魔の森編第11話 対立
「見つからないとはどういうことだ!?」
白の魔女が去ってから一週間。今日も魔の森での一日は穏やか……と思っていたけれど、館中にヴェラットの怒鳴り声が響いた。
「今の声ラットだよね? 様子を見に行こうよ、ソフィ!」
同室のエマと一緒に声がした方へ向かう。階段の二階でカイとレオと合流し、一階へ。
ヴェラットはお茶会室で森の魔女と向き合っていた。
「採血、魔力鑑定、魔法制御……言われたことは全てやった。それなのに、操りの呪いを解くことができないのは何故だ?」
「ごめん。でも、呪いが解けた人の前例がないんだ。だから手探りに……」
「言い訳など聞かぬ! 俺は貴様ならできると聞いてここまで来たのだ」
もういい、とヴェラットが森の魔女に背を向けると、扉の前で様子を窺っている私達に気づいた。顔をしかめて睨まれたので、慌てて道を開ける。
「谷の魔女を殺す。やはりこれしか方法はないな」
「魔の谷には行かせないよ」
床に亀裂が入ったかと思えば、太いツタが床を割ってヴェラットの進行を妨げた。こんな荒業ができるのは森の魔女しかいない。
「俺の邪魔をするつもりか、森の魔女!?」
ヴェラットが剣を抜いてツタを斬ろうとするけれど、はね返されて傷一つついていない。
「くそっ、くそっ……」
ヴェラットは目にも止まらぬ速さで斬撃を食らわせる。それでも森の魔女が生み出したツタはびくともしなかった。
「谷の魔女は強い。今の君達じゃ敵わないよ。どうしても谷の魔女の元に行きたいって言うなら、わたしを倒してからにして」
「……あぁ、いいだろう。やってやる。殺されても文句は言うなよ?」
「うん、わたしを殺すつもりで全力でかかってきて」
物騒なことを言われたのに、森の魔女は不敵な笑みを浮かべた。
「狼の集い――いや、俺の仲間達よ。力を貸してくれ」
「え!?」
てっきり一人で突っ込んでいくものだと他人事のように見ていたけれど、ヴェラットは私達を仲間と呼んで頼った。
いつもは自分と狼の集いを分けて考えているのに、少しは頼ってもらえる存在になれたのだろうか。
私には森の魔女と敵対する理由がない。けれど、仲間のために力を使うのは悪いことではないだろう。
「おぅ! 魔女ってどれくらい強いんだ? ワクワクするぜ!」
「“まじょさん”とは一度戦ってみたいと思ってたんだよね! 修行の成果を見てよ!」
「仲間と言われたら断れないですね。共に戦いましょう」
仲間も嫌がるどころか乗り気の様子で、それぞれの武器を構える。
森の魔女がツタを地面に戻したけれど、床に空いた穴はなくならない。床のところどころを木の板で補修されていたのを密かに疑問に思っていたけれど、穴を塞いだ跡かもしれない。
「一対五か。いいよ、受けて立とう。ここだと狭いから移動してもいいかな?」
「……分断させる気か?」
「そんなことしなくても勝つのはわたしだよ」
「ちっ、好きにしろ」
森の魔女が両腕を広げて私達に手をかざす。一度瞬きするとそこは建物の外だった。
石碑が目に映る。名前はかすれて読めないけれど、誰かの墓なのはわかった。
周囲に木々がない開けた景色を見て気づく。
記憶の中で森の魔女が何度も訪れ、白の魔女との手合わせのときにも使われた地であることに。
確か……
「あなたの師匠の墓?」
森の魔女の師匠、旧山の魔女が眠っている墓地だ。
「うん、そうだよ。森の中で開けているのはここと館前だけだからね。お師匠様も天に還ったから、眠りを妨げることはないよ」
地に還すのではなく天に。何となく魔女の葬儀屋の顔が浮かんだ。
「ここなら激しい攻撃をしても森が傷つくことはないよ。斬撃でも火魔法でも何でもかかっておいで」
森の魔女は私とエマに魔法を教えたから、手の内を知られている。
私がどこまで火魔法を操れるかまでは知らないと思うけれど、手強い相手なのは間違いない。
「じゃあ、さっそく行かせてもらうぜ!」
レオが迷わず地を蹴って駆け出した。次々に生えてくるツルを間一髪で避けて、森の魔女に拳を振るう。
「速いね。でも、胴体ががら空きだよ」
森の魔女がタンと地面を打ち鳴らすと、ツタが生えてレオを弾き飛ばした。
「レオ!」
「いてて……」
茂みに突っ込んだけれど、そのおかげで怪我はしていないようだ。
「レオ、一人で挑んでも勝ち目はない。二人で攻めるぞ」
「わかったぜ!」
剣を構えたヴェラットと籠手を身につけたレオの攻撃を、森の魔女は植物魔法のツタであしらう。
守りを崩すには、二人だけでは無理だ。
「土の矢」
前衛で戦う二人に当てないよう気をつけながら時間差で矢を放ったけれど、涼しい顔で全てを防がれてしまう。
土では相手にならない。なら、もう一つの武器を使うのみ。
「火の矢」
数十本の矢を一斉に生み出し、森の魔女めがけて飛ばす。さすがにこれは避けるだろうと思ったのに、彼女は「わたしは教えることができなかったのに……成長したんだね、ソフィ」と笑顔を向けた。
瞬間、森の魔女とヴェラット、レオがいる辺りの魔力が増大する。
「後ろに下がって!」
「っ!」
ヴェラットとレオが後退すると同時に太い蔦が姿を現し、全ての矢を受け止める。相手は植物のはずなのに燃えることはなく、なぜか火の矢の方が消されてしまう。
衝撃を隠せない私達を見て、森の魔女が不敵な笑みを浮かべた。
「ここは魔の森、わたしの縄張りだよ。青い炎ならともかく、君の赤い炎にわたしの守りが負けることはないさ」




