第5話 新たな仲間
「オレはレオだぜ、よろしくな! 銀髪の兄ちゃん、オレを助けてくれたんだって? 何があったか覚えてねーけど、ありがとな!」
燃える孤児院から救出された赤毛の少年は、ほどなくして目を覚ました。事情を説明されると、彼はルドルフを尊敬の眼差しで見上げる。
「アニキって呼んでもいいか?」
「お前の兄になった覚えはない」
「よろしくな、アニキ!」
「……」
ちゃんと話を聞いていたのか定かではないレオからルドルフは目を逸らし、こちらも目覚めてそれほど時間が経っていない黒髪の少女を見る。
あの髪色を見るだけで怒りが抑えられなくなり、背中の剣を抜いて少女に迫った。
「危ないっ!」
「へ?」
ルドルフの不意打ちにいち早く気づいたのはカイだ。エマとソフィの前に立ち、お鍋の蓋を構える。ルドルフは剣先をカイに向けたまま睨みつける。
「どけ、お前に用はない」
「その剣でエマを傷つけないと約束してよ」
「……お前は何を言ってる? 俺が斬りたいのは黒髪の方だ」
「あれ、そうなの?」
ルドルフの狙いがエマではないとわかるや否や、カイの顔から険がとれた。そのまま道を譲ろうとする彼に、待ったをかけたのはエマだ。
「ソフィのことも守ってよ、カイ! あたしの友達なの。怪我させたら許さないからね」
「……狙いが誰であろうと僕は動かないよ。後衛を守る盾だからね」
エマの言葉で瞬時に守りの態勢をとったカイとルドルフが睨み合う。一触即発のなか、どこからともなくお腹の音が響いた。
大きな音が鳴った先にいたのはレオだ。
「わりぃ、朝飯食ってねーから腹減った」
空気を読まない堂々とした発言に、エマは思わず吹き出した。
「ぷっ、朝ごはんって……今お昼だよ?」
「バツとして抜きにされたんだよ!」
「へぇ、何したの? もしかして悪い子?」
「……ちょっと村の外に出ただけだぜ。ぼーけんしゃになって強くなるためには、外の空気を吸うのが一番だからな」
「冒険者!?」
エマにはレオの理論が理解できなかったが、冒険者になりたいのなら黙ってられない。
「へへっ、オレはケンカが強いんだ。自分の拳と脚だけで大人を倒せるんだぜ!」
「すごい! あたし達も冒険者になりたくて王都を目指してる途中なの。一緒に冒険しようよ!」
「おぅ、いいぜ!」
レオの加入が決まり、エマは一人残されたソフィと目を合わせた。
「あたし達はこれからおっきな街に行って冒険者……魔物を倒したり人助けをしたりするんだけど、ソフィも一緒についてくる?」
「ぼうけん?」
「そう、海とか森とか山とか見たことがない場所を旅するんだよ! 楽しそうだと思わない?」
ソフィがこくりと頷いたのを見て、エマはますます勧誘に力を入れる。
「あたし、一緒に旅する女の子の仲間が欲しかったんだよね。もちろん危険はいっぱいあるけど、あたし達の仲間になってくれないかな?」
「おい、何故そいつを勧誘する。孤児なら孤児院へ、魔女ならここで殺すべきだ」
「こ、ころ……? 何言ってるの、ルドルフ!?」
レオの主張に一度は剣を下ろしたルドルフだが、ソフィを勧誘する様子を見て顔をしかめた。
「そんなにも嫌なら一人で冒険者になれば? 僕は君が抜けても困らないよ」
「魔女によく似た髪をもつアレが悪い。アイツさえいなければ……は?」
ソフィに敵意を剥き出しにしていたルドルフが不意に動きを止めた。眉間のシワが増したが、ソフィを見ているようで見ていない。みるみる凶悪な顔になっていくルドルフに、カイは怯えて距離をとる。
「くそっ、なぜ貴様の命令など……うぐっ!」
「ど、どうしたの!?」
何かを呟いたかと思うと、今度は苦悶の表情を浮かべて胸を押さえる。堪らずエマは駆け寄ったが、特に異常は見当たらない。
「どこか痛いの? 回復魔法は……」
「いらねぇ!」
「あぅっ!」
手を差し伸べるエマをルドルフが振り払う。力がこもっていたのか、エマは尻餅をついた。
「……魔女のガキの同行を認めるし、一緒にパーティーを組んでも構わない」
「ほんと!?」
「だが、ソイツのことを仲間と思うことはない。本性を見せたら俺に斬り刻まれると覚悟しておけ」
「怖いこと言わないでよ! まだ五歳だよ!?」
「見た目に騙されるな。魔女はガキの姿で何年も生きるかもしれん」
「そもそもソフィのどこが魔女なの!?」
まだ心ここにあらずといった様子のソフィを抱き寄せ、エマはカイの後ろからルドルフを睨みつけた。せっかくできた友達を斬り刻むなんてありえない。
再び響いたお腹の音が緊迫した空気を破る。レオは恥じる様子もなく「ケンカの前になんか食わせろー!」と叫び、「いい匂いがする!」とルドルフの背負い袋に飛びついた。
「な、何をする!?」
「こん中にメシいっぱい入ってるんだろ? 少しオレにもくれよ、アニキ」
「だからお前の兄では……」
「んじゃ、いっただきま~す!」
袋を勢いよく開け、乾燥させた肉にかぶりついた。
「固いけどうめーな! こっちのパンもうまいんか?」
「……コイツは馬鹿なのか?」
一心不乱に食を求めるレオに、ルドルフは呆れた顔をした。
「天然なのかな?」
「悪い人ではなさそうだね」
エマ達は隣村クノールでレオとソフィを仲間に加え、王都を目指すことにした。
孤児院は急に降ってきた雨のおかげで消火されたが、火災の原因はわかっていない。




