レオ視点 物理主体の魔女
よぅ、オレはレオ。今日も日が昇る少し前に起きて走り込みをしてる。
いつもと違うのはかなり高い山で走ってるのと、一緒に走るヤツがいることだ。
「ぜぇ……なんかいつもより息切れがするぜ」
「この地は普段お主がいる所より標高が高く、空気が薄いのだ。始めは辛かろうが、毎日続けていれば慣れるだろう」
雷鳴の魔女ガートルード。長いからオレはガートと呼んでる。
魔女なのにオレより背が高くてムキムキでちょっと怖い顔。
大きな槌を振り回すし、オレの知る魔女とは特徴が何一つ一致しない。
早朝の走り込みから始まり、腕立て伏せや腹筋背筋などの筋トレ、山にいる魔物を狩ってその肉を食べる……魔物が強すぎてオレだけじゃ倒せないし、魔女とは思えない激しい運動量だ。
今のところガートが魔法を使うところを見たことがないし、本当に魔女なのかよ?
「これから身体強化の扱い方を教える」
「え、今から!?」
なんとか朝食にありつけて一仕事終えた気分でいたら、ほとんど休む間もなく次の特訓が始まる。
驚くオレにガートは瞬きを一度。
「む? まだ何もやっていないではないか」
「いや、走って体動かして魔物倒してと色々やったよな!?」
「それは日常生活で当たり前に行うことである。森の魔女から頼まれたのは、お主に身体強化を伝授すること。しかし、元が強くなければ大した強化も得られぬ」
こうして厳しい修行の日々は始まった。
「まず身体強化とは何か。それは全身に流れる魔力を特定の箇所に集めて強化することである。腕に集めれば腕力や握力が、足に集めれば脚力や跳躍力が、目に集めれば視力が強化され遠くの景色まではっきり見ることができるのだ」
「……なぁ、もっと短く説明してくれよ。オレは何をすればいいんだ?」
説明が長いし難しい言葉もあるし話し方がなんか堅くて古臭いし。
ラットみたいに何を言いたいのかさっぱりだ。
ガートがオレの手……というより籠手を厳しい顔で見つめる。
「な、なんだよ?」
「その籠手に魔力を込めることはできるのか?」
「あぁ、それくらいなら。……はあっ!」
籠手をつけた右手をぎゅっと握りしめれば、魔石が赤く光った。
ふむ、とガートが関心したように言う。
「魔力を一箇所に集める技術は身につけておるか。ならばその籠手を外し、素手で拳を振るってみよ」
「お、おぅ?」
よくわからないけど籠手を外して拳を突き出してみた。
「なんかいつもより速い気がするぜ!」
「それが身体強化が付与された証である」
「オレ、もうできてるんか? そのしんたいきょーかってヤツ」
これができたらもう修行は終わり? まだガートと戦ってないのに、つまんねーな。
そう思っていたら、ガートが「いや」と首を振った。
「身体強化自体はできている。だが、魔力の無駄が多く魔力枯渇になるであろう。戦闘中は常時身体強化をかけつつ、攻撃をするときは特定の部位を強化するなど……」
「だから長々と説明されてもわかんねーだって」
「む」
口で何か言われるより体を動かして覚える方がオレは得意だ。
「なぁ、まずはお手本を見せてくれねーか? 魔力の流れとかはよくわかんねーけどよ、見た方がわかりやすいと思うぜ」
「承知した」
ガートが目を閉じて呼吸を整える。
カッと見開いたとき、体中からビリビリと弾ける音が聞こえた。まるで雷をまとってるみたいだ。
下半身の筋肉が膨れ上がる。
「ふんっ!」
ガートが両の足で地面を思い切り蹴ると、地面に大きな凹みができて彼女は空高く跳んでいる。
「た、たっけぇ!」
上空で大槌を構える。足の筋肉が縮小する代わりに、腕の筋肉が大きく盛り上がった。
「はあっ!!」
ガートが大槌を地面に振り下ろすと、地面が脈打ちオレは耐えきれずに尻餅をついた。
砂埃が舞ってガートの姿がぼんやりとしか見えない。
山に吹き荒れる風のおかげで視界は晴れていき、大槌を構えるガートの真下に巨大な穴ができていた。
「すげぇ……」
「これが身体きょ……」
「すごいな、お前! あんな一撃、どうやって出すんだ? しかもめっちゃ高く跳んでたよな!」
「だからしんた……」
「オレもしんたいきょーかってヤツを極めればあんなことができるんか? ワクワクしてきたぜ! よろしくな、ガート!」
「……うむ」
オレも強くなって仲間をビックリさせてやるぜ!
❋❋❋
「谷の魔女を倒す、か……」
雷鳴の魔女ガートルードは森の魔女から聞いたレオが強くなる目的を口にする。
「思い出すな、あのときの戦いを」
彼女は谷の魔女と二度戦ったことがある。
一度目は師匠である放浪の魔女を殺された後。
身体強化をしても攻撃は届かず、切り札である雷魔法も自分が相手より高い位置にいると自分に当たってしまった。
――アタシに挑むなんて百年早いよ。
その言葉を聞いた雷鳴の魔女は百年山に籠もって修行し、きっちり百年後に山に現れた谷の魔女と二度目の戦いを始める。
百年の間に力の差はほぼ互角になり、決着がつかずに戦闘が長引いたが、孤島の賢者の介入により引き分けに終わった。
そのときにガートルードは二つ名を与えられ、雷鳴の魔女と名乗るようになる。
二つ名を持つ魔女同士の争いは禁じられている。だから、雷鳴の魔女は師匠の敵討ちをしたくてもできない状態にあった。
「我は戦えぬが、我が弟子が代わりにお主にとどめを刺すであろう。それまで待っておれ、谷の魔女よ」
夜になって一日の修行が終わり、レオが眠りについた後も雷鳴の魔女は鍛錬を続けていた。
全ては谷の魔女を殺すために。




