仲間の故郷編第6話 エマとカイ
ゴールデンウィークが終わったので、本日から隔日更新にします。
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エマが生まれる頃、この国はリーシュ王国ではなく、メディウム王国と呼ばれていたわ。
メディウム王国最後の国王が魔女をひどく嫌っていて、国王の命で魔女狩りが行われていたの。それはもう魔女を人と扱わないもので、捕まったら火炙りの刑に処されたわ。
国王は魔女だけでなく、魔女と同じ黒髪を持つ人や魔法使いも魔女狩りの対象にしたの。王国北部を中心に多くの人が殺されて、魔法使いは南へ逃げることを余儀なくされたわ。
そんなときにこの孤児院に預けられたのがエマ、あなたよ。
生まれて間もない赤子の両親は共に宮廷魔法使いで、お貴族様だった。けれど、魔法嫌いの国王に王都を追放されて、魔女狩りの対象になったわ。
『今は守る余裕がないから預かってほしい』
『必ず迎えに行きますから、それまでよろしくお願いします』
そう言って赤子をわたしに預けて、二人はどこかへ行ってしまった。
けれど、二人が戻ってくることはなかったわ。大規模な魔女狩りだったから恐らく――。
いえ、憶測を語るつもりはないわ。生死を証明するものは見つかっていないもの。
でも、わたしは二人が約束を破る人ではないと信じてるわ。もしも生きているなら、いつかきっと迎えが来るでしょう。
約束を果たせず亡くなったのなら……一発お見舞いしてあげましょうか。エマに孤児の道を歩ませた罰よ。
エマ、わたしの言葉では説得力がないかもしれないけれど、あなたの両親はあなたを愛していたわ。大切が故に、守りたいがために、わたしに預ける決心をしたの。
それだけはわかってあげてちょうだい。
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「そっか……あたしの親はもういないんだね」
「えぇ、その可能性が高いわ。……辛くないかしら?」
「二度と会えないのは覚悟してたし、迎えに来るつもりがあったとわかっただけで十分だよ」
テレージアの話を聞き終えて、エマは笑みを浮かべた。どこか悲しそうで、元気のない顔だ。いつもは大輪の花が咲いたと錯覚するほどなのに、今はしおれて垂れ下がっているように見える。
「辛いときは泣いてもいいのよ」
「辛くなんか……ううっ、本当のお母さんとお父さんに会いたかったよぉ。もう会えないなんて、どうして魔女狩りなんてしたの、昔の王様は?」
「一番の理由は魔法に長けた弟の存在だな。魔女の血を引き黒髪で、生まれた順番が違えば国王になっていてもおかしくなかったお方だ」
「ラットのばかぁ。そんな説明、求めてないよ」
「なっ……」
エマの八つ当たりに律儀に答えるなんて、ヴェラットは意外と真面目なのだろうか。
「若いのに詳しいのね。ラットさんと言ったかしら?」
「ヴェラットだ」
「ヴェラットさんね。あなたの魔力は不思議……まるで二人分の魔力を持ってるみたい。あなたを見ているとルドルフを思い出すわ。あの子も二つの魔力を持っているの」
「……そんなこともわかるのか、こちらの魔力感知持ちは何も言わなかったが」
ヴェラットがこちらをちらりと見る。巧妙に隠しているせいと思ったけれど、テレージアにはヴェラットの魔力も感知できるようだ。私の魔力感知の精度は低いのだろうか。
二人分の魔力、恐らくもう一人は谷の魔女だろう。血には魔力が多く含まれる。それを口にしたヴェラットやルドルフから谷の魔女の魔力を感知してもおかしくない。
「さて、お次はカイの話かしら」
「……どうする、カイ? 聞かない選択肢もあるよ」
「いや、エマが聞いたんだから僕もちゃんと向き合うよ。あまり気分のいいものではないと思うけど」
カイの顔色を覗ったエマは、「お願い」とテレージアに頼んだ。
「あまり大っぴらにする話ではないから、小声で話すわ。カイの正体を知っても接し方を変えないであげて。触れられたくないでしょうから」
「うん、わかった」
「……カイはお貴族様と奴隷の間に生まれた子なの」
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これはカイを保護した騎士様から聞いたお話よ。
メディウム王国からリーシュ王国になって奴隷制度は廃止になったけれど、お貴族様の中には奴隷を飼っていてる人がいたの。
不満の捌け口や欲を満たすために奴隷を利用して、子どもを孕ませた。カイが生まれたのは汚い檻の中で、母親はすぐに亡くなったらしいわ。
カイは生まれながらにして貴族の奴隷になることが宿命づけられていて、言葉遣いや上下関係などを徹底的に教えられたそうね。敬語や文字の読み書きを身につけたのはこの頃でしょう。
引き取られたばかりの頃は鞭で打たれた痕が酷かったから、学ぶことを強要されたのね。
カイが五歳の頃、奴隷を飼っていることを知られたお貴族様は騎士様に捕まり、カイは自由の身になったわ。そしてこの孤児院に連れて来られたの。
最初の頃は部屋の隅で見るもの聞くもの全てに怯えていたわ。特に大人の男性が苦手みたいで、身体を縮こませていた。
そんなカイの閉ざされた心を開いたのがエマよ。彼女は拒絶されるのもお構いなしにカイに話しかけ続けたわ。エマの優しさがカイにも伝わったのでしょう、太陽は凍った心を解かし……
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「そこまで話さなくてもいいですよ」
「あらやだ、話すのに夢中になってしまったわ」
カイの言葉でテレージアの語りが終わった。
奴隷として檻の中で過ごした幼少期、孤児院出身なのに敬語を話せること、カイが博識な理由……その全てが明かされて、私はどう声をかければいいのかわからなかった。
「ほらやっぱり。忘れたものはそのままでいいんだよ」
カイが無理矢理に浮かべた笑顔は痛々しく、本当に自分の過去を追ってもいいのか考えさせられた。




