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第4001話 チュートリアル

エイプリルフールネタです。

「……ここは?」


 目を開けると知らない地に一人立っていた。

 私はソフィ、中級冒険者パーティー「狼の集い」の魔法使いだ。仲間と一緒に魔物を討伐していたら、突然眩い光に包まれて、気がつくとここにいた。


 どこかで見たことのある景色のような気がするけれど、思い出せない。

 仲間の姿も見当たらない。


 状況を把握していたら茂みがガサガサと揺れ動いたので、杖を構える。構えてから先ほどまで何も持っていなかったような気がしたけれど、気のせいだろうか。


「あれ、ここどこだろう?」

「前にも来たことがあるはずだよ」

「うおー、何が起きたんだよ!?」


 三方向にある茂みから出てきたのは仲間だったので構えを解く。

 回復魔法使いのエマと盾使いのカイ、それから武闘家のレオだ。


 もう一人、最近仲間に加わった人がいるけれど、ここにはいないようだ。

 元リーダー、ルドルフの姿もない。


「うーん……この場所、なんか引っかかるんだけどなぁ。思い出して、あたし。いつ訪れたの?」

「多分ここは……」


 ――アオーン。


 カイが何かを言いかけたけれど、遠吠えにかき消された。私達の間に一瞬で緊張が走る。


「この遠吠え……間違いない、ここは初めてグラオヴォルフと遭遇した場所だ」

「うそ!?」

「あのオオカミだな! 今度こそ倒してやるぜ!」

「待って、まだ心の準備が……」

「相手は待ってくれない」


 グラオヴォルフの群れの魔力を感知する。数は十だろうか。群れの手前に別の魔力反応があって、思わず息を呑んだ。

 ひび割れた荒野のような大地が隆起するさま。そんな印象を受ける魔力反応は、私達がよく知る人物のものだ。


「リーダー?」

「え?」

「僕のこと……ではないよね。ルドルフ兄さんがどうしたんだい?」

「グラオヴォルフに追われながら、こっちに来る」

「は?」


 三人とも疑いの目を向けてくるけれど、私の魔力感知に誤りがないことはすぐに証明された。


「しつこい奴らめ。俺がただ逃げてるだけと思ってるのか? 馬鹿にするなよ、仲間の元へ誘き寄せてやったのだ」


 無造作に伸びた銀髪、淀んだ赤い瞳、左頬を斜めに走る傷跡、他者を寄せつけない一匹狼のような雰囲気。

 狼の集いの元リーダー、ルドルフがグラオヴォルフに追われながら登場した。


「アニキ!」

「ルドルフ! 会いたか……」

「何突っ立ってるんだ、お前ら。相手は狼型の魔物、俺達は『狼の集い』。どっちが本物の狼か、決着をつけようぜ」


 そう言って大剣を構える彼に既視感を覚えた。

 これではまるで……


「ルドルフこそ何してるの!? あたし達だけで戦っても勝てないよ!」

「何故そう決めつける? やってみないとわからないじゃないか」

「だから前に戦ったことがあるから……」

「それは()()()()だ?」

「え……?」

「いつ俺達がグラオヴォルフと戦った?」


 ルドルフは本気でエマの言葉を不思議に思っている。まるで、彼だけグラオヴォルフと戦った記憶がないかのように。


「……ソフィ、時間が巻き戻る魔法は存在しないよね?」


 カイに問われて少し考える。


「聞いたことがない。時間は一方向に流れるもの。一時的にに止めることはできるかもしれないけれど、遡るのは現実的でない」

「うーん、兄さんの言動から初めてグラオヴォルフに遭遇したあの日に戻ったのかと思ったけど、違うのかな」


 自分達だけ過去を知った状態。そんなことが起こるはずがないと思う一方、もしも奇跡が起きたのなら私がとるべき行動は一つだ。


「ルドルフが怪我することなく全員で生き延びたい」


 自分の望みを伝えると、カイは慎重な姿勢を見せた。


「……過去を変えるつもりかい? 兄さんを助けたいのは僕も同じだけど、兄さんがいなくなったことで起こった変化が全てなかったことになるかもしれないよ。どちらがいいのか僕にはわからない。それでも行動するのかい?」


 黒衣の剣士ことヴェラットと仲間になれないかもしれない。

 海を目指す旅すらしないかもしれない。


 けれど。


「ルドルフを護る。そのために強さを求めたのだから」


 海を見たいという欲求が大きかったのは否めないけれど、遠征を経て肉体的にも精神的にも強くなることを望んだのは私達だ。

 全てはルドルフが帰ってきても胸を張れる冒険者であるため。


 今の私達にはフリートベルクで得た経験がある。走ったり魔法を使い続けたりといった、それぞれの日課を欠かさなかった。

 日々の努力を見せるのは今だ。


 ……なのに、どうして。


 フリートベルクで鍛えたはずの土魔法は精度、速度、威力、全てにおいて劣化していて、火魔法に至っては火を自由に操ることができない。

 当然、そんな攻撃で傷をつけられる相手ではなかった。


「魔女なら有効打の一つくらい見つけろよ」

「……」

「ちっ、無視かよ」


 ルドルフの嫌味も事実としか言えない。

 谷の魔女、白の魔女、波間の魔女、森の魔女、そして災厄の魔女。海の魔女が戦う姿は見たことがないけれど、どの魔女も私の遥か上を行く実力の持ち主だった。


 彼女らに比べて、私は弱い。だから強くなって仲間を守れるようになりたい。いや、ならなければならないのだ。


「なんかよくわかんねーけど、この身体、戦い辛いぜ。自分の想像より動きが遅いし、痛みをあまり感じないな。どうなっちまったんだよ、オレの身体!」

「確かに、あたしも怪我の治りがいつもより遅い気がするよ」

「僕達の能力もあの日のまま……かもしれないね」


 仲間も違和感を覚えているようで、冒険する前の強さに戻ってしまったのだろうか。

 それではあの日の繰り返しになってしまう。


「くそっ……」


 ルドルフが苛立ちに任せて大剣を振り上げるのが見えた。


 まずい。


「これでも喰らえ!」


 グラオヴォルフの首に剣を振り下ろすも、剣が真っ二つに折れてしまう。


「なっ!?」


 驚いて固まるルドルフ。

 私の身体は無意識のうちに動いていた。


「貴様、何を……」


 渾身の力でルドルフを突き飛ばす。隙をついたグラオヴォルフの噛みつき攻撃が迫るなか、私は安堵した。


「良かった、ルドルフを助けることができて」

「っ! な、何故笑ってる?」


 今私は笑っているのか。彼に言われるまで気づかなかった。

 笑顔の理由に思い至る前に、背後から首を噛まれた感触がして視界が暗転する。


 私は死んだと思うけれど、真っ暗な空間に浮かぶ文字らしきものは何だろうか。


「ゲーム……オーバー?」


 かろうじて読めた文字を読み上げると、視界が切り替わる。

 グラオヴォルフに遭遇したあの地に、仲間と共に戻ってしまった。皆、戦いがなかったかのように怪我一つない。それは私も同じで、首を触っても噛まれた痕はなかった。


 そして――


「よぅ、俺達は『狼の集い』。どっちが本物の狼か、決着をつけようぜ」


 ルドルフとグラオヴォルフの群れが現れて、終わることのない戦いが始まった。




 これはもしかしたらあるかもしれない「忘却の魔女の旅路」の冒険RPG。

 チュートリアル――グラオヴォルフとの初戦のクリア条件は、仲間全員が死亡せずに戦闘を終えること。


 チュートリアルを終えたら東西南北四つの街道から好きなルートを選べるのだが、それはまた別の話。

 まずは難解なチュートリアルをクリアして、新しい冒険を始めよう。

※この物語はフィクションです。本作に登場したゲームは存在しませんし、ソフィ達がゲーム世界に閉じ込められたこともありません。

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