リッチーと新しい従業員 3
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アレクサンダー様が雷を落としても、さすが叔父と甥の関係。リッチーはケロッとしている。
「叔父上はグレックヒェン公爵を敵に回すつもりですか⁉ いい加減にしないと、母上に連絡しますよ‼」
「いやああっ! それだけはやめてえ!」
アレクサンダー様の雷は怖くなくとも、お姉様の雷は怖いらしい。
リッチーは涙目になってカウンターの奥から駆けて来ると、アレクサンダー様に縋りついた。
大男がイケメンに縋りついているのは……なんか犯罪の匂いがするからやめた方がいいと思うわよリッチー。
リッチーはくすんと鼻を鳴らすと、アレクサンダー様に睨まれるまま、諦めたように説明をはじめる。これ以上ふざけていると、本気でお姉様が呼ばれると悟ったらしい。
「ウルちゃんに会ったのはね、一週間ほど前のことなのよ。あの子、身なりのいい服を着ていたけど、まるで迷子みたいな顔で、従者も誰もつけずに一人で大通りを歩いていてね。なんか捨てられた子犬みたいで放っておけなくて……イケメンだし」
リッチー、イケメンだしって。イケメンじゃなかったらどうしたんですか。
……ま、それでも拾ったでしょうけどね。だってリッチーだし。
なんだかんだと、リッチーは面倒見がいいのだ。ウルリッヒの様子を見て放っておけずに声をかけたのだろう。
「それに、どこかで見たような顔ねえって思っていたのよ。そうしたらフォルクちゃんのとこの子だっていうじゃなーい? そう言えばフォルクちゃんの若いころにそっくりねーって。でもフォルクちゃんのところには男の子は一人しかいなかったはずなのにおかしいわねって思って、気になったからいろいろ聞いちゃったのよね」
……フォルクちゃんって、リッチー、もしかしなくてもグレックヒェン公爵と仲良しですか?
グレックヒェン公爵の名前はフォルクという。四十一歳なのだが、よく考えたらリッチーと同世代と言えなくもないのだ。リッチーの方が七つほど年下だけど。
リッチーは勘当されているとは言え侯爵家の出身である。グレックヒェン公爵と面識があってもおかしくない。
「で~、よく聞けばフォルクちゃんが昔お付き合いしていた子の息子だって言うじゃない」
「ちょっと待ってください! グレックヒェン公爵のあいじ……いえ、恋人を、叔父上は知っていたんですか?」
「もちろんよ、会ったこともあるわよ~。線の細い可愛い感じの子でね。婚約者がいるのに別に恋人を作るなんてよくないわよってフォルクちゃんに言ったことはあるんだけど、フォルクちゃんってばかなり本気で入れ込んでいてね。あの子はあの子で、婚約者の座を狙おうなんて野心のあるタイプじゃなかったし、結婚したら別れるでしょうから、ま、いいかな~って。フォルクちゃんのところは政略結婚だし、その前にちょっと恋愛するくらいは許されるんじゃないかしらって。あたし、自由恋愛推奨派だし? ……こんなことを言ったらレーネちゃんに刺されるかもしれないけど。でもレーネちゃんだって結婚前にお付き合いしていた人がいるんだからどっちもどっちじゃない?」
レーネと言うのはグレックヒェン公爵夫人の名前である。公爵夫人まで名前で呼ぶということは、こちらとも親しいのだろう。
そして、暴露されるグレックヒェン公爵夫人の過去。
いいのだろうか。この手の情報って、普通は秘密にされているものだと思うのだけど。
アレクサンダー様も反応に困っている。
うちのお父様とお母様は恋愛結婚だけど、貴族は政略結婚が普通だ。グレックヒェン公爵夫妻はお互い割り切って結婚したということだろうか。
「あ、でも、今はあの二人はとっても仲良しだから。ほら、友人からようやく恋人に昇格した~みたいな? 別に仲が険悪なわけじゃあないのよ」
本当によく知っているなリッチー。
こんなお客の来ない雑貨屋を経営しているくせに、何気に社交界の、それも上位貴族とのパイプもしっかり持っているのね。
「なんだけどぉ、ウルちゃんの件でちょっと揉めちゃっているみたいでね。ウルちゃんは孤児院に寄付してほしかっただけで、グレックヒェン公爵家を引っ掻き回したかったわけじゃないみたいで、すっごく悩んでいたの。グレックヒェン公爵家もぎくしゃくして居心地悪いみたいだしぃ。だから、フォルクちゃんに言ってしばらく預かることにしたのよ~」
「ちょっと待ってください、グレックヒェン公爵はご存じだったんですか?」
「それはそうよぅ。ウルちゃんを勝手にここに住まわせたりしたら誘拐騒動になっちゃうわ! ちゃんとフォルクちゃんに、ウルちゃんを預かるわねって言って了承貰ったもの~」
「それを先に言ってください!」
アレクサンダー様がどっと疲れた顔をしている。
そうよね。リッチーが勝手にウルリッヒを住まわせていたら大事だもの。アレクサンダー様も焦るはずだわ。
そういう情報は、先に言わないとダメでしょう、リッチー。
迂闊な自分を棚に上げて、わたしは「もう、仕方がないわね」とリッチーに嘆息した。
「フォルクちゃんはね、どっちの息子も同じように可愛いから、どうしたらいいのか悩んでいるのよね。両方に同じように家督を継がせたいけどさすがに無理じゃない? グレックヒェン公爵家に付随する他の爵位を与えるにしても、ねえ? じゃあどっちがどっちってことになるわけよ。長子優先と言っても、ウルちゃんのことは今まで存在を知らなかったから、ずっとラインハルトちゃんが継ぐと思っていたじゃない? 今更ひっくり返すのもあれだけど、かといってウルちゃんをないがしろにするのも~ってな感じよ!」
わかるような気もするけど、そこは公爵として毅然とした態度を示してほしかったわよね。そうしたら二人とも巻き込まれなくてすんだのに。
「レーネちゃんははっきりしないフォルクちゃんにイライラしててね、現在ド派手な夫婦喧嘩の真っ最中ってわけ。会ったばかりの父親と義母が喧嘩している邸にいたくはないわよねえ?」
そりゃそうだ。
わたしでもいやだ。そんな修羅場。
「そこで、あたしがしばらく預かろうかって提案したのよ!」
えっへんと分厚い胸筋を張るリッチーにアレクサンダー様は両手で顔を覆ってしまった。
「叔父上はどうしてそう面倒ごとに首を突っ込むのか……」とうめいている。
「だって可哀想じゃないのぉ。あ、それからね、面倒ごとついでにアレクちゃんにお願いがあるのよ」
「何がついでですか。何故当然のように私を巻き込もうとしているんです? お断りします。嫌な予感しかしません」
「アレクちゃんがダメならマリアちゃんでもいいんだけど……」
わたし⁉
アレクサンダー様が顔から手を放してぐぐっと眉を寄せる。
「アラトルソワ家のご令嬢を勝手に巻き込まないように!」
「いいじゃないの~、あたしとマリアちゃんの仲だもの~。ね♡」
「ね、じゃありません! ああもうっ! わかりました、話だけなら聞いてあげます。そのあとどうするかは話の内容次第です。ですのでマリアを巻き込まないように!」
あら、アレクサンダー様が折れちゃったわ。
リッチーは「うふふ」と楽しそうに笑って、言った。
「ウルちゃんを今学期から学園に編入させようと思って。アレクちゃん、面倒見てあげてくれないかしら~」
「あんたは本当に、もう少し考えてものを言え‼」
アレクサンダー様は、本日三度目(でいいのかしら?)の雷をリッチーに落とした。
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