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仲間の故郷編第4話 上級冒険者

「お見事!」


 変異種を討伐した達成感に浸っていると、後ろから拍手がした。試験の監督兼護衛を務めたハンスだ。


「いやぁ、変異種と知って逃げ帰るかと思ったけど、危なげなく倒したね。諦めるかと思ったのに」

「え、逃げたら違約金が発生するって言ったの、ハンスさんだよね?」


 逃げて当然と言いたげなハンスに、エマが首を傾げる。


「その話は嘘。依頼内容と実際の魔物が違うんだから、問題は依頼主側にあるよ」

「ええっ!?」

「安価で冒険者を雇おうとする人もいるから気をつけてね〜。特に君、騙されやすいでしょ」

「うっ」

「ま、君達四人だけで上級依頼を達成、腕前も連携も問題なし。おめでとう、これで君達も上級冒険者の仲間入りだよ」


 最後の言葉を聞いて、エマが私達を振り返る。満面の笑みだ。


「やったぁ! ついにここまで来たよ!」

「よっしゃあ! もっと強いヤツと戦えるぜ」

「僕も嬉しいけど、一旦落ち着こうか。冒険者ギルドに戻らないと依頼達成も昇級もできないよ」

「……あ! また騙そうとしたの!?」


 冷静なカイの突っ込みに頭上で手を打ち合わせていたエマとレオが衝撃を受けた顔をする。ギルド職員のハンスが吹き出した。


「ぷっ。君達、見てて飽きないね。応援したくなっちゃう」

「早く戻ろうよ、みんな! そして上級冒険者になるの!」


 山を降りて街に戻ると、カイは討伐証明である魔石を提出した。


「属性魔石ですが、まさか変異種だったのですか?」

「はい」

「本来は中級が受ける依頼ではないのですが、こちらの不手際です。『狼の集い』の上級昇進を認めましょう。それから、エマさん、レオさん、ソフィさんの三人は単独(ソロ)でと上級冒険者を名乗っても構いません」

「あれ、カイは?」


 個人としても上級昇進が決まったけれど、一人だけ名前を呼ばれなかった。


「残念ながら、カイさんは上級の域に達していません。守りの要となる盾使いは大柄な人が多いですから」

「でも……」

「大丈夫だよ、エマ。わかっていたことだから」


 カイが笑みを浮かべてエマを止める。どこか寂しげな笑顔だった。


「皆の手続きをお願いします」

「……承知しました」


 全員分の冒険者プレートを受付に預ける。返ってきたそれには「上級中位」であることを示す星が二つ並んでいた。


「あれ? 上級に上がったばかりだけど中位なの?」

「あれ、そうなのかい? レオは『上級下位』だけど」

「ソフィは?」

「上級中位」


 仲間の中でも中級上位から上級中位までバラけているようだ。

 上級中位になるとヴェラットと同列だ。彼の冒険者歴が短いだけで、実力が同じというわけではないけれど。


「魔法使いは数が少なく、特に回復魔法を扱える冒険者はほとんどいないため、そのような格付けになりました。性能が申し分ないことも確認済みです」

「じゃあ、ほんとに上級中位なんだ……えへへ」


 エマがにやりと笑う。


「さすがのヘルガもまだ中位にはなってないでしょ。これであたし達が一歩リードだね!」


 今もグラッツェルで活動しているであろう友人に向けて、勝ち誇った笑顔で言った。


「お前ら、帰っていたのか」


 そんな私達の背後から声をかけたのはヴェラットだ。


「それで、昇級はできたか?」

「もちろん! よく見て、あたし上級中位になったの。ラットと一緒だよ!」

「……あいにくだが、先日上位に上がったところだ」

「ええっ!? 追いついたと思ったのにぃ」


 やはりヴェラットに追いつくのは簡単なことではないようだ。元騎士に対抗心を燃やすつもりはないけれど。


「パーティーは上級になりましたが、僕だけ中級のままです」

「さもありなん。カイはもっと守りの技術を磨いた方が良かろう」

「体格差があって上を目指すのは難しいと、ギルド職員に言われましたが……」

「その差を補うのが身体強化と魔道具だ。今の装備でも魔石と魔法陣があれば強力な盾になるから、手を貸してやろう。それともドワーフの盾に新調するか?」


 レオを強化したヴェラットは、カイの強化にも取り組むつもりのようだ。守りが高まれば後衛の私とエマは魔法に集中できるから、カイが強くなるのは大歓迎だ。


「こちらの魔石は使えますか?」


 そう言ってカイが取り出したのは先ほど討伐したシュタインプフェーアトの魔石だ。黄色だから土属性の性質を持つらしい。ヴェラットが私に視線をよこした。


「ソフィ、カイの魔力適性はわかるか?」

「水。波も流れもない穏やかな水面。深い海のような青色」

「……適性だけで十分なのだが、そこまで視えるのか?」


 私に意見を求めたのはヴェラットなのに、信じられないものを見た顔になった。

 細かい違いが分からなければ、魔物を見分けることもできないだろう。索敵をする者としてわかって当然と思っていたのに。


「ヴェラットは風。一見穏やかに見えて、実は荒れ狂う竜巻が……」

「俺の魔力を視る必要はない」


 ヴェラットがどんな魔力をしているのか教えようとしたけれど、余計なお世話と遮られた。


「その魔石は土属性だから、水に適性を持つカイには合わないだろう。属性魔石は俺が用意するから、その魔石の使い道は好きにしろ」


 後日、ヴェラットはカイの盾に魔法陣と呼ばれる不思議な模様を描き、中心に青い魔石を填めた。カイが盾に魔力を流すと、水の膜が広がってありとあらゆる攻撃をはね返しすように。

 性能とカイが問題なく扱えていることを確認したギルド職員は、カイを上級冒険者と認めた。


「これが国境門なんだね! 大きくて古くて立派だけど、閉まったままで誰も近づかないよ。ドラゴンも見当たらないし」


 昇級試験に夢中で忘れかけていたけれど、私達はマークヴェストを去る前に南西の国境門を見に行った。

 石造りの重厚な壁に閉ざされた門。門番の騎士が数人いるだけで人通りはない。


「国境門の先は西の荒れ地という草木の生えないひび割れた大地が広がっている。荒れ地を抜けた先には国があると聞くが、現状海路でしか行くことができない」

「そうなんだ、残念」


 しばらく眺めていたけれどドラゴンが姿を現すこともなく、私達は王都とマークヴェストを繋ぐ西街道を歩き出した。


 王都に帰る前に寄りたい場所。

 二つ目は仲間達の故郷だ。

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