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125. その頃のラザフォード本邸

 日々の仕事に追われつつ食糧の輸入交渉へ行ったフェリシテとエリオットを待っていたヒューイットは、彼らから何故かゲインズ領で石炭盗掘を捕縛する事になった手紙が届いた上、国王陛下からは直々に脱税犯の大量捕縛に関する礼状が届き、執務室の机に座ったまま額を押さえてしばし黄昏ていた。


 ――――食糧輸入交渉へ行ったのに、なぜ脱税犯を取り押さえているのだ?


 感染症から回復した流民達が移動し始めたため、各地の治安維持活動も加わって大変なのだが――――

 いや、鉱山労働者らはゲインズ領が受け入れてくれる事になったので懸念が一つ減ったのだが、それにしても解せない。


 「食糧輸入交渉はどうなってるのかな?余計なことをしてるせいで王家がフェリシテ嬢に関心を持ってしまったじゃないの。何なのこれ。王妃様のお茶会の招待状?あの爆弾のような奥様を城へ送り込んだら、何をするか心労で寿命がすり減るわ」


 ガブリエルがうんざりした様子で山の様な書類を片付けながら言う。


 ――――そう。陛下のお礼状は単なるお礼状ではなかったのだ。

 暇を持て余した王妃様が、絶好の話のネタになると興味津々でフェリシテに興味を示して来てしまった。


 これまで実家のノアゼット家に居た時は地味で無能という烙印を押されてよくない評判ばかりが立つ令嬢だったのに、ラザフォード家に嫁入りしてから目覚ましい活躍で人々の好奇心の的となった。

 一方でノアゼット家には暗雲が立ちこめ、これまで見えなかった粗が露呈されて来ている。


「ノアゼット家からは『契約していた安価な小麦の輸出について、うっかり感染症被災領地への支援に回してしまったので輸出不可能になった』と今更な謝罪文が来たよな。『申し訳ないが、今後は定価の小麦しか無いから定価で買ってくれ』と、強気の口調だ。こっちが困り果てて頭を下げに来ると信じて疑ってないな」


 ローレンスがノアゼット家からの手紙を指でつまんでひらひら動かす。

 ラザフォード家を舐めているとしか言いようがない文面に腹を立てており、ローレンスはそのまま手紙を乱暴に丸めてゴミ箱に投げ捨てた。


「…………フェリシテ嬢の元婚約者のカシアン・オーストルジュからも手紙が来ている。いや、今はノアゼット家へ婿入りしたからカシアン・ノアゼットか。……まあ、どっちでも良いが、妻となったエルヴィラ嬢が領地の事をまるで知らず何もできないと嘆いているな。カシアンのご両親とも上手くいっていないらしく、オーストルジュ家から援助が受けられないらしい。エルヴィラ嬢の散財癖やわがままに振り回されて限界だとか、愚痴を書き連ねていて見苦しい。今更フェリシテ嬢へ手紙をよこすなど恥知らずとしか言えないな」


 ぼそりと呟いたヒューイットもカシアンからの手紙を問答無用で破り捨てる。

 フェリシテに手紙を見せるという選択肢は無い。


「全くだ。奥様は渡さないぞ。フェリシテ嬢が来てから、しょっちゅう予想外の事が起きて面白い。あーフェリシテ嬢、早く帰ってこないかな。ビタミンとやらと医者の治療で、領民に蔓延していた病気が改善された事を早く教えたいな」


 この二週間、医師の指導のもとビタミンを摂取させた患者の治験を行ったのだが、結果、体調が好転した患者が続々現れた。

 一部の患者には効果が無かったものの、多くの患者が健康を回復して医師も驚いていた。

 今後は医師を増員し、医師監修のもと治療を普及できるよう計画を進める予定だ。

 

 多忙を極めているのに、他人たちに煩わされている場合ではない。


 真顔になったヒューイットは、キリッと表情を引き締めて言った。


「よし、面倒だからノアゼット家はいったん無視しよう。王妃陛下のお茶会とカシアンには『愛する妻と引き離さないで欲しい』と牽制してやろう。もうこうなったら面倒事は、ラブラブ夫婦路線で押し切ろうではないか」


 真剣なヒューイットの口から「ラブラブ夫婦」と言う単語が飛び出す日が来るとは思わなかった――

 

 主の成長を見たガブリエルが、目頭を熱くする。

 フェリシテがお嫁に来なかったら、一生ヒューイットは口走らなかったであろう。

 これからどんな成長を遂げるのか主から目が離せない。

 ローレンスは笑いを堪えながら「そうですね!」と力強く頷くのだった。

 






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