第241話 始まる
「やっと死んだか」
ルシファーの声が聞こえた。その声は灼熱の煙の向こう側から聞こえてくる。
「……」
「しぶといやつだったな。叩いても潰しても死ななかった。まるでゴキブリのようだ!あはははは!」
ルシファーはそう言って笑う。真耶はそんなルシファーを見て少しだけ怒りの感情を見せる。だが、それ以上の感覚が真耶を襲うせいで怒る気になれない。
「……漫画の見すぎだよなぁ」
真耶は思わず呟いた。その目は半分呆れている。
「……はぁ、君を怒らせたら殺すのは簡単だと思ったのに」
「そう考えてるってのも分かってるから。あの時から何も変わっちゃいない」
「変わったさ。僕は人を捨てた。人という低俗な存在から高貴な存在へと昇華したんだ」
ルシファーの言葉に真耶は笑う。そして、エクスカリバーを地面に突き刺し胸に手を置いて、笑いながら言った。
「じゃあ、それを”否定”するよ」
真耶はそう言った。その目には不思議な模様が浮かんでいる。孤独の眼だ。だけど少し違って見える。というより形が変わっていっている。涙の雫のような形は少しづつ形を変えた。
雫はポタポタと土に落ちる。それを繰り返し、やがては新芽に雫が落ちる。新芽に落ちていた雫はやがては葉っぱを大きく育たせる。最初は小さな芽だが、気づけば大きな大樹となる。もしかしたらそれはヤシの木かもしれない。トウヒの気かもしれない、そして、桜の木かもしれないのだ。
「っ!?その目……見たことの無い目だ……!」
ルシファーはそう言った。その目線は真耶の目の中へと向いている。真耶はそれを知り笑う。
「”俺の経験が、思い出が、新芽に水をやるように増えていった。そして、こうして桜の木へと育ったんだ。葉っぱや花びらはまだ少ないけどな”」
真耶はそう言った。そして、手を前に突き出す。すると、凄まじい勢いの衝撃波がルシファーを襲った。その衝撃波は以前ルシファーが使っていたものだ。
「っ!?僕の能力?不思議な感覚だなぁ」
「奇妙か?まぁ、どうだっていい。これから先、お前の動きがなんだろうと、お前に待ち受けるのは死のみだ」
そう言う真耶の目には新芽の模様が描かれていた。
「”堕天星・斬壊”」
ルシファーは剣を振り下ろす。真耶はそれをただ見つめるだけだ。
「っ!?」
しかし、剣が真耶に届くことはなかった。空間を壊すその剣は、真耶の目の前にある謎の見えない物体によって止められたのだ。
「不思議な感覚だろ?お前のその剣は物体どころか空間を切り裂き壊す。でも、その空間に切れないものがあれば止まるみたいだな。今俺の目の前にあるのは空気だけだ。だが、俺はその空気の変化を否定した。変わることを否定された空気は見えない硬い切れないものになってしまう。お前の剣はそれはきれないみたいだな」
「……空気ね。だったら光は通るはずだろ!”堕天星・燐光”」
眩い光が真耶を襲う。それは、近づかずとも危険だということがわかるほど光を放っていた。
「”物理変化”」
真耶はルシファーが魔法を発動する瞬間に時眼の力で時の流れを遅くする。そして、さらに物理変化によってルシファーと真耶の間にある空気を全て別のものに変化させた。だから、二人の間は真空状態になる。
(この空間でもこれだけの速さを……!)
真耶は向かってくる光を自分の時の流れを早くしギリギリで躱した。そして、躱した瞬間に時の流れを元に戻す。
「っ!?避けた?光の速さを……?」
「まぁね」
「……まぁいいや。そうでなくちゃぁ楽しくない。”堕天星・天籠覇気”」
ルシファー静かに魔法を唱える。すると、2人を囲むように鳥籠のようなものが空から降ってきた。
それは、黄色い光を帯びており、実態がないこともわかる。しかし、地面と接触していることから何かしらの条件付きで触れることはできるようだ。だが、触れれば何が起こるかは分からなさそうだ。
「僕も君も籠の中の小人さ。この宇宙という籠の中ではちっぽけな存在」
ルシファーはそう呟いて手のひらに光の玉を作り出す。そして、その光の玉から大量の光線を放った。光線は何度も鳥籠の柱や見えない壁にぶつかり反射する。そして、集中的に真耶を狙う。
「”開け”」
真耶はその言葉を放った。その言葉がルシファーの耳に届けられる頃にはもう幾つもの扉が開いている。光線はその扉の中に真っ直ぐ向かっていっていた。
「なんだこれは……?」
真耶は扉を閉めた。驚くルシファーの事などそっちのけで剣を構える。さらに、剣を握らない”左手”で扉を開いた。
「っ!?」
なんと、そこから光線が飛び出してきたのだ。光線は重なり大きなものとなってルシファーに襲いかかる。ルシファーはその光線を咄嗟に消して真耶を見た。しかし、既にそこにはいない。
「”理滅・歪曲”」
真耶の声が背後から聞こえる。振り返ると、そこには既に攻撃を仕掛ける真耶がいた。ルシファーは剣を握り迎え撃つ。
甲高い音が鳴り響く。そして、大量の火花が散る。それはまるで、幻想的な世界でも表しているようだった。
「もう様子見はいいだろ?」
真耶はルシファーを蹴り飛ばす。すると、ルシファーはすごい勢いで飛んでいき壁に激突した。その衝撃が強かったせいか、天井が崩れ落ちてくる。
「……まさか、気づかない間に移動してたとは……」
「でも、戻ってきた。これで場所も整っただろ?」
真耶はそう言ってエクスカリバーを強く握りしめる。ルシファーはそれに対抗するべく羽の剣を握りしめる。そんな2人からは禍々しい殺気がダダ漏れだった。そして、2人が睨みったその瞬間に、最後の戦いは始まった。
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