ソフィ視点 仲間を護る炎
本日からソフィ達の修行の日々をリレー形式でお届けします。
一話目はこちら。
「これが青い炎だ」
魔女の葬儀屋がまず見せてくれたのは青白い炎だ。
何度見ても綺麗で、思わず見入ってしまう。
青い炎を手の平に浮かべる葬儀屋の魔力は驚くほど穏やかだ。
いつも燃え盛っているように感じるのに、今は揺らぐことなく静かに燃えている。
けれど決して弱いわけではなく、風に吹かれても消えない芯の強さがあった。
「この炎は魔力を燃料に燃える。自然の魔力だけでなく、他者の魔力を燃やすこともできるのだ。……これがどういう意味かわかるか?」
「谷の魔女にも攻撃が届く?」
谷の魔女は風の渦に乗って空を飛んでいた。青い炎ならその渦も燃やすことができるのだろうか。
「その通りだ。相手の魔法を炎で塗り変えて襲わせる、強力な魔法だが当然弱点も存在する。術者の感情が少しでも揺れると青い炎を保てなくなるのだ……このようにな」
わずかに魔力の揺らぎがあったかと思うと、青い炎は赤色に転じていた。
葬儀屋が目を閉じて深呼吸すると、炎は再び青く灯る。
「敵を前にしても心穏やかでいること、それが青い炎を扱うコツだ」
あんたもやってみろ、と促されたけれど、私の手の平から出たのはいつもと同じ赤い炎だ。
葬儀屋と同じように目を閉じて青い炎を想像しながら深呼吸する。それでも炎の色が変わることはなかった。
「……できないのか?」
じっと私を見ていた葬儀屋がそう呟いた。
見込みなしと追い出される光景が目に浮かぶ。何としてでも、と焦っては理想の色から遠ざかってしまうけれど、諦めるわけにはいかなかった。
「あなたが青い炎を使えるようになったきっかけは?」
なんとか糸口を見つけようと葬儀屋に質問する。
「前にも話したかもしれんが、亡くなった魔女を初めて弔ったときだ。魔女は不老不死の薬になると信じて疑わない馬鹿がいてな、まぁそいつは黒い炎で燃やし尽くしてやったが。魔女の遺体はバラバラになってた。せめて死んだ後は穢されることなく心安らかに逝ってくれ、と願いながら火を放ったら何故か青色をしていたんだ」
魔女の葬儀屋が誕生した瞬間だろうか。彼女にも初め青い炎が出た理由はわからなかったようだ。
「その日から魔女を弔うときは必ず青い炎が生まれたが、自らの意思で放つことはできなかった。……あんたの育ての親に会うまではな」
「森の魔女?」
「あぁ、そうだ」
森の魔女と葬儀屋は正反対に見えるのに、リージやフラのように愛称で呼び合うほど仲がいい理由を聞けるだろうか。
「腹が立つ奴だったよ。貴族という恵まれた家庭で育って、家族がいて国外追放されてもついてくる従者がいる。自分より他者を優先して、大切なものを護るために魔法を使う……」
葬儀屋がふっと自嘲気味に笑う。
「親の顔すら知らず友人だった人からも見捨てられて、自分の身を守ることで精一杯の私とは正反対で正直羨ましかった。相手の護りを燃やして自分の考えが正しいと示そうとしたが、全く歯が立たなくてな。自分の信念を否定されたみたいだった」
全てを燃やす炎でも消せなかった森の魔女の護り。
私が見たものと同じなら植物魔法のツタなのに、当時の葬儀屋は完敗だったらしい。
「その日を境に自分にとっての魔法とは、信念とは何か考え直して、骨も灰も残さず燃やし尽くすことができるのは私以外にいないことに気づいた。魔女を青い炎で弔うことこそが私の生き方……そう決意すると、私は青い炎を自在に扱えるようになったというわけだ」
自分にとっての魔法、信念、生き方。それが大事なのだと葬儀屋は言った。
「あんたの火は何のためにあるんだ?」
そう問われて、私は自分の手元を見つめた。
「……仲間を守るため」
「ん?」
「私は誰かを傷つけるためではなく、仲間を守るために力を振るう。これまでも、これからも。他者に私の居場所を奪われたくない、これ以上仲間を失いたくない。守るために魔を除ける。それが私にとっての魔法」
私が導き出した答えに葬儀屋が呆気にとられたような顔をする。
「……火で誰かを守る? 考えたことなかったな。あんたは血の繋がりがなくてもリージの娘というわけか」
「私の考えも甘い?」
私を育ててくれた森の魔女の理念は、記憶を失っても根底にある価値観だ。
葬儀屋は今も森の魔女を嫌っているのだろうか。
「いや、リージと違って攻撃する意思を感じられるし、あいつの信念だって甘さや理想論ではなく本気で達成しようとしているのを今なら知っている。だから他者の生き方を否定するつもりはない。あんたの炎がどんな生き様を紡ぐのか楽しみだ」
葬儀屋は少しだけ口角を上げて、すぐに顔を引き締めた。
「お喋りはここまでにして修行を再開しよう。青い炎が体質に合わないなら別の魔法を編み出せばいい。炎に定まった形はないからな」
「わかった」
水も草木も枯れ果て黒い岩肌が目立つはげ山で、私は今日も魔女の葬儀屋と共に火魔法を磨く。
魔法は大切なものを護るためにある――私を育ててくれた義母の言葉を胸に。




