美貌の公爵と悪だくみ 4
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「ちょっと会わないうちに、淑女らしくなったねマリア。ああ、結婚おめでとう。先日は予定があって直接お祝いを言えなくて申し訳なかったね」
ラース・クリュザンテーメ様。
腰ほどまである長く濃い金髪。その右側の一房だけピンク色のメッシュが入っている。
瞳は柘榴石のように赤く、逆三角のシャープな顔立ちに、毛穴一つ見つけられないつるんと陶器のように滑らかな肌。
歩く媚薬などと言う異名を持つお兄様と並べても何ら遜色のない甘い美貌。
……そして、ルーカス殿下を攻略した後に攻略可能となる、『ブルーメ』の攻略対象の一人。
うぅ、本当にこの世界はすごいわ。イケメンパラダイスっ!
爽やかな笑みを浮かべるラース様にうっかり見とれそうになっていると、わたしの隣に座っていたお兄様が無言でわたしの肩に手を回した。
……ひいっ! 見とれていません! マリアはいい子にしていますよ‼
隣から冷気が漂って来る気がするのは気のせいであるまい。
わたしはティーカップに手を伸ばすふりをしてラース様から視線を逸らした。
お兄様とわたしが泊まっているホテルの部屋にやって来たラース様は、とてもラフな格好をしていた。
まあ、夏だから? ごちゃごちゃと着こんだら熱いもんね?
半袖のシャツに薄いグレーのトラウザーズ姿のラース様の、適度に鍛えられて引き締まった腕についつい視線を向けたくなるが、ぐっと我慢する。
「ありがとうございます、ラース様」
ほほほ、と隣のお兄様にびくびくしつつ、わたしは乾いた声で笑った。
「マリアとジークが婚約と聞いたときもびっくりしたけど、結婚が早くてまたびっくりしたよ」
ええそうですね。それについてはわたしもびっくりしました。何せ、うちのお母様が張り切りまくってさっさと結婚式の日取りを押さえちゃったもので……。
「ねえねえ、それで、ジークはどうやってマリアを落とし――」
「ラース様、無駄話はあとにしましょう」
あれやこれやと興味津々な顔で根掘り葉掘り聞き出そうとするラース様に、お兄様が凄みのある笑みを向ける。
ラース様が「おぅ……」と顔を引きつらせた。
「頼まれていた通り、グレックヒェン公爵とは話をつけておいたよ。まあ、あちらもギューデン伯爵を庇う意思はなかったみたいだけどね」
「おにぃ……ジークハルト、ラース様にグレックヒェン公爵とのやり取りを頼んだんですか?」
「うん? ああ、私が動くより、この地の管理者責任者から連絡を取ってもらう方がスムーズだろう? ギューデン伯爵が万が一にもグレックヒェン公爵に泣きつくようなことがあったら面倒くさいからね」
「泣きついたところでグレックヒェン公爵が庇う可能性は低かったんだけどね。可能性の芽を事前に摘んでおくやり方は、ジークもアラトルソワ公爵もそっくりだよねえ」
からからとラース様が笑う。
「それからこちらも用意した。あとは陛下の承認を得るだけだが、本当に陛下はこんなものを承認してくれるのかい?」
ラース様が、くるくると丸めてある紙をテーブルの上に広げる。
それは何かの書類のようだった。書類の右下にはラース様のサインが入っていて、他にもサインを入れられる箇所が残っている。
「大丈夫ですよ。我が家は陛下に多大なる貸しがありますから。こんなもの利子のうちです。……ヴィルマ、ペンとインクを」
まるで悪徳高利貸のようよ、お兄様……。陛下も厄介な相手に貸しを作ったものだわ。
お兄様の指示でヴィルマがペンとインクを持ってくると、お兄様はラース様のすぐ下にさらさらとサインを入れた。
「ジークハルト、それ、なんですか?」
「これはイルカの保護に関する書類だ。簡単に言えば、保護を除き、イルカの乱獲を禁止するものだよ」
「え?」
「こうしておけば、ヒメルのような珍しい個体が現れても、捕らえて見世物にしようなんて馬鹿は現れないだろう? お前が気にしていたようだからね、それなら法で禁止してしまえばいいと思ったんだよ」
だよ、ってそんな簡単にできるものでもないでしょうに。
……まあ、前世と違って、このあたりは土地を治める貴族や、国を治める陛下がある程度自由にできるのかしら。でも、思い立ってすぐにとは、普通はいかないわよねえ?
わたしとしては嬉しいけど、思いきったことをするものだなと書類に視線を落とす。
「効力は我が領内に限るけどね。まあ、僕としても悪くない案だとは思うよ。珍しい動物を捕らえて見世物になんて、いい気分はしないからね。それから、イルカの保護施設の件だけど、僕の方で出資しておくよ。とはいえ、ギューデン伯爵が競り落としたイルカの代金については返却しなくてもいいようになる……というか、ジークがそうなるように裏から手を回したようだから、保護施設の借金は何とかなるだろうけどね」
「ついでに、あの支配人に資金繰りのアドバイスもお願いします」
「わかった」
もしかして、お兄様がここのところ忙しくしていたのは、ラース様とこれらの調整をしていたからだろうか。
「さてと、ジークの用件はこれで終わりかな。じゃあ、さっそく二人の馴れ初めを――」
わくわくしながらラース様が身を乗り出す。
お兄様は嫌な顔をして片手を前にかざした。
「先に言っておきますが、時間は一時間しかありませんからね。これでも忙しいんです。雑談で潰すのも結構ですが、ラース様はラース様で用事があったのでは?」
あらお兄様、この後の予定は何もないはずでしょう?
ラース様が来る前に、ラース様とのやり取りが終わったらようやく暇になるって嬉しそうだったじゃないの。
……まあ、余計なことを言えばお兄様に叱られそうな気配がするから黙っておきますけども。
ラース様にあれこれと詮索されるのを防ぐ作戦だなとあきれていると、ラース様が肩をすくめた。
「と言うことは、あと三十八分か。……雑談で使うわけにはいかないな」
ラース様はふと表情を引き締めると、足を組んでじっとお兄様を見つめた。
「ジーク、今はここだけの話にしておいてほしいが……、僕は、ブリギッテ王女につこうと思う。君はどうする?」
……うん? なんか、話がどこか遠くに飛んだ気がしますけど、どういうこと?
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