東街道編第3話 襲撃
「初めまして、護衛依頼を引き受けました上級冒険者パーティー『狼の集い』です」
「商人のクラウスさ、アルムスターベリーまでの護衛をよろしく頼むよ。……と言いたいところだけど、君達はまだ若いが本当に上級冒険者なのかい?」
カイと依頼主である商人クラウスが挨拶をする。
ヴェラットが見つけた依頼は受注条件が「上級冒険者以上」となっていた。カイが冒険者プレートを見せたけれど、本当に上級冒険者なのか少し疑っているのが目を見ればわかる。
「はい、上がったのは最近ですが、全員上級です。……皆も冒険者プレートを見せてあげて」
カイに促されて、私達も冒険者プレートを見せる。クラウスは一つ一つに目を通して、ようやく認めたようだ。
「成人前の子どもが交ざっているから、上級にはまだ早いと思ったよ」
「十五」
「ん?」
「私は十五、成人前ではない。訂正して」
聞き捨てならない台詞に思わず反論すると、「お、おう。すまない」とクラウスは謝罪した。
「ちょっ、ソフィ。依頼主にはもっと丁寧に接しないと」
「最近大人になったばかりなんだから、見間違えられても仕方ないよ」
「ま、チビだから子どもと見間違えられるのはしゃーないよな!」
私を宥めるエマと馬鹿にするレオはいつも通りだけれど、カイが他人の言葉遣いを注意するのは珍しい。
「荒くれが多い冒険者に礼儀正しさは求められないんじゃないの?」
「それは中級までの話だよ。上級になるとお貴族様やお貴族様と交流のある商人などが依頼主になることもあるから、丁寧な言葉で接した方がいいんだ」
「そう……じゃあ、カイに任せて私は静かにしておく」
カイの方が流暢に話せるのだから、適材適所だ。決して敬語を勉強するのが面倒なわけではない。
「確かに私はお貴族様とも商売をするけど、そこまでかしこまらなくていいよ。顔色を窺って会話が弾まない旅の方が不快だから、言葉遣いなど気にせずに話しかけてくれたまえ」
私達の話を聞いていたクラウスが敬語でなくてもいいと言ってくれた。それに喜んだのはエマとレオだ。
「やったぁ! じゃあ、遠慮なく聞くね。アルム……ベリーには行ったことあるの?」
「あぁ、生まれはそこだからね。拠点は王都だからあまり詳しくないけどね」
「強いヤツがいっぱいいるんか?」
「いや、アルムスターベリーは武より文を尊ぶ土地柄のはずだよ。魔物もそれほど凶暴ではないから、強い者は少ないだろう」
そんな会話を聞きながら、東街道を進んでいく。御者は別で雇われた人だから、クラウスがいるのは馬車の中である。彼の店で働く人達も何人か一緒に乗っていて、馬車とそれに乗る人々が私達の護衛対象だ。
「アルム……何とかまでの道って、強い魔物がほとんど出ないよね? 上級指定にしなくてもいいような気がするけど」
「アルムスターベリーね。それに敵は魔物だけではないよ、エマ」
「え、それってどういう……」
エマとカイが会話しているところに兎に似た魔物が突っ込んで来たので、魔法で土の矢を生成して倒す。この道は人通りが多いから、他に魔物はいなさそうだ。
日が暮れる前に村に入り、交代で見張りをしながら体を休めたら出発。それを二日繰り返して三日目の朝だった。不意に魔力感知が不自然に集まっている魔力を感知する。
「カイ、この先にある茂みや木に複数人が隠れている。合わせれば十人近く」
「……冒険者にしては数が多いね。警戒して進もうか」
「え、人を?」
私とカイは気を引き締めたけれど、エマはまだ状況を飲み込めていないのか首を傾げている。その疑問に答える前に、茂みから武装した集団が出てきた。
「わあっ!」
「誰か出てきたぜ!」
エマとレオが守る馬車の左側も同時に襲撃されたようだ。
「後方も木の上から三人が降ってきた。盗賊団で間違いないな?」
殿を守るヴェラットの声はいつも通り落ち着いている。人と戦うのも幾度となくしてきたのだろう。一切動揺していないのが顔を見えなくてもわかる。
「チビ共、痛い思いしたくなかったら今すぐそこをどきな」
「お断りします。……ソフィは前方に行ってくれ! ここは僕だけで押さえるから」
「ん。なるべく早く捕らえて戻ってくる」
馬車の右側を守るのは私とカイだけれど、前方にも襲撃者がいるのでそちらを優先することに。馬を襲われたら大惨事になるから責任重大だ。
走る途中でちらりと振り返ると、カイが盾に魔力を込めて相手三人の攻撃を同時に受け止めていた。身体は相変わらず小さいのに、背中が大きいように感じる。本当に頼りになる人だ。
彼に任せてばかりではいられない。私は目の前の敵に視線を戻す。手合わせは何度かしたことがあるけれど、実戦は初めてだ。
「よぉ、こっちはチビちゃん一人かぁ? ずいぶんと舐められたもんだなぁ」
「親分、コイツ俺にやらせてくれよ。これくらいの年の子が好みなんだ」
明らかに子どもと舐めきった目に、なぜか私を性欲の対象として見る視線。
どちらも気分がいいものではない。私は杖を相手に向けながら口を開いた。
「私は十五、成人している」
「……は? そんなもん、どうでもいいぜ。どのみち女が勝てるわけないんだからなぁ!」
親分と呼ばれた人が短剣を片手に足を前に出そうとする。けれど、私が既に土魔法で足を拘束しているので、前のめりになった。
「クソッ、魔法か!? いつの間に……」
「土の球」
なんとか起き上がって何かを言おうとした相手の顔面に、土の球をぶつけて気絶させる。
残った一人が慌てて逃げようとしたけれど、反転もできずに尻餅をついた。自分も足を拘束されていることに気づかなかったのだろうか。
こちらも土の球で気絶させておいて、縄で両手を縛って拘束する。
前方が片付いたのでカイのところに戻ると、カイが盾で最後の一人を殴り倒していた。
「おかえり、ソフィ。こっちも終わったよ」
「後方のヴェラットだ。襲撃者は縄で拘束すればよいか?」
「あたし達も終わったよー! レオのせいで顔が大変なことになってるけど、治した方がいいかな?」
仲間達が戦闘終了の報告のために集まってくる。
襲撃者を一箇所にまとめると、全部で十一人いることがわかった。全員武器を携帯している。盗賊団と見て間違いないだろう。
ヴェラットは何を考えているのかわからない目で彼らを見下ろす。
「俺は冒険者のやり方に疎いから聞くが、この場合はどうすればよいのだ?」




