仲間の故郷編第1話 候爵領マークヴェスト
本日より連載再開です!
第一章の内容をまとめたものを公開したので、よろしければそちらもご覧ください。
私ことソフィは魔女だ。
かつて大陸を支配したことで忌み嫌われている存在。長命で多彩な魔法を操る。それが私の知る魔女だ。
けれど、全ての魔女が悪とは限らない。災厄の魔女に立ち向かったのも魔女だし、お人好しな魔女がいることも知っている。
後者は私の育て親で、森の魔女だ。心優しい人で魔女は悪という言葉から最もかけ離れている。
五歳のあの日、私は今までの記憶全てを失う代わりにかけがえのない仲間を得た。
冒険者パーティー「狼の集い」は私の命の恩人であり、居場所だ。
けれど、私はまだ知らない。自分を生んだ本当の母親を、何故自分は捨てられたのかを。
そしてそれは、仲間の多くも同じだった。
回復魔法使いのエマ、彼女は生まれて間もない頃に孤児院に預けられた。
盾使いで現リーダーのカイ、彼は孤児院に保護される前の記憶を自ら封印したと語った。
格闘家のレオ、彼は燃える孤児院の中から唯一救出された子どもで、記録も記憶も残っていなかった。
親を知らないのは私一人ではない。仲間のほとんどが似たような境遇で、だからこそ支え合って生きている。
けれど、気にならないと言えば嘘になる。私を含めて皆、過去を知りたいと願っているだろう。
だから私達は仲間が育った故郷へ赴く。過去を知り、前へ進むために。
これはそんな旅路だ。
❋❋❋
「ここがランメルツか!」
「レモンのいい香りがするな」
海を目指す旅が終わり、最後に短い間だけれど船で海を渡ることができて大満足の旅だったと思う。それは私だけではないと、仲間の笑顔が語っている。
私達中級冒険者パーティー「狼の集い」はランメルツまで送ってくれた「荒波の誓い」と別れて、王都に帰還する予定だ。
その前に寄りたい場所がいくつかある。
まずはマークヴェスト候爵領の領都。行きはロイス村を訪れただけだし、乗合馬車に乗れてドラゴンを見れるかもしれないとエマが乗り気だ。
私だけドラゴンに会ったことがあるとは口が裂けても言えない。
乗合馬車の代金はそこまでかからなかった。護衛依頼も受けたから、その分料金が安くなったのだ。
後は交代で護衛する順番やどの組み合わせで護衛するかを決めるだけ、と思ったけれど想定外の事態が発生した。
「ごめん……これはちょっと無理かも」
口を押さえて馬車を止めてと頼んだのはカイだ。街中やその周辺は整備されているから揺れが少なかったけれど、土の道になった途端揺れが激しくなって乗り物酔いをしてしまったらしい。
その結果、カイは夜以外交代せずに護衛を務めることになった。護衛は二人いれば十分だから、残りの一人は私とエマとレオが交代でやり、夜はヴェラット一人に任せて体を休める。
明るくなったら移動を再開し、日がまだ高いうちに領都に到着した。
「わぁ、石造りの街並みだ! ソフィよりも背の低い人がいっぱいいるよ」
「彼らはドワーフだ。ロイス村でも見たであろう?」
領都マークヴェスト。王都周辺の木造建築ともフリートベルク周辺の漆喰塗りの建物ともまた違った魅力がある。
ここに来た目的は主に二つ。
「国境門があるんだよね? 近くで見てみたいなぁ」
「……ただ壁と門があるだけだが」
「ドラゴンが出るんでしょ?」
「近くの遺跡に住み着いている奴が極稀に遥か上空を旋回するだけだ。雲があると見えないかもしれぬ」
街を散策して、あわよくばドラゴンを一目見ること。
そして、もう一つは。
「ヴェラットさんの剣はどこで手に入れますか?」
「ドワーフ製の物が望ましいが、一介の冒険者に打ってもらえるかどうかが問題だな」
新しく加入したヴェラットの剣を新調することだ。前使っていた剣はシュヴァルツベーアとの戦いで折れてしまい、今は冒険者向けの武器屋で買った安物を使っている。
「とりあえず、冒険者ギルドに寄った後に武器屋を覗けばいいかな? 良いものが見つからなかったらドワーフに頼むということで」
「あぁ、それで構わない」
話しながら大通りを歩けば冒険者ギルドが見えてきた。中に入り、いつも通り冒険者プレートを見せる。
「中級の狼の集いさんですね。上級に昇級のための貢献度が溜まっていますが、昇級試験を受けますか?」
「えっ?」
受付から予想外のことを言われて固まってしまう。
昇級試験、つまり上級冒険者になれる機会だろうか。
「そんなこと、フリートベルクでもランメルツでも言われなかったけど、ラット……が入ったから?」
ヴェラットが正式に仲間に加わってから、エマは彼をラットと呼び捨てするようになった。変えたのはエマだけだけれど。
レオは元からラットだし、カイはまだヴェラットに心を許していないのだろう。私は変える必要性を見出だせていない。
「いえ。ヴェラットさんの実績は個人の能力によるものが多いので、パーティー実績には含めていません。フリートベルクなどで昇級の話が出なかったのは、あちらの方が昇級に必要な貢献度が高いためです」
「……だから冒険者の質が高かったのか」
「試験の際はパーティーメンバーであっても上級冒険者の力を借りることはできません。試験内容は掲示板にかけられた上級冒険者向けの討伐依頼を一つこなすことです。今から昇級試験を受けますか?」
「少し相談させてください」
一旦受付から離れて、邪魔にならないところに移動する。
「上級冒険者向けの依頼は僕達四人だけでこなせるものなのかい?」
「さぁ、最近は他のパーティーと組んで魔物を討伐することが多かったからね。でも、乗合馬車の護衛中に襲って来た魔物は大したことなかったよね?」
「あぁ、弱すぎてつまんなかったぜ!」
どんな魔物と戦ったか思い出そうとしたけれど、私が魔法を使うまでもなくレオが蹴散らしたので記憶に残っていない。一撃で仕留めたのは間違いないだろう。
試験をいつ受けるか話し合っていると、ヴェラットが溜め息を吐いた。
「……お前らは自覚がないのか? 短い間とはいえ敵も味方も強いフリートベルクで生き残ったのだ、ドラッヘ山脈から離れた地に生息する魔物など敵ではない」
「そうなの?」
もしもヴェラットの言葉通りなら、ほとんど観光目的だった今回の遠征に意味があったと言える。
それを証明するためにも昇級試験を受けてもいいかもしれない。
「俺はよい剣がないか探すから、お前らは上級に上がっておけ」
「わかった! 夕方までに終わらせてくるね!」
建物を出ていくヴェラットを見送り、私達四人は受付に戻った。
「昇級試験、受けます」
「承知しました。では、二階にある掲示板から討伐依頼を一つ選び、ギルド職員の前で魔物を討伐してください」
「二階……」
多くの冒険者ギルドは三階建てだ。一階に一般者向けの依頼掲示板と受付、酒場。二階に上級者向けの依頼掲示板。三階にギルド職員の部屋があるらしい。
二階に上がれるのは上級冒険者になってからなので、行くのは初めてだ。少し緊張しながら階段へ向かう。
「おい、あいつら二階に行く気だぞ」
「まだ若いのに早ーな」
「しかも黄色い髪の子……可愛いなぁ」
「もう一人の女は身長的にドワーフか?」
「ドワーフが杖なんて使わないだろ」
街に初めて来た私達を注視していた冒険者達がざわめく。
どうして私の話をするときにドワーフが引き合いに出されるのだろう。不思議に思いながら階段を登った。
部屋に入った途端、ぎらついた視線に晒される。一階とは視線の圧が違う。これが上級冒険者の世界なのだと唾を呑んだ。
「うおっ! つえー奴がいっぱいいるな!」
「依頼掲示板はあれかな。見た目は一階と変わんないみたい」
そんな視線に動じることなくレオとエマは中に入る。カイは盾を構えながら、私はなるべく自然体で二人の後に続く。
「色々あるんだね。やっぱりここは戦闘経験のある……」
「コイツ、初めて見る名前だぜ! 戦ってみねーか?」
安全な策をとろうとするエマの横で、文字を読めるか怪しいレオが一つの依頼を指差す。そこには「シュタインプフェーアト」と書かれていた。




