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魔の森編第9話 懺悔

 ロンベルク王国という山間にある小国で閉鎖的な地でしたが、神聖なる光属性を持つわたくしを魔女ではなく聖女として扱い、匿ってくれたのです。


 しかし、安寧の地に魔の手が忍び寄ります。

 居場所を突き止められたわたくしはソフィアを庇おうとしましたが、災厄の魔女はわたくしとソフィアを永劫の檻に閉じ込め、封印しました。


 六百年もの間、わたくしは何もできず時の流れを感じることもありませんでした。

 ようやく解放されたとき、外では六百年もの歳月が流れていたことに驚きましたが、すぐに魔女の接近に気づきます。


 わたくしは光魔法を使って姿を隠すことができますが、ソフィアにはできません。

 災厄の魔女が現れたのなら迷わず逃げようかと考えていましたが、埃を被った部屋に入ってきたのは見知らぬ魔女でした。


 ですが、その顔を見てわたくしは確信します。

 わたくしが唯一姉と慕う魔女の子孫であることを。


 わたくしがいた頃には二つ名がありませんでしたが、更地の魔女と言えばご存じの方もいるでしょう。

 王国の南西の地を六百年経った今でも草木が生えない不毛な地に変貌させた魔女です。

 それだけを聞くと恐ろしい魔女と思われるかもしれませんが、彼女が戦ったのはわたくしが災厄の魔女に殺されたと思ったからで、本当は優しい方なのです。


 お姉様の子孫であるのを見抜けたのは、その入ってきた魔女の緑色の瞳に精霊様が映っていたからです。

 お姉様は全ての精霊様のお力を借りられる方でしたから。


 そうでなくても、悪い魔女でないことは一目見てわかりました。

 むしろ、これほど善良な魔女は初めて見るかもしれません。それほど彼女の魔力に曇りはなく、純粋な色をしていました。


 わたくしとソフィアの封印が解かれたことに気づいた魔女がいるのですから、当然災厄の魔女も動き出すでしょう。

 封印から解放されたばかりのわたくしでは勝ち目がありません。

 全力を出すことができたとしても、たった一人で、それもソフィアを守りながら戦うことは限りなく不可能に近いです。


 わたくしはソフィアに生きていてほしい。

 できれば、争いとは無縁の生活を送ってほしい。

 そのためには、わたくしから離れる必要があったのです。


 だから、わたくしはその魔女――森の魔女にソフィアを託すことに決めました。

 彼女ならばソフィアを守り、正しく導いてくれるでしょう。

 それが予感なのかただの願望なのかわかりませんが、ソフィアを任せられるのは彼女以外にいないと思ったのです。


 力を取り戻し、ソフィアを守りながらでも戦えると確信が持てるまで、森の魔女に預かってもらうつもりでした。

 しかし、何年か経った後に森の魔女の元を訪れると、ソフィアの姿はどこにもなかったのです。


 ソフィアが転移魔法を使い姿を消したのはわたしのせい、そう森の魔女はおっしゃいましたね。

 ですが、元を辿ればソフィアを守り抜く覚悟を決められず、他者に任せたわたくしに全責任があります。


 ソフィア、わたくしを許してほしいとは言いません。過去に戻る方法があったとしても、わたくしは同じ選択をするでしょうから。

 あなたを捨てたことに変わりはないですから、母親と呼んでくれなくても構いません。


 謝罪はいらないと言われましたが、それでも謝罪させてください。

 本当に申し訳ございません。わたくしは母親失格です。



❋❋❋



「……」


 白の魔女が全てを語り終えても、私は口を開くことなく彼女を見ていた。


 災厄の魔女に後一歩のところで敗れ、逃亡生活を続ける中で私が誕生し、その後六百年に渡り封印される。

 解放された後、守りながら戦うのは無理と判断して私を森の魔女に預ける。

 五年後に魔の森へ様子を見に行ったが、既に私は転移魔法で行方不明になっていた。


 白の魔女の言葉をまとめるとこういうことだろうか。

 災厄の魔女は恐ろしいし、赤子を抱えながら戦うものではないだろう。それはわかるけれど、私を捨てた事実は変わらない。

 それに、今更私の前に現れた理由を聞いていない。


「谷の魔女との戦いであなたは初めて姿を見せた。助けを求めた声にすぐ応えて助けたことは感謝している。けれど、どうしてもっと早く駆けつけることができなかったの? フリートベルクでの一戦も、あなたがすぐさま来てくれたら波間の魔女は死なずに済んだかもしれないのに」


 漆黒の槍で胸を貫かれ、魔石に変貌した波間の魔女を思い出す。あのとき私にもっと力があれば、白の魔女がいてくれたら、と思わない日はない。


「まず、駆けつけるのが遅れたのは、災厄の魔女の妨害を受けていたからです。あなたが谷の魔女に襲われた日も、フリートベルクでの戦いも。災厄の魔女はわたくしがすぐに駆けつけられないよう、人を操り無辜の民を襲わせました。ソフィアの命が一番大事ですが、目の前で苦しんでいる方々を無視して救援に向かうことはできなかったのです」


 目の前で襲われている人達と、遠くで危機に陥っている仲間を天秤にかけるようなものだろうか。

 どちらを選んでも寝覚めが悪い結果になりそうだけれど、私なら迷わず仲間を選ぶだろう。エマ達以上に生きていてほしい人はいない。


 両方を守ろうだなんて叶いもしない理想だ。

 けれど、森の魔女と白の魔女には瞬時に移動する手段がある。それを使えば不可能ではないと言いたいのだろうか。


「わたしも白の魔女も元は領主一族でね、他者を護るのは責務の一つなんだ。決して優先順位を変えたわけではないよ」

「……それで、今頃になって姿を現したのは?」


 見ず知らずの人も助けないといけないなんて、領主とは大変な生き物だ。

 駆けつけるのが遅れた理由は理解できたので、十年以上放置していたのに突然私の前に現れた理由を尋ねた。


「それは、あなたが魔女として成長し、自分が魔女であることを周囲の魔女に知らしめるようになったからです」

【短編】ハズレスキル「エンカ上げ」を公開しました。

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