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仲間の故郷編第9話 レオとカーヤ

❋❋❋


 レオはお腹の中にいるときから何度もお腹を蹴ってきたし、元気が溢れる子だった。きっとお腹の中が窮屈だったんだろうね。


 寝相が悪くてベッドから落ちそうになったのは一度や二度じゃないし、特に腹が減ってるときは怒って暴れるのが日常だった。

 唯一大人しかったのは乳を飲んでるときくらいかな。それ以外は寝てるときでも動き回るから、目を離せなかったよ。


 それよりも大変だったのが、癇癪を起こすと近寄ることすらできなかったことだ。足も手もあちこちに振り回して、壁に穴が空くこともあった。

 当然、人が当たったら怪我をするよ。それでも癇癪の原因は大抵空腹だから、ウチはどんなに傷ついてもレオを抱いてご飯をあげないといけなかった。


 ある日村を歩いたら、近所の人達が全身痣だらけのウチを見て夫にやられたのかと心配してきたよ。夫はウチに手を出したりしない、やったのはレオだと言っても誰も信じてくれなくてね。

 レオの力は日に日に増しているし、夫の名誉は傷つけられるし。ウチは頬が腫れ上がって、限界を感じた。


 だから、レオを孤児院に預けることにしたのさ。たくさんの子どもの面倒を見てきた人達でもレオの世話は難しいみたいで、子育て経験のある引退した冒険者を二人ほど雇っていたよ。


 そのうち癇癪が落ち着いて周りを傷つけることがなくなったけど、迎えに行こうとは思わなかった。ウチは一度捨てたからね。今更母親面して会いに行くなんて無理だよ。

 孤児院が火災に遭ったときはその選択を死ぬほど後悔したけどね。見知らぬ子ども達と一緒にいるのは近所の人に聞いたけど、村中を探しても見つからなかった。


 何年も待ち続けてもう帰ってくることはないと思ったけど、無事に帰ってきてくれて、元気な姿を見れて本当に良かったよ。

 ここまで連れてきてくれてありがとう。これからも迷惑をかけるだろうけど、息子をよろしく頼むよ。




❋❋❋




「……」

「あれ、ソフィどこにいくの?」


 話の途中で私は、エマの声を無視して無言で家を出た。のどかな町並みをぼんやりと見ながら行くあてもなく歩く。


 エマとカイには孤児院長テレージアが、レオには血の繋がった母親カーヤが、ヴェラットには兄フィリップが。

 それぞれ帰る場所があって、帰りを待つ人がいる。


 それなのに私は。

 自分の名前すら偽りで、親が誰かもわからず、どこに帰ればいいかも知らない。


 努めて気にしないようにしていたけれど、目の前で家族のやり取りを見せられるとどうしても思ってしまう。

 何で私の母親は姿を見せないのか。もうこの世にはいないとわかれば諦めがつくのに、親が魔女だから生きている可能性は十分にある。


「ここにいたのか」


 思考を遮る声が降ってきた。顔を上げるとヴェラットがいる。

 考え事をしていたとはいえ、声をかけられるまで気づかなかったのは、彼が魔力感知に引っかからないからだ。


「ヴェラットは帰らなくていいの?」

「……何の話だ?」

「故郷のレヴィン、兄がいるでしょ?」

「今のところ、里帰りの予定はないな」

「何で?」

「今帰ると多くの人を巻き込んでしまう可能性が高いからだ」

「……わかりやすく説明して」


 なぜ里帰りが誰かを巻き込むことに繋がるのか理解できず、私は説明を求めた。


「俺が何故お前らと行動を共にしているか、前に言ったよな?」

「……谷の魔女に命令されたから」

「そうだ。俺はその命令に逆らうことができないから、狼の集いを抜けるわけにはいかない」


 ――谷の魔女からご命令だ。引き続きお前を監視し、必要とあらば助けろ、とな。


 ヴェラットが狼の集いに加入するとき、私だけに言った言葉だ。けれど、それがどうして里帰りしない理由になるのだろう。

 察しの悪い私にヴェラットが溜め息を吐いた。


「……兄上は俺に冒険者を辞めて収入が安定する騎士団に加入するのを求めるだろう。断れば理由を聞かれ、仲間と一緒にいたいと言えば嘘と見破られるだろう。谷の魔女との関係性が明らかになれば、フィリップ兄上は他の騎士団にも声をかけて谷の魔女を討とうとするに違いない。そうなればどれほどの犠牲が出るか、想像がつくか?」


 ただ里帰りしただけで魔女の討伐まで発展するとは予想外で、ヴェラットの妄想であってほしい。

 でも、そうなる可能性がゼロではないなら、彼にかけられた呪いが解けるまで帰らない方がいいだろう。


「ヴェラットが帰らない理由はわかった。もう里帰りは勧めない」

「そうしてくれ。……それで、何故無言で外に出た? 仲間が村中を探し回っているぞ」


 改めて魔力感知をすると、レオの生家には仲間の魔力反応はなく、村のあちらこちらに点在している。私を探しているのは事実のようだ。


「皆には帰る場所があって羨ましいと思っただけ」

「お前にはないのか?」

「森の魔女が育ての親らしいけれど、国外だから行けない。実の母親が誰か知らないし」

「……」


 何か考える素振りを見せたヴェラットが、しばらくして口を開いた。


「……森の魔女が棲む魔の森ならば、行く方法を知っているそ」

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