美貌の公爵と悪だくみ 5
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……ブリギッテにつく? つくって、どういうこと?
わたしは首をひねったが、どうやらラース様はお兄様の意見が聞きたいのであって、わたしのことは眼中にないらしい。
お兄様はティーカップに手を伸ばし、ぬるくなった紅茶を飲んで一息つくと、軽く眉を寄せた。
「個人的には、ブリギッテ王女は好きではないんですが……」
ちょっとお兄様、王女に向かって「好きではない」は不敬ではございませんか?
わたしはぎょっとしたけれど、ラース様はくすくすと笑っている。
「ブリギッテ王女は男嫌いだからね」
「それだけが理由ではないんですけどね」
お兄様はちらりとわたしを見る。
……わたしの顔に何か?
思わず頬を押さえるわたしの頭を撫でて、お兄様が改めてラース様に向き直った。
「公爵家は、次期王の選定に関しては口を出さないと言うのが不文律だったと思いますが?」
「そうなんだが、不文律が不文律でなくなりそうならば、どちらかが不利にならないように天秤を戻すのも公爵家の役目だと思っているよ」
……なんのこっちゃ?
これはわたしが理解できる話じゃないなと諦めたわたしは、ヴィルマにお茶のお代わりとケーキを頼んだ。ケーキを食べてのんびりしよーっと。
ケーキが来るまでぽりぽりとクッキーを食べながら、わたしはとりあえず聞いたふりだけしておく。
お兄様が腕を組んで、ふむ、と唸った。
「グレックヒェン公爵家ですか」
「話が早いな」
「あちらの跡継ぎがルーカス殿下に心酔しているのは有名ですからね。実際にこの目でも見ましたし。ルーカス殿下が王になれば次期グレックヒェン公爵……ラインハルト・グレックヒェンが側近入りするのは間違いない。となればグレックヒェン公爵家はルーカス殿下に玉座が回ってくるように動く可能性が高い、ということですか」
「そういうことだ。そうなった時にバランスを取るため、どこがどこにつくのかをはっきりさせておきたい。……マリアはブリギッテ王女と仲がいいだろう? マリアがルーカス殿下の婚約者候補筆頭だった時はどっちに転ぶかわからなかったが、今であればブリギッテ王女側だろうと思っている。どうだろうか?」
「そうですね……」
お兄様が瞑目して考え込む。
その間に、ヴィルマが頼んでくれたお茶のお代わりとケーキが運ばれて来た。
……わーい! マンゴーのショートケーキだー! 美味しそ~ぅ!
フォークを握り締めてケーキしか眼中にないわたしに、お兄様があきれ顔を向ける。
「……父がどう判断するかにもよりますが、ルーカス殿下には私も父も思うところはあります。ただ、我が家がブリギッテ王女に肩入れすれば、世間はマリアがルーカス殿下に選ばれなかった腹いせだと思うかもしれない。それは非常に不愉快なので、できるなら当面は中立のままでいたいですね」
「ああなるほどね。それは理解できるが……なら、ナルツィッセ公爵家はどうかな? 最近、君たちはアレクサンダーと仲がいいだろう?」
「仲がいいわけではないんですけど、相変わらず無駄に情報を持っていますね。学園内のことなのにどこで聞いて来たんだか」
「情報収集は得意だからね」
二人の会話を聞き流しつつ、わたしはマンゴーのショートケーキをパクリ。
……甘くてちょっとだけ酸っぱくてとろんとしてて美味し~い!
これワンホール出されても食べられそうだわとぱくぱくケーキを食べていると、ラース様が自分の目の前に出されていたケーキをわたしの方に押し出してくれた。ラース様、顔だけでなくて中身までイケメンね‼
お兄様のケーキはあとあとおねだりするつもりだったけど、ラース様までくれるなんて!
増えたケーキにによによ笑っていると、お兄様が頭が痛そうにこめかみを押さえる。
「アレクサンダーはわかりませんが、アグネス嬢は最近ブリギッテ王女と急接近しているようです。というのも、ブリギッテ王女とアグネス嬢は何故かマリアに懐いておりまして。……また、これは公にはできませんので言えませんが、諸事情があって、アグネス嬢がルーカス殿下の妃候補に上がることはありません。ゆえに、ナルツィッセ公爵家はルーカス殿下よりはブリギッテ王女の方に近いですね」
「なるほどね。あと残るはレーヴェンツァーン公爵家か……」
「あちらはまだわかりませんね。……まあ、今ここでこんな話をしたところで、どちらかが聖剣に選ばれさえすれば、即座に世継ぎが決まりますから、悩むこと自体無駄になるんですが」
「だが、まだどちらも聖剣に選ばれていないだろう?」
……まあそれはしょうがないわよね。だって聖剣が偽物なんだもの。
二人の小難しそうな話は半分も理解できていないけれど、聖剣のことならゲーム知識があるからわかるのよ。
だから、ヒロインであるリコリスが来年入学してきたら多少動きがあるかもしれないのよね。
リコリスがルーカス殿下を選べば、それで丸く収まるわけよ。聖剣を二人が力を合わせて発見して、無事ルーカス殿下が聖剣に選ばれるんだもの。
……ただ、リコリスがルーカス殿下を選ばなかった場合が問題なんだけどね。
その場合は、王位争いの決着がどうなったかはゲームでは描かれていない。だからわたしにもわからないのだ。
ルーカスルートは、ハッピーエンドでルーカスが王になる道が開かれ、バッドエンドでブリギッテが王になる道が開かれる。
でも、ルーカスルートでなければ、その答えは出されない。
……でもまあ、わたしとしてはどっちでもいいわけだけど。
ここは現実だ。
ゲームの通りにはいかないし、わたしは、ルーカス殿下もブリギッテも、両方が玉座を目指して頑張っていることを知っている。
ブリギッテの方は男性嫌いと言う点が少々ネックではあるけれど、それで国を傾かせたりはしないだろう。あの子は公私の顔をきっちりと使い分けるから。
「聖剣に選ばれるのが先か、それとも、陛下がどちらを後継にするか決めるのが先か……。それによってこちら側の動きが変わることは確かですけど、もう少し様子を見てもいいのでは?」
「様子は見るさ。だけど、どこがどう動くのかは把握しておきたいだろう?」
「その気持ちはわかりますが……。もしレーヴェンツァーン公爵家がブリギッテ王女につくとなると、バランスを考えた場合、うちはルーカス殿下につかざるを得なくなりますか」
お兄様たちの話はよくわからないけれど、なんとなく引っかかったので、わたしはケーキをごくんと飲み込んでから訊ねた。
「どうしてバランスを取る必要があるんですか?」
すると、お兄様とラース様は揃って困った顔で笑う。
「マリアは本当に……」
「昔から能天気な子だよねえ」
……なんかわたし、おかしなこと言った?
お兄様がやれやれと息を吐く。
「いいかい、マリア。王位継承は本来、聖剣により公正に決まるものだ。王位の選定に国内の貴族の野心的な思考が介入してはならない。これは昔から我が国の暗黙の了解であり、それゆえに聖剣での選定方式を導入している。ここまではいいね?」
「はい」
ここまではゲーム知識で知っているからわかりますよ。
「けれども今回、聖剣はどちらも選んでいない。これは、どちらにも資格があると取るべきなのか、どちらにも資格がないと取るべきなのか判断がつかない状況だが……、聖剣が選ばなくとも、現王陛下にはお二人しか子がいらっしゃらないため、どちらかが王につくことになる」
「そうですね」
さすがに王弟殿下とか王妹殿下の子を引っ張り出してくるわけにはいかないからね。それこそ国が混乱するし。
第一、聖剣は偽物なんだから、他に候補が出てきても誰も選んでくれないし。
「聖剣がこのままどちらも選ばなかった場合、重要になって来るのは公平性だ。どこの公爵家も殿下たちに肩入れせず、静観すると言うのならこちらが動く必要はない。しかし今、グレックヒェン公爵家があまりにもルーカス殿下に近い。そうなるべきは公平であるべき天秤は傾いてしまう。ならば他の公爵家の手により、再び天秤を公平に戻さなくてはならない」
ややこしいですが、要するに、グレックヒェン公爵家が肩入れしてルーカス殿下有利になりそうだからそれを元に戻したいんですね。
ほうほうと頷いていると、ラース様が優しく微笑んだ。
「聖剣が選ばない以上、玉座はお二人の殿下がお二人の努力をもってしてつかみ取るものだ。そこに他者が介入し、どちらかに有利に働きかけることは許されない。そうなれば、王位継承の公平性が揺らぐ。王位は公平に選ぶべしと言うのは、我が国建国時からの不文律であり、変えてはならないルールなんだよ」
なるほど~。
「まあ、聖剣が次の王を選ばないというのが、そもそも我が国の歴史を見てもはじめてのことだからね。僕たち公爵側としても、どうするのが正解なのか悩ましいところではあるんだけど」
……これ、わたしがぽろっと、聖剣は偽物なんです~とこぼしたらどうなるのかしら?
なんでそんなことを知っているんだ! さてはお前が聖剣を盗んだな! 処刑だ、破滅だ~ってことになるのかしら?
……は! ウンディーネが言っていた破滅っていうのはまさかこのこと⁉
あれ、でもそうなると精霊を集めなければならないと言うのはどこに行った?
うーん、わからん……。
「ただ、どうなってもいいように、準備だけは進めていようと思ってね。王位継承が従来通り聖剣での判定で行われないのならば、今の状況であるなら公爵家は否が応でも巻き込まれるだろう。どのような巻き込まれ方になるのかはわからない。だが、情報は集めておくに越したことはないからね」
そう言われれば確かにそうよね。
わたしは公爵令嬢だけど、基本的には何も考えてないから、公爵家事情はわからない部分が多い。
だけど、思い返してみれば、結婚式の前にルーカス殿下はわたし――というよりは、アラトルソワ公爵家を自分の陣営に組み込みたいようだった。
そのために、あれだけ毛嫌いしていたわたしに結婚を持ち掛けるほどに。
つまりはルーカス殿下は自分の陣営固めに精力的に動きはじめたと考えていいのだろうか。
……うぅむ。
正直、わたしは自分が破滅するか否かでとっても忙しいので、これ以上ややこしい事情に巻き込まれたくはないのだけど。
もぐもぐとケーキを頬張りながら、わたしは、ラインハルトがルーカス殿下にべったりだから面倒なことになったじゃないと、わたしに冷たいラインハルト・グレックヒェンに心の中で八つ当たりをしたのだった。
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