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魔の森編第8話 実の母親

『純白の聖女は悪しき魔女に封印されて、この世から姿を消した。しかし、いつか必ず目覚めのときが来るだろう』


 純白の聖女が白の魔女なら、悪しき魔女は災厄の魔女のことだろうか。


「その記述ならば聞いたことがあるが……」

「なら、純白の聖女が実は子連れだったことも知ってるかな?」


 ――生まれて間もない赤子を抱え、聖女は北へ西へ。


 ふとヴァイスで聞いた吟遊詩人の歌の一節を思い出す。

 祭りの季節は秋。私の生まれた季節も恐らく秋。

 これは偶然ではないかもしれない。


「聖女……白の魔女が抱いていたのは私?」

「ここから先はわたしの憶測になってしまうけれど、多分そうだよ。君は六百年以上前に生まれて、母親である白の魔女と共に封印された。その間は時が止まっているから、成長することもない」

「そして、十五年近く前に封印が解かれた。とでも言いたいのか?」


 ヴェラットの態度は刺々しく、半信半疑というよりほとんど疑っているのだろう。

 封印魔法なんて私も聞いたことがないし。


「あくまで推察だけどね。十四年半前の春の日、強大な魔女の気配を大陸に住むほとんどの魔女が感知した。わたしは真っ先に駆けつけたけれど、生後半年の赤子と『ソフィア・アテナ・ウェネーフィカをあなたに託します』と書かれた紙しかなかった。でも、その紙を書いた人……つまり白の魔女もどこかにいたはずだよ」


 けれど、転移魔法もわからないことだらけだ。私が知らないだけで封印魔法を使える魔女もいるかもしれない。


「真相は本人に確かめた方が手っ取り早いかな」

「……まだあの人と話せと言うの?」


 森の魔女が私と白の魔女を話し合いの場に持っていきたいのがひしひしと伝わってくる。


「ソフィこそ何を嫌がっているのかな。真実を求めてここまで来たのは君でしょ? 自分の本当の名前と実の母親の存在を知って満足したつもり? 胸に手を当てて聞いてみてよ」

「……」


 そんなことしなくてもわかっている、私はまだ満足していないと。

 なぜ白の魔女が私を森の魔女に託したのか、今頃になってなぜ姿を現したのか。

 それは白の魔女に直接聞かないと判明しないことだ。


 私の隣でエマがうーん、と考え込んだ後、身体ごと向きを変えて私を見た。


「親と話せるうちに話した方がいいって、あたしは思うよ」

「エマ?」

「あたしはもう確かめようがないけどね。ソフィのお母さんはまだ生きてるんだから。絶対聞いた方がいい。……その方が後悔しなくて済むんじゃないかな」


 恐らくエマの両親はこの世にいない。それをベルーナ村で知ったからこそ、この言葉が出てきたのだろう。

 過去と向き合うのは私一人ではない、そう背中を押された気がした。


 私は覚悟を決めて森の魔女に向き直る。


「白の魔女の話を聞く。森の魔女も同席してもらえる?」

「わかった、白の魔女に伝えておくよ。準備ができたらお茶会室に招待しよう」


 そして、白の魔女と話す日が来た。


「森の魔女、ソフィア。お招きくださりありがとうございます」


 円卓の対面に白の魔女が座る。森の魔女は仲裁役だ。


「まずは謝罪させてください。ソフィアを森の魔女に託すという言い訳で手放し、育児を放棄したのはわたくしです。記憶喪失となり、孤児としての道を歩ませたこと、後悔してもしきれません。本当に申し訳ございませんでした」


 三人の魔女が集まった話し合いは白の魔女の謝罪から始まった。


「謝罪はいらない。そのおかげで今の仲間に出会うことができたから。それより、理由を知りたい。どうして私を森の魔女に託したの?」


 白の魔女が私を手放した理由がわからない。託す相手に森の魔女を選んだのも。


「それは、わたくしではソフィアを守り抜くことが難しいのを知ったからです」


 私は首を傾げた。白の魔女の実力は群を抜いていると思うけれど、どうして守り抜くことができないのだろう。


「どこからお話しすればいいでしょう。長い話になりますが、聞いていただけますか?」

「……ん」

「ありがとうございます」


 白の魔女はハーブティーを少し飲んでから口を開いた。




❋❋❋




 今から六百年以上前、災厄の魔女に大陸が支配され、空を闇が覆っていた頃の話です。

 魔女として唯一光魔法を操れるわたくしの使命は、災厄を退けて大陸に光を取り戻すことに違いありません。


 そう信じたわたくしは単身災厄の魔女に挑み、空を覆う闇を晴らしました。

 しかし、後一歩のところで魔力が足りず、災厄の魔女を逃がしてしまったのです。


 災厄の力は弱まりましたが、また復活してわたくしの命を狙ってくるでしょう。

 それまでに魔力を回復させて力を蓄えなければなりません。


 しかし、当時のわたくしのお腹には新しい命が宿っていました。

 見捨てることはできず、激しい戦闘を控えるために隠れることを余儀なくされ、どうにかして誕生した命は女の子、魔女でした。


 隠れ家が災厄の魔女に見つかって逃亡し、転移魔法陣を結んで一箇所に留まらないようにして、半年ほど逃げ続けました。

 それでも災厄の魔女は執念深く追い続け、ついにわたくしに貴族位を授けられたことに気づきます。


 ウェネーフィカ伯爵。それが当時のわたくしの地位でした。

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