東街道編第4話 公爵領アルムスターベリー
「大きな街へ行って兵士に引き渡し、ですね。村だと罪人の受け入れ体制が整っていないですし、よほど悪質でない限り平民のいざこざに騎士団が介入することはありませんから」
カイは冷ややかな目で盗賊団を見ながら説明した。
「……つまりこのままアルムスターベリーに行けばよいのだな?」
「はい」
「この者共はどう動かす?」
ヴェラットが盗賊団を見る目も冷え切っていて、同じ人間と思っていない感じがする。私達を襲った盗賊団は目に恐怖の色を浮かべながら話の行く末を聞いていた。
「自分の足で歩いてもらいます。僕達が盗賊のために労力を割いたり移動手段を用意したりする必要はありません」
「俺達の命令に従うようには見えないが」
「大丈夫ですよ」
ふっとカイが笑った。目が一切笑ってなくて、見ているだけで寒けがしてくる笑みだ。
「縄に縛られた状態でこんなところに放置されたら、魔物の餌になりますから。……ここで死にたくはありませんよね、盗賊団の皆さん?」
「あ、あぁ。勿論だ」
カイに笑みを向けられ、親分と思われる人が小刻みに震えながら頷いた。
「クラウスさん、お待たせして申し訳ありません。襲撃者九人を片付けました」
「お務めご苦労様。それじゃあ出発しようか」
捕虜が加わった分、速度が落ちたけれど閉門の時間である日没前に領都アルムスターベリーに辿り着くことはできた。
けれど、そこには長い行列ができていて、待っていたら日没を過ぎてしまうだろう。
街に入りたい人が外で待っているから、日没と同時に門が閉まることはない。問題は魔物だ。
魔物は夜に活発化するから、早めに安全な街へ入りたいと誰もが思っていることだろう。
「冒険者諸君、並ぶ場所はここではないよ」
「え、そうなの?」
「捕虜の引き渡しは早めに済ませた方がいい。並んでいる間に暴れ出したり逃げ出したりしたら困るからね」
クラウスが迷うことなく列の横へ馬車を走らせるから、護衛である私達はついていくしかない。
どんどん先に行く私達を見て眉を潜める人は一人や二人ではなかったけれど、文句を言う人はいなかった。
捕虜だけでなく、豪華な馬車に乗っているのもあるだろう。馬車に道を譲るのは当たり前のことだから。
捕虜の引き渡しもすんなりと終わって、私達は無事に日が落ちる前に街中に入ることができたのだ。
「護衛感謝するよ、狼の集いの諸君」
「こんなにたくさん……こちらこそ、ありがとうございました」
上級冒険者以上と指定した依頼だけあって、報酬もいつもより多い。初めてお目にかかる金貨に、カイはすぐさま袋を背負い袋の奥にしまった。
盗賊団を捕まえた報酬も貰えたから、一気にお金持ちになった気分だ。
「古くからある街と聞いたけど、思ったより新しい建物が多いんだね」
宿屋を探しながらエマが興味深げに言う。それに答えるのはヴェラットだ。
「木造の建物は何百年も保てないことが多いからな。何十年ごとに建て替えているから古い印象がないのだろう。だが、城や館など権力者の建物はそのまま残っていることが多い。遠くからならば見ることができるぞ」
「じゃあ、明日は観光しようね!」
エマが笑顔で言う。予想していた反応だけれど、一つ問題があった。
「私は行けない」
「えっ、どうしたの、ソフィ?」
「人混みに酔うから」
魔力感知が得意な私は周りの魔力情報を全て拾おうとしてしまう。
王都やフリートベルクは長い間過ごすことで適応できたけれど、新たな街で知らない魔力の持ち主が多い環境に長居したくなかった。
「宿屋で休んでいるから、エマ達は観光に……」
「探索するならソフィも一緒じゃなきゃ嫌だよ! それが無理なら、領主様のお城だけ見て出発しようね」
「……散策しなくていいの?」
エマがあっさりと諦めたことに驚いていると、彼女はにっこりと笑った。
「もちろん散策したい気持ちもあるけどね、仲間と一緒じゃないとつまらないもの。ソフィだけ楽しめないのも寂しいし。この街にもまた訪れる機会があるだろうし、その頃にはソフィも人混みが平気になってるかもしれないよ。そしたら一緒に見て回ろうよ!」
「……ん」
「というわけで、ここはお城を見るだけにするよ! ラット、どこにあるの?」
大抵、城は大きくて目立つものだから、街を歩いていれば視界に入るはずだ。けれど、今のところそれらしい建物は見つかっていない。周りの民家が増築を重ねて背が高いのも原因の一つだろう。
そう思っていたけれど、ヴェラットが首を振った。
「街の中に城はないな」
「えっ!? ここ、領都じゃなかったの!?」
「領都だが、古い館があるだけだ。城は山の上に建っているが、警備の観点から立ち入り禁止だな」
「そんなぁ。近くで見たかったのに」
フリートベルクにも城があったけれど、城前広場から見上げるだけでそれ以上近づくことができなかった。
今度こそは、という思いが強かったのだろう。エマが残念そうに肩を落としている。
「公爵家の住居だから護りのために余所者を入れることはできないのだ。近づけるところまでは案内するから、それで我慢してくれ」
「……はぁい」




