第14話:平穏な街の“偽りの飯テロ”
街の門をくぐった瞬間、
私は思わず息を呑んだ。
(……すごい……)
道沿いには色とりどりの屋台。
こんがり焼けた肉の香ばしい匂い、
甘い果実の蜜を煮詰めたような香り、
それが風に乗って鼻腔をくすぐる。
子供たちは楽しそうに駆け回り、
通りを彩る花びらが舞って、
本当に、ここだけが別世界みたいだった。
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「リゼット、少し休んでいきましょう」
レイナがそう言って私の手を引いた。
その指が細くて、冷たくて、
でも心地良い。
広場の屋台で、
私たちは香草で焼いた肉串と、
とろけるようなチーズの挟まったパンを買った。
「……おいしい……」
思わず涙が出そうになるくらいだった。
ずっと魔核獣と戦って、
冷たい夜風しか感じなかったから。
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でも――
(……なに、これ……)
店の人や、
すれ違う人々の視線が、
どうにもおかしい。
子供すらも、
じっと私を見つめて、
まるで何かを期待するように、
息を呑んだ顔をしている。
(そんなに……見ないで……)
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「ねえお嬢さん、
あなたが“あの一点突破”の……?」
初老の男が近づいてきて、
皺の寄った手を私の肩に置こうとした。
「っ……あ……」
思わず体がビクリと震える。
男の手は触れる寸前で止まり、
私の胸元――透けて脈打つ魔力紋を
じっと見つめた。
「……すごいな……
これが……あなたの“聖なる刻印”……」
「ち、違っ……見ないでください……っ……」
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レイナが私を庇うように前に立ち、
男を睨んだ。
「この子は疲れてるんです。
無遠慮に触らないで」
「おっと、そりゃ失礼。
でもね、嬢ちゃん、
あんたがこの街を救ってくれるんだって、
みんなそう言ってるんだよ」
「……え?」
「一点突破で、瘴気を祓ってくれる……
街に戻った活力は、
全部あんたのおかげだって。
だから、感謝してるんだ」
男はそう言って、
にやりと笑った。
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(……いや……違う……
こんなふうに、見られたくて戦ってたんじゃ……)
急に胸の魔力紋が小さく脈を打って、
心臓の音が自分でうるさいくらい響いた。
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「リゼット、大丈夫?」
レイナがそっと腰に手を回す。
その手の冷たさが、
私の熱くなった胸の奥を少しだけ落ち着かせた。
「……でも……
なんか、変だよ……この街……」
「……ええ。
私もそう思う。
――気をつけましょうね」
レイナの声はいつもより少し低くて、
それが逆に心強かった。




