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東街道編第1話 久し振りの王都と成人

「あ、そういえば。ソフィさん、ご成人おめでとうございます」

「え?」


 王都にある冒険者ギルドの受付で、カイとヴェラットが帰還の報告や素材の買取などをしているときだった。目が合った受付の人にそう言われたのは。


「成人?」

「はい。ソフィさんは秋生まれですよね。今はもう秋ですし、大人の仲間入りですよ」

「はあ」


 いきなりそんなことを言われても突然何かが変わるわけではないし、実感が湧かない。そもそも、秋生まれなのは私が適当に決めたからで、本当はどの季節に生まれたのか知らないのだ。

 それでも狼の集いの皆に出会ってから九年半が経ったのは事実だ。あのときは五歳くらいだったのだから、今は十五歳前後だろう。おおむね成人と言える。


「おめでと、ソフィ! 今日はご馳走にしようね!」

「でもよー、ほんとに大人になったんか? ちっこいままだし」


 エマの言葉には素直にありがとうと返せるけれど、レオの一言は余計だ。私はレオを睨みつけた。


「中身が成長しないレオだけには言われたくない」

「なんだよ、まだガキって言いたいんか? ソフィの方が年下のくせに!」

「二人とも、喧嘩しないの」


 私達の間に割って入ったのはカイだ。レオと言い争っても時間の無駄なので口を閉ざす。

 レオはまだ何かを言いたげな様子だったけれど、私には関係のないことだ。


「じゃあ、今日は宿屋を見つけてからちょっといいお店に……」

「君達、狼の集いだよね?」


 カイの言葉を遮るように誰かが話しかけてきた。

 二十代前後の男で、格好を見るに私達と同じ冒険者だろう。けれど、記憶にない顔だ。

 私だけかと思ったけれど、エマもレオも首を傾げている。二人の知り合いでもなさそうだ。


「はい、そうですが……」


 カイも警戒した様子で、親しくない相手向けの話し方になっている。彼も知らないなら間違いなく初対面だ。


「やっぱり! あの後姿を見かけなかったから、ずっと心配してたんだ」

「……すみません、どこかでお会いしましたか? あの後というのがいつか思い出せないです」


 カイが態度を変えずにいると、男は「あ、知らなくて当然だったね!」と何かに気づいたような顔をした。


「僕は中級冒険者のマルク。君達がグラオヴォルフに襲われた日、救援要請を見て騎士団を呼びに行ったの、実は僕なんだ」

「え!?」


 忘れるはずもない一戦。ヴェラットと出会う前、ルドルフがパーティーリーダーを務めていたときだ。

 私達は王都近郊の山でグラオヴォルフの群れに襲われた。


 私はすぐさま魔法を上空に打ち上げて助けを求めたけれど、正直に言うと期待はしていなかった。

 相手は単体でも上級冒険者パーティーが勝てるかどうかだし、王都にいる騎士の視界に入るとも思えない。生き残る見込みがゼロのところをほんの少しでもいいから上げたくてやっただけだ。


 だから、騎士団が駆けつけたときには内心驚いたし、私の魔法を見て助けを呼びに行った人がいたとは考えもしなかった。


「初めて知りました。あなたの勇気と即断力のおかげで僕達は誰一人命を落とすことなく切り抜けられました。本当にありがとうございます」

「わっ、大したことしてないからそこまで感謝しなくてもいいよ。それに、僕はグラオヴォルフが怖くて逃げただけだし」

「相手との力量差を認識して助けを求めることができるのも勇気の一つかと」


 カイの堅苦しい感謝の意にマルクは戸惑っている様子だ。カイが敬語なのはいつも通りだけれど。


 それから、私達が助かったのは騎士団が駆けつけてくれたからではない。

 グラオヴォルフをけしかけたのも、誰の命も取らずに帰らせたのも、谷の魔女の仕業だ。そもそも殺す目的でなかったことも知っている。


 それを知っているのは谷の魔女に操られている人を除くと私だけだろうし、私は真実を明かすつもりはない。マルクが命の恩人だと思っておけばいいだろう。


 不意にマルクがヴェラットを見て首を傾げた。


「あれ? あのとき黒髪の男の人なんていたっけ? 長い銀髪だった気がするけど。それにどこかで見たことがあるような……」

「グラオヴォルフに襲われた後で加入した者だ。銀髪の男には会ったことがないが、パーティーを脱退したと聞いた。俺も一時期王都を活動拠点としていたから、すれ違うことはあったのではないか?」


 彼の疑問に淡々と答えるヴェラット。ルドルフには会ったことがないらしいけれど、どこまで本当なのだろうか。ヴェラットが嘘をついているかどうか見破るのは難しい。


「……思い出せないけど、まぁいいや。狼の集いが無事で本当に良かったよ。またどこかで会えたらいいね!」

「おう! 今度会ったときは手合わせしようぜ!」


 冒険者ギルドを出ていくマルクを、レオが手を振って見送る。


「助けを呼んでくれた人がいたんだね。王都を離れるのはもう少し後の方が良かったかな?」

「海に行くと決めた君が立ち止まる姿なんて想像できないけどね」

「それより、メシにしよーぜ! 今日はうまいもん食うんだろ?」


 何かを決めたら即座に行動するエマに、彼女のことしか見ていないカイ、食べることと身体を動かすこと以外興味のないレオ。いつも通りの皆とこれからも共に歩んでいくのだろう。


「成人祝いと言えば酒だな。酒と肉料理が美味しい料理屋を知っているが、そこにするのはどうだ?」


 フリートベルクで新たに仲間に加わったヴェラットがそんな提案をする。真っ先に反応したのはレオだ。


「肉食いたいぜ! 酒は苦くてまずいからいらねーけど」

「大人の味がするよね。あたしも酒はいらないかなぁ」


 エマも酒には興味がないようだ。

 私はまだ飲んだことがない。年齢による飲酒制限はないけれど、大人の飲み物という印象がある。私の口には合うだろうか。

 幸い、魔女は毒に強いと聞く。私もその一人、少し酒を飲んだ程度で酔うことはないだろう。


 そう思っていたけれど、皆と乾杯してエールを飲んだ後の記憶がなく、気がつくと宿屋のベッドにいた。

 何があったのか誰も教えてくれないけれど、私は仲間全員から飲酒を禁止された。

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