ソフィ視点 複合魔法の極み
魔女の葬儀屋の元で修行を始めてから約一年、いくつかわかったことがある。
まずあの青い炎は葬儀屋が持つ固有魔法で、私が再現できる可能性は低いことだ。
「魔女は自分しか扱えない固有魔法というのを持っているらしい。有名なのが森の魔女の転移魔法だな。固有魔法は他の魔女がどれだけ努力しても身につけることはできないと聞くが……」
「私は転移魔法を使ったことがある。成功例は少ないけれど」
幼少期に魔の森からウェネーフィカ旧館へ移動するときと、港街フリートベルクの門付近から波間の魔女が住んでいた高台の館へ移動するとき。
森の魔女のように日常的に使うことはできないけれど、使えはする。
「あんたはかなり魔女の血が濃いらしいな。今は無理でもそのうち青い炎も使えるようになるんじゃないか?」
「ならいいのだけれど」
次にわかったのは、たった二年の修行では葬儀屋の域には辿り着けないことだ。
葬儀屋は物心つく前から今に至るまで、百年以上炎だけを磨いてきた。
もともと火魔法に極めて高い適性を持つこともあり、魔女の血が薄くても極めて高い水準にある。
火を捨てて土を選んだ私とは違う。長年の積み重ねが葬儀屋を最強の炎の魔女に仕立て上げたのだ。
あのとき見せてくれた火魔法の極致、地中に眠るマグマに魔力を流して火山噴火を誘発させる魔法は、まだ私にはできない。
火では葬儀屋に敵わない。
土も適性でないから極めることができない。
ならば私にとれる選択肢は一つだ。
「複合魔法?」
「火と土を組み合わせて新しい魔法を生み出す。今はまだ爆裂しかできないけれど」
「……擬似的な複合魔法なら見せたはずだが」
「え?」
葬儀屋の言葉に今までの修行を振り返るけれど、心当たりがなくて首を傾げる。
葬儀屋が溜め息を吐いて山を降り始めた。
「思い出させてやる、ついてこい」
怒っているのかどうかわからないけれど、なるべく機嫌を損なわないよう静かに葬儀屋の後を追う。
葬儀屋が案内した場所ははげ山によく似た山だ。違うのは火属性の塊が今にも放出されそうなところだろうか。
「この山に魔力を流してみろ」
「でも……」
「いいから流せ」
葬儀屋に逆らえず、私は地面に手をついて魔力をほんの少し流した。
今にも噴き出しそうなマグマを感知する。私の魔力に反応して少し膨れ上がったように感じて、思わず手を地面から離す。
「はげ山は私が噴火させたばかりでエネルギーがほとんど失われている。魔法の練習をするならこっちの方がいいと思ってな」
「……いつ噴火してもおかしくないけれど」
火属性に適性がある人は火に耐性があると聞くけれど、さすがにマグマの中を生きていけないだろう。噴石が飛んできたら属性なんて関係ないし。
「あんたが目指すのは『仲間を守る力』なんだろ? だったらマグマだろうが噴石だろうが防いでみせろ」
「っ!」
葬儀屋の言う通りだ。この先どんな敵が現れるかわからない。私の魔法で皆を危険に晒すこともあるかもしれない。
火山噴火という超常現象からも守れるようにならないと。
「それに噴火だって制御しようと思えばできる。私が使っても誰も傷つかなかっただろ?」
「……そういえば」
「地中に眠っているマグマを起こすのは、地面に魔力を流すことを日常的にしている土魔法使いの方が得意だ。つまり……」
葬儀屋が真っ直ぐ私を見て言った。
「火山魔法こそが火と土の複合魔法の極みだ」
「複合魔法の極み……」
その言葉を反芻し、ごくりと唾を飲み込む。
「土魔法主体の最強魔法もあるかもしれないが、私に教えられるのは火魔法だけだ。地面に魔力を効率的に流すのもあんたの方が得意だろう。だから、私が教えるのは自然現象を自分の魔法として操る方法だ」
自然を操るのが魔法だけれど、噴火を操るとなると地震や洪水を故意に発生させるくらい難しいだろう。術者や仲間を守れないなら本末転倒だ。しっかり制御できるようにならないといけない。
「危険しかないし、この力を見た者が恐怖して国外追放に繋がるかもしれない。それでも知りたいか?」
葬儀屋の視線はかつてないほど真剣だ。この選択次第で自分だけでなく仲間の命運も左右するかもしれない。
それでも私は力強く頷いた。
「今度こそ仲間を守れるようになりたい。教えて、葬儀屋」
「……いいだろう」
葬儀屋が百年以上かけて辿り着いた境地に十何年しか生きていない私が目指そうだなんて、無謀な試みと思われるかもしれない。
けれど、森の魔女や谷の魔女、災厄の魔女などと渡り合うにはこれしかないのだ。
「まずは溶岩魔法からだな。はげ山から転がってきたものがここにある。これを土や石を操るように操作してみろ」
「わかった」
ゴツゴツとした黒っぽい岩に魔力を流すと、中に葬儀屋の魔力が残っていることに気づく。
他人の魔力を完全に追い出さないと操作するのも難しいだろう。
「……まだ動かさないのか?」
岩に手を当てたまま動かさない私を不審に思ったのか、葬儀屋が尋ねる。
この人は魔力感知が苦手だから、私が魔力を流していることも岩に自分の魔力が残っていることも気づいていないのだろう。
「もう少し待って。新しい魔法はコツを掴むまでが大変」
「それもそうか」
「けれど、岩を動かすのと本質的には変わらないかもしれない」
杖の頭部で溶岩を叩いて動けと念じてみると、ズズズと少し横移動した。
岩を変形させたり破裂させたりくっつけたり色々試してみる。確かに土魔法と同じ要領で操れるようだ。
「じゃあ次はこれだな」
溶岩を難なく操作できるようになった私を見て、葬儀屋が地面に手をかざす。ぐつぐつと煮えたぎるマグマの池ができた。
「最終的には自分で生み出せるようになってほしいが、まずは自分の意思で動かしてみろ。火を操るのとそう大して変わらん」
あなたの魔力に染められたものを自分の魔力で塗り替える方が大変なことに、どうして気づかないのだろうか。
効率がいいのかわからない修行に困惑しつつ、火山魔法を習得するための長い道のりが始まった。
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