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126. 元婚約者の悩み

 「聞いたか?ゲインズ領から荷馬車にまとめられて送られてきた大勢の脱税犯だが、ラザフォード夫人とヴァルニア卿が活躍したらしいぞ」


  ヴェルファイン王国の宮殿のあちこちで囁かれる噂に、カシアン・オーストルジュ……もとい、フェリシテの妹と結婚し、ノアゼット家へ婿入りした近衛騎士 カシアン・ノアゼットは眉をひそめて耳をそばだてた。


「……いや、驚いたな。ラザフォード伯爵家へ嫁いでから、フェリシテ嬢の活躍は目覚ましいものがある。無能令嬢と言われてたのが噓みたいじゃないか」


 カシアンの仕事は王族の警護を行う近衛騎士だ。

 現在は主に王妃の身辺警護に携わっており、王妃のスケジュールに合わせて王妃付き近衛騎士20名が交代しながら任務にあたる。


 本日の仕事は王妃のサロン室の警護だ。

 王妃は休日の為、室内で親しい友人たちとおしゃべりに興じている。

 扉の前に立ち訪問してくる人物をチェックするのが今日の仕事だが、特に問題が起きるわけでもなくただ立っているだけなので、大変ヒマだ。


 共に扉の前に立つ同僚と真面目な顔をして無言で立っているのだが、場所が人通りの比較的多い廊下のため、行きかう人々や使用人たちの雑談が否が応にも耳に入って来る。


 最近、王城で一番熱い噂はと言えばゲインズ領の脱税犯の話題で、犯人だけでなく犯人の罪状と住所氏名職業と捕縛時に所持していた私物などのリスト付きと言う、実に気の利いたセットで毎日届く護送馬車が注目の的なのだ。

 お陰で取り調べ時間が短縮され、スムーズに牢屋へ移送出来る。

 この几帳面な仕事ぶりはエリオットの仕業に違いない。

 相変わらず無駄に優秀で、何度か国の官吏にならないかと声を掛けられているのだが、ヒューイットに心酔していて高額の給与にもなびかない変わり者だ。


 だが、今、カシアンの頭を占領しているのはエリオットではない。

 最近、カシアンを悩ませているのは、やたらと王宮の人々が興味津々な元婚約者フェリシテの事だった。


 妹のエルヴィラの陰で、平凡で取柄が無く地味で暗い令嬢と陰口をたたかれていたフェリシテが、ラザフォード領へ嫁いでからと言うもの、小麦やミョウバン水、コレラ対策と次々にラザフォード領へ貢献する活躍を見せていた。


 正直、カシアンから見て特に取り柄が無く財政的に苦しかったラザフォード領が、フェリシテが来た事で目に見えるほど活性化したのは驚きだった。

 まぐれかと思っていたが、スタリオン領の暗躍など西部地域で起きていた問題解決の助けになったりして、遂には国王や官吏たちがラザフォード領を重要視するまでになったのだ。

 そこへ脱税犯の捕縛だ。

 ラザフォード領とフェリシテの評判はうなぎ上りで、そんなフェリシテを棄て彼女の妹と結婚したカシアンは複雑な気持ちで周囲の噂話を聞く羽目に陥っていた。


「……フェリシテ嬢と言えば、先日の王宮で行われたチャリティーパーティーで凄く美しくなっていたのも評判になっていたな。上品で、極上のドレスもよく似合っていた。カシアン、お前はもっとセンスを磨けよ。あんな美人を手放して残念だったな」


 隣に立つ同僚が、無言に飽きたのか聞こえてくる雑談に乗ってカシアンをからかってくる。


 チャリティーパーティーでは勿論カシアン達が王妃の護衛をしていたので、ヒューイットと共にパーティーに参加したフェリシテ達一行を出迎えたのだ。


 ――――その時の衝撃と言ったら、言葉に表せない。


 最近、フェリシテにドレスどころか花や小物すら贈っていなかったカシアンは、どうせまた貧相な姿を晒すのだろうと思っていたフェリシテが、別人のように綺麗に輝いていたのを目にして呆然とした。

 淑女の鏡のような完璧なマナーに控えめな態度、品格とどれをとっても最高のレディではないかと男性陣の視線をかっさらったのだ。


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