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第6話 地下通路

「ガキ五人だけか? 保護者はどうした」


 クノール村から北に歩き王都の南門に到着したエマ達は門番に足止めされていた。


「え、えっと。あたし達孤児だから親はいないの」

「孤児院から出稼ぎか? にしてはチビも交ざってるし、施設の奴がいるはずだ。身分証を見せろ」

「はい、これでしょ?」


 エマとカイとルドルフは背負い袋から木の板を取り出し、門番に見せる。大きな街に入るには身分を証明するものがいる、孤児院長が言った通りだ。


「……卒院にはまだ早い年齢だが、身分証は本物のようだな。お前ら三人は通っていいぞ」

「三人()?」

「赤毛と黒髪、その二人は身分を証明するものを見せてねぇだろうが」

「うっ」


 思わぬ落とし穴にエマが呻く。別の孤児院出身のレオと村の人すら出自を知らないソフィの身分証なんてどこにもない。


「あたし達のことはわかったんだし、通らせてくれてもいいじゃない」

「駄目だ。そいつらが悪い奴じゃないってどう証明するんだ? 黒髪の方は立派な杖なんか持ちやがって。街で魔力暴走されたら困るんだよ」

「ソフィはそんなことしないよ!」

「根拠もねぇのにどう信じろと?」


 門番は威嚇するように槍で地面を打ち鳴らした。


「三人だけで通るか、全員諦めるか、どちらかを選べ。王都に入りたい奴はお前らだけじゃねぇんだ」


 夕焼けに染まるなか、エマ達の後ろには長蛇の列ができていた。これ以上訴えても門番がレオとソフィを入れてくれることはないだろう。エマ達は仕方なく門から離れた。


「ごめんね、みんな。王都の門を通るのがこんなにも大変だなんて知らなかった」

「近くにも冒険者ギルドがある街はあると思うよ。レヴィン男爵領とか」

「レヴィン……? それって遠いよね?」

「歩いて三日くらい?」

「あたし達子どもの足じゃ無理だよ。魔物が出るかもしれないし」


 王都周辺の村には常時騎士数名が警備についているので魔物に襲われる心配はないが、王都から離れると出くわすかもしれない。魔物とやり合ったことのないエマ達が行くのは無謀だ。


「……」


 ずっと思案げな顔で俯いていたルドルフが顔を上げた。


「……ついてこい。今でも残ってるはずだ」

「え、何が?」

「昔あったとされる王国の地下通路だ」

「なにそれ楽しそう!」

「ワクワクするな!」

「……僕はちょっと怖いよ、エマ」

「ならお前は一人で列に並んで街に入ればいい」


 草むらをかき分けながら歩くルドルフの後ろを、エマとレオがわくわくした顔でついていく。ぼーっとした様子のソフィはエマに手を引かれ、カイもエマと離れるよりましだと後に続いた。


「ここだ。草の振りをしてるが、草の匂いがしない」


 ルドルフが四つんばいになって匂いを嗅ぎ分ける。見た目にはわからないが、彼が手探りすると取っ手があった。取ってを引っ張り上げて中を覗く。


「梯子がある。俺が先に降りるから、お前達は俺が許可を出すまでここにいろ」

「わかった。気をつけてね、ルドルフ」


 ルドルフが梯子を降りていき、やがて闇の中に姿を消す。じっと待つのが苦手らしいレオが何度も「まだかよ?」と聞いたが、エマは静かにルドルフの声を待ち続けた。


「いいぞ、降りてこい」


 耳を澄ましていると闇の向こうから声がした。

 エマ達も順番に梯子を降りて地下通路に降り立つ。中は真っ暗で何も見えないから、ルドルフの夜目と皆の呼びかけを頼りに進んだ。


「ルドルフはどうしてこの道を知ってたの?」

「……知り合いから聞いた。大昔の人が破壊される街から逃げ出すために作られたらしい」

「ルドルフの知り合いかぁ。山に住んでる人なの?」

「山というより谷間だが、そうだ」


 バサバサ、と何かが頭上を飛び回る。


「きゃっ!」

「ただの蝙蝠だ。魔物じゃない」

「だとしても怖いよ。姿まったく見えないし」

「そこの壁は触るな」

「え、どこ? ……ひゃっ!」

「……蜘蛛がいるが間に合わなかったな」

「もういやー! どうしてこんなとこ歩かないといけないの?」


 目の前にいる人すらほとんど見えない状況に、エマは今すぐ引き返して自分一人だけでもいいから街に入りたくなった。しかし、先を歩くルドルフの声が無情に響く。


「もう日没は過ぎた。門は閉じているだろう。いつ魔物が出現するかわからない地上に出て日が昇るのを待つのか?」

「……それは嫌」

「外の世界というものは常に死と隣り合わせだ。これから先も避けては通れない道が数多くあって、五人の内誰かが命を落とす可能性もある。そんな冒険者になりたいと言ったのは誰だ?」


 ルドルフの言葉は正しく、覚悟が足りなかったのは自分の方だとエマは思い知る。


「……あたしだよ」

「なら弱音を吐くな。どんな道も行くと決めたなら進め。敵わない相手から逃げても構わないが、責任から逃れられると思うな。リーダーはお前だからな」

「うん、できる範囲でがんば……って、リーダーってあたしなの!? ルドルフじゃなくて?」


 エマの驚いた声は地下通路に反響した。しばらく手で両耳を押さえていたルドルフは、眉間にシワを寄せてエマを睨む。


「うるさい。俺を仲間に誘ったのはお前だろう」

「それはそうだけど、ルドルフの方がリーダーっぽくない? ねぇ、みんなもそう思わない?」

「リーダーは君じゃないかな。僕はあの人の後ろを歩くつもりはないよ」

「オレはアニキに一生ついていくせ!」

「……」

「ほら三対二でルドルフの勝ちだよ」

「いや、どう考えても二対二だろう」


 この場にいるのは五人。二人はまだ答えていないソフィに目を向けた。


「ソフィはどっちがリーダーに相応しいと思う? ルドルフだよね?」

「いや、お前に名前と仲間を授けたのは誰だ? エマこそリーダーと言えるだろう」

「どっちがリーダーだと思う、ソフィ?」


 不意に詰め寄られたソフィは目をぱちくりとした。


「リーダー?」

「そう、冒険者パーティーを率いる人だよ。リーダーに登録できるのは一人だけなの」

「年長者がいい」

「え?」

「一番年齢を重ねている人がリーダー。かあさんがそう言ってた」

「“かあさん”?」


 ソフィの口から初めて聞く家族の存在にエマは記憶が戻ったのかと期待したが、ソフィは「……誰だっけ」と首を傾げた。


「年長者、つまりこの中で一番年齢が上の人がリーダーに相応しいんだね? あたしは八歳!」

「僕は六歳」

「オレは七だぜ!」

「五?」

「……八だ」


 ルドルフの返答にエマは「あれ?」と首を傾げる。


「ルドルフ、孤児院(うち)に来たとき九歳って紹介されてたよね?」

「……ちっ、覚えてたか」

「嘘はよくないよ。ということで、リーダーはルドルフに決定!」


 地下通路を歩きながら、冒険者志望のリーダーが決まる。その集団の名前はまだないが、彼らは角をいくつか曲がり、梯子を登って冒険者ギルドに辿り着いた。

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