爵領を二つ挟んだ先にあるので。一週間も行動を縛られたくないんですよ。冒険者の本職は魔物討伐ですからね」
「んー、あたしは護衛依頼も好きだけどなぁ。色んな人と話せて、色んな街に行くことができるもの。あちこち冒険してる感じがして楽しいよ!」
「ふふっ、貴女も旅好きなんですね」
エマは早々に商人ジェロラモと打ち解けている。その対人能力はどうやったら身につくのだろうか。
「候爵領で城塞都市でもあるグレンブルクは魅力的ですが、途中の子爵領二つもそれぞれの特色が出ていますよ。途中で立ち寄る予定なので、観光を楽しみましょう」
「わーい!」
そんな話をしながら、私達は森へ続く街道を歩いている。
「この森は昔、魔女が住む“魔の森”の一部だったんですよ」
「え、そうなの!?」
「もっとも、現在は国境の壁が築かれて、森の魔力も減りましたが」
魔の森はエマが子どもの頃にお世話になった“まじょさん”こと森の魔女が住む地で、旅の最終目的地だ。
国外追放された魔女に会うなんて法律に違反しているし、国外に行くことすら推奨されていないけれど。私の過去を知るため、ヴェラットの呪いを解く方法を探すため、たとえ禁じられていても私達は行くつもりだ。
「ところで、狼の集いの皆さんはどうしてグレンブルクへ? 拠点は王都ですよね?」
「それはもちろん、まじょさ……もがっ」
ジェロラモの質問にエマが真の目的を明かしそうになるが、カイが彼女の口を手で塞いでなんとか阻止した。
「……魔女?」
「いえ、強くなるためですよ。南と西は訪ねたし、北は魔女を良く思わない人が多いのですよね?」
ヴェラットが北にあるロンベルクに行くのを断固として反対していたのを思い出す。
「ああ、黒髪に魔法使いと街から追い出される要素が揃ってますね」
「ですから、消去法で東を訪ねることにしたのです。勿論、観光も理由の一つですが」
「……私の目には観光が一番の理由に見えますよ。強い魔物と戦うなら南街道が一番でしょうし」
「様々な魔物と戦って経験を積んでおきたいのです」
かつてリーダーだったルドルフを谷の魔女から取り戻すため、彼がいなくても胸を張れる強さを手に入れること。
私達の旅の原点にはルドルフがいる。エマの好奇心が勝っているように見えるかもしれないけれど。
「そんな貴方達に朗報ですよ。アルムアッフェの群れを発見しました」
「えっ!?」
ジェロラモの言葉に周りが驚いて私を見る。どうして魔力感知で知らせてくれなかったのか、と言いたげな顔だ。
けれど、魔物の存在に気づけなかったのだから仕方がないだろう。ジェロラモが指差したおかげで魔物を認知できたけれど、魔力を感知できたわけではない。
「アルムアッフェ、アルムスターベリー周辺に出没する猿型の魔物だな。体内で魔力を生成することができず、食べたものの魔力に染まることが多い」
一人魔物から目を逸らさずにヴェラットが言う。隠密を得意とする魔物も感知できた彼は、商人に言われなくても気づいていたのだろうか。
「森に自生する木の実や葉が奴らの主食だ。自然の魔力とほとんど変わらぬからソフィも感知できなかったのであろう」
「自然の魔力……」
人混みで魔力酔いを起こすのは様々な属性が入り乱れているからで、魔力が多いところに行っても気持ち悪くなることはない。
同じ土地に生える植物は魔物化したものを除いてほとんど同じだし、魔物も僅かに自然の魔力を宿しているから情報過多になることがないのだ。
自然の魔力は危険がないことがわかっているから、多量に魔力を含んでいない限り魔力感知で拾うことはない。今回はそれが裏目に出たようだ。
「よくわかんねーけど、あいつらを倒せばいいんだよな?」
「あぁ、放置すれば積荷を狙われる可能性がある。討伐した方がいいだろう」
「おりゃあ!」
ずっと戦いたくてうずうずしていたレオが、ヴェラットの声を合図に突撃した。




