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仲間の故郷編第5話 ベルーナ村

「久し振りだなぁ、帰ってくるのって。孤児院を抜け出したあの日以来かな?」

「エマ、緊張してるの?」

「し、してないよ! 母さん、元気にしてるかなぁ」


 王都とマークヴェストを繋ぐ西街道を東に進み、王都に近づいてからは平原を歩いて、私達は目的地に辿り着いた。

 ベルーナ村。エマとカイ、それと今はいないけれどルドルフの故郷だ。この村の孤児院で三人は出会い、一緒に冒険者になると誓ったらしい。


「あれ、もしかしてエマちゃんかい?」

「あ、八百屋のお兄さん、久し振り!」

「しばらく見ない間に大きくなったねぇ」

「そっちの少年はカイか? 相変わらず小さいな。ちゃんと飯食ってるのか?」


 村を歩いていると、村の人達がエマとカイに気づいて声をかけてくる。特にエマは脱走常習犯だったから多くの人に知られているようだ。


「エマ、帰ってきたんだね!」

「うん! そっちは食堂で働けるようになった?」

「もちろん。あとで食べにおいでよ」

「ありがとう!」


 仲良く話しながら、三人が育った孤児院を目指す。広場に面したところにその建物はあった。


「こんにちは!」


 エマがベルを鳴らすと、中から人が出てきた。


「こんにちは、ご用件は?」

「あたしはエマで、こっちはカイ。この孤児院で育ったから、挨拶しに来たの」

「えっ、エマなの?」

「もしかして、リタ?」

「うん、そうだよ!」


 名前を確認し合い、二人は手を取り合った。


「久し振り、元気にしてた? 孤児院で働いてるんだね」

「子どもの面倒見るの好きだからね。そういうエマは冒険者になれたの?」

「実はあたし達、上級冒険者なの!」

「え!?」


 リタという十五歳前後の少女は、エマの返事に目を丸くしてカイを見た。


「エマの言ってることは本当なの、カイ?」

「本当だよ。単独(ソロ)としても上級認定されたんだ」

「……そんなに細くて小さい身体で武器持てるの?」


 少年のような体格のカイにリタは懐疑的な目を向ける。


「盾の扱いには慣れたし、最近は槍も使えるようになったよ」

「……君が見え透いた嘘を吐くことはないよね。じゃあ、エマが言ったことも本当なのかぁ」

「ちょっと、リタ。あたしの言葉を信じてなかったの?」

「……母さんに会いに来たんだよね? 案内するよ」


 じとっとした目をするエマから顔を逸らし、リタは私達を建物の中へ招待した。どこからか子ども達の元気な声が聞こえる。


「賑やかでごめんね。この時間は庭で遊んでるんだ」

「懐かしいなぁ、大人の目を盗んで村で遊んでたっけ」

「それは問題児のエマとカイだけ。……着いた、ここが院長室だよ」

「ごくり」


 エマが唾を飲み込む。リタが扉を叩いて来客の話をする。「入ってちょうだい」と中から声がした。


「母さんのことだからエマ達が来たことに気づいてると思うけど、あまり刺激しないようにね。いつ死んでもおかしくない年だから」

「……うん」


 部屋に入ると、目を閉じたおばあさんがいた。顔を上げたけれど、瞼が動くことはない。勧められた椅子に座り、孤児院長と向き合う。


「まぁ、エマとカイかしら。他の魔力は覚えがないけれど、きっとエマの仲間なんでしょうね。わたしはここベルーナ村の孤児院長を務めるテレージアよ」

「久し振り、母さん。仲間のソフィとレオとラットだよ。あたし達、上級冒険者になったの」

「まぁ、よく頑張ったのね。素晴らしいわ……一緒にここを出たルドルフはいないのかしら?」

「ルドルフは……」


 グラオヴォルフの群れに襲われて、冒険者を辞めた。実は谷の魔女に操られていて、再会したときは私達を認識していないようだった。

 などと、正直に答えるわけにはいかない。エマはどんな誤魔化し方をするのだろうか。


「怪我して冒険者を辞めちゃったの。母さんの言った通り、冒険者の世界を舐めてたかも」

「エマ……」

「でも、大丈夫。いつか必ず戻って来ると信じてるから。ルドルフが戻って来たら今までの旅路を話してあげるの」

「……えぇ、それがいいと思うわ」


 しばらくどちらも話さない時間が続いた。沈黙を破ったのは孤児院長ことテレージアだ。


「エマとカイが大きくなったら、あなた達がこの孤児院に来た理由を話したいと思っていたの。時間はあるかしら?」

「うん、ここじゃ冒険者の仕事もほとんどないからね」

「僕は別に知らないままでもいいから、先にエマの話をしてよ」


 好奇心旺盛に目を光らせるエマと違って、カイは自分の過去に興味がなさそうな反応を見せる。


「ふふ、カイは変わらないのね。そんなにも知りたくないのかしら」

「僕が過去の記憶を失ったのは、思い出すと胸が苦しくなるからだと思っている。いつかは向き合う時が来ると思うけど、別に今じゃなくてもいいよね」


 カイも私と同様、エマと出会う以前の記憶がない。彼は不要だから自ら封印したと言っていた。

 悪い思い出しかないから、思い出す必要はないと。だから、私が記憶を取り戻すのにも消極的だ。


「あたしは知りたいよ。自分のはもちろん、カイの過去も」

「エマ?」

「だって忘れたままじゃ悲しいじゃない。カイが過去にどんな人生を歩んでいても、あたしは全部受け止めるよ」

「まぁ。大きくなったのね、エマ」


 テレージアが生暖かい笑みを浮かべる。


「じゃあ、まずはエマの話からしましょうか」

明日の更新はお休みです。

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