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幕間 特訓「狼の集い」

「転移」


 私、ソフィは転移魔法の術式が刻まれた魔石を握って魔力を流した。

 草木の生えないはげ山から自然豊かな森へと景色が一変する。


「久し振り、ソフィ!」


 先に着いたと思われるエマの声がする。

 私が振り返る前に、誰かが目の前に現れた。


「待たせ……うおっ! なんでソフィが目の前にいるんだよ!?」

「それは私の台詞。急に私の目の前に現れないで」

「テンイマセキ? ってのを使っただけじゃねーか!」


 来て早々に騒がしくなるのはレオだ。

 彼から距離を取って辺りを見渡すと、エマとカイの姿が見えた。いないのはヴェラットだけだ。


「皆揃ったか?」


 まだ来ていないのかと思ったけれど、ヴェラットが茂みをかき分けて姿を現した。


「うん、全員いるよ!」

「では始めようか――『狼の集い』の特訓を」

「おぅ!」


 森の魔女との戦いで個々の弱さだけでなく、パーティー全体としての弱さも自覚した。

 だから季節に一度魔の森に集まって、修行の成果を見せつつ連携の見直しをすることになったのだ。


 まずは魔女との修行の成果を披露する。


「あたしはベルだけじゃなくて、白の魔女さんからも回復魔法を教わることになったの! 水と光の二属性使いになれたらいいなぁ。でも、小さな魔石を破裂させることなく魔力を込めるのがほんとに大変で! こういう魔力の扱い方って他の人も教わってるの?」


 ベルは草原の魔女の愛称だ。白の魔女にはさん付けなのに草原の魔女は愛称で呼び捨てとは、ずいぶんと仲がいいようだ。


「僕は魔法使いじゃないからそこまで繊細な魔力操作は覚えなくていいと言われたよ。教える本人もできないみたいだし」

「葬儀屋は制御した状態でも全てを燃やしてしまう。魔石を大きくしても原型を留めない状態になるのが容易に想像できる」


 転移魔石すら燃やすと言っていた人だ。何かに魔力を込めるという行為そのものが苦手と思った方がいい。


「山の魔女に至っては制御する気がなさそうだったな。無駄に魔力を込めて派手な魔法を使いたがる子どもだ」

「こっちのガートは……」

「制御という言葉を知っているかどうかすら怪しい。魔力が増幅と縮小を繰り返して、自分の修行に集中できなかった」

「なんでソフィが説明するんだよ!」


 雷鳴の魔女ガートルードははげ山と近いところに住んでいるから、常に魔力を感知できるのだ。

 ヴェラットが身体強化をしたときみたいに急に魔力が膨れ上がるから、落ち着かない。


「つまり、繊細な魔力の扱いを学んでるのはあたしだけってこと!? もっと派手な魔法を使えるようになりたいのに」

「僕も派手とは言い難いよ。ひたすら泡を生み出すだけだからね」

「泡?」


 カイに教えるのは海の魔女だ。港街フリートベルクにいたときに泡で誘拐されたのを思い出す。


「そう、泡魔法。海の魔女が言うには、泡も植物も極めれば最強の護りになるらしいよ。森の魔女のツタみたいにね。……ほら、こんな感じ。ヴェラット、攻撃してくれないかい?」

「あぁ、わかった」


 カイが盾の魔石に魔力を込めると、小さな泡が発生して風に乗ってふわふわと浮かんでいる。ヴェラットが狙いを定めて剣を振るうと、音もなく割れてしまった。


「まぁ、僕の腕じゃまだ盾になれないんだけど」

「じゃあ、次はオレの番でいいか? オレはな、身体強化ってヤツを覚えたぜ!」


 レオが籠手を外して拳を握りしめる。


「ぐぐぐ……」


 右腕に魔力が集まっていくのを感知する。ボコン、と筋肉が膨らんだ。


「はぁっ!」


 レオが何もないところに拳を突き出すと、衝撃波で髪の毛が揺れた。


「わぁ、強そう! でも、どうして籠手を外したの?」


 エマの言う通り、籠手と組み合わせればさらに威力が増すだろうし、手を守ることもできる。外さずにやるのが一番だ。


「これがあると拳に集めた魔力が勝手に流れてくんだよ。身体強化に慣れるまでは外しておけってガートが」

「レオもまだまだ伸びしろがあるね!」

「当然だぜ!」


 仲間の話を聞いていると、順調な人もそうでない人も前に進んでいるのがわかる。

 エマが期待した様子で私を見た。


「ソフィは葬儀屋さんだよね? 何を教わったの?」

「魔力を燃料に燃える青い炎」

「おおっ!」

「けれど、発現には至っていない」


 青い炎を見てから何日か経ったけれど、青い炎を出せたことは一度もない。皆が前に進んでいくなか、一人だけ足踏みしている気分だ。


「……教わることがあるならばよいのではないか?」

「ヴェラット?」


 声がした方を振り返って驚く。

 彼は温度を感じさせない目をしていた。


「我こそは最強の風の魔女と偉そうに言うから手合わせしてみたが、谷の魔女の足元にも及ばないな。いや、波間の魔女や森の魔女より劣っているかもしれない。口だけの弱い魔女だった」


 ヴェラットの修行の相手は山の魔女だ。森の魔女や葬儀屋より長く生きているらしいけれど、国内にいたときにその名前を聞いたことはない。


「もう少し様子を見て、得られるものがないと判断したら他の魔女を探すつもりだ。レオと一緒に身体強化を学ぶのもよいかもしれない」

「よっしゃあ! ラットなら大歓迎だぜ!」

「静かにしてくれ。まだ決めたわけではない」

「早くみんなで特訓しようぜ! どれだけ強くなったのか、ワクワクするな!」


 レオの勢いを止めることができずに、連携を見直して守りながら戦うことを意識する。

 私達の修行はまだまだ続く。

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