美貌の公爵と悪だくみ 2
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「お、おお、お兄様、今なんて?」
「うん? ああ。ギューデン伯爵だけどね、王都に強制送還の上貴族裁判にかけることになった。よくて身分剥奪の上に処刑。悪くて拷問の末、伯爵家取りつぶしの上に処刑、かな? というか、それ以外は我が家の威信にかけて認めない」
どっちも処刑じゃないですか――――ッ‼
「お、お、お兄様、世の中には命大事にという格言がっ」
「おや、そんな格言があったのかい? 知らなかったよ。というかどんな格言なんだい」
え、それはモンスターと戦う時にHPを気にして戦おうね回復優先だよと言う格言ですが……はい、ごめんなさい。忘れてください。
「とにかくお兄様! 公爵家の権限を使って処刑に追い込むのはだめだと思いますっ」
「失礼なことを言うんじゃないよ、マリア。我が家がねじ込まなくても、どちらにしてもギューデン伯爵は処刑になる。私はそれだけの証拠を持っているからね」
……お兄様、ギューデン伯爵のいったい何を調べ上げたんですか?
相変わらず絶対安静が解けないわたしはベッドの上だ。
お兄様はベッドの上に胡坐をかいて座ると、わたしの頭をよしよしと撫でた。
「まず、お前に対する殺人未遂。お前はアラトルソワ公爵令嬢だからね、これだけでも充分処刑になり得る罪だが、他にもある」
「ほか?」
「ああ。ギューデン伯爵はね、取引が禁止されている珍しい動物の違法買い付けを行っていたんだ。その動物たちは買い付けた後、会員制の店で檻に入れられ見世物にされ、弱ったら殺して剥製にして売りさばいていた。ヒメルは我が国に生息しているイルカの変異種で取引禁止にはなっていないが、ヒメルのほかに、法に触れる動物たちの取引の証拠が山ほど出てきたんだよ」
わたしは思わず絶句した。
ヒメルを見世物にして剥製にするつもりだと知った時にも、なんてひどいことをするんだと思ったけれど、ヒメル以外の動物たちにもそんなことをしていたなんて……。
「剥製の取引相手の多くは国外だった。そのときの脱税も罪の一つに上がっている。他にも、下級貴族の恐喝などもあったかな。小さいものなら山のように出て来たよ。全部ひっくるめて考えると、処刑以外はあり得ないんだ。情状酌量の余地はどこにもないからね。これは我が家が権力でねじ込んだものではなく、きちんと法に則って判断されての量刑だよ」
そうですか。それなら……わたしには何も言えませんね。
まあ、もともとギューデン伯爵を庇いたかったわけではない。というか、庇う理由は何もないし。
ただ、我が家が権力で無理矢理誰かを死に至らしめるようなことは、あってほしくないなと思っただけ。
「マリア、暗い話はこのくらいにして、明るい話をしようか」
「明るい話?」
「そうだね。たとえば……、ここのところ、お前がずっと私を『お兄様』と呼んでいる件について」
「わーっ‼」
そうだった! うっかり呼び方が「お兄様」に戻っていたわ! どうしようどうしよう、これはペナルティですか⁉ お仕置き案件ですか⁉
っていうか、どこが明るい話ですか‼
わたし的には真っ暗な話ですよ‼
わたしがわたわたと慌てると、お兄様がぷっと噴き出した。
「そうだねえ。お前も大変だったことだし……」
そう言いながら、お兄様がベッドに両腕をつき、わたしの方に身を乗り出してくる。
涙目になっていたわたしは、お兄様が何をしようとしていたのかに気づかず、ただびくびくとお兄様を見上げて――
「……今回は、このくらいで許してあげようかな?」
ふっと温かい息が唇にかかり、ちゅっと小さなリップ音がして、お兄様の顔が遠ざかっていく。
「…………」
わたしは、目を見開いたまま固まった。
あ、あれ? あれれ?
今、何が起こったのかしら?
固まるわたしに、お兄様があきれ顔をする。
「このくらい結婚式でもしただろう? 何を呆けて……」
「ひ、ひゃあああああああああっ‼」
わたしは思わず、ベッドの中に頭のてっぺんまで潜り込ませた。
キス⁉
今、キスした⁉
キスされたー⁉
顔にぶわわっと熱が溜まって、わたしはベッドの中であうあうと魚のように口をぱくぱくさせる。
……お兄様にとっては「このくらい」でも、わたしにとっては「このくらい」じゃありませんからーっ‼
恋愛偏差値が幼児並みのわたしを舐めるなよ‼
前世では結婚どころか恋人すらできたことがないんですよこんちくしょーっ‼
キスするなら、せめて! せめて先に、教えてほしかったです‼
もう、何に対して怒っているのかもわからない。
シーツにくるまり芋虫状態になったわたしの頭のあたりを、お兄様がぽんぽんと撫でる。
「マリアはもう少し、年相応の落ち着きと言うものを身につけた方がいいねえ。お前、一応人妻なんだよ?」
そんなもん、身につけられるものならとっくに身についていますよお兄様っ!
残念ながらわたしは、不意打ちにキスに余裕の微笑みを浮かべられるような大人の女性ではないんですーっ!
「不意打ちはひどいです!」
「じゃあ、今度から宣言しよう」
そ、それもちょっと……。
今からキスするよと宣言されたあと、わたしはどうしたらいいのかわからないじゃあないですか!
さっきは先に教えてほしかったとか思ったのに、もう、わたし、自分の頭の中も矛盾しまくりのぐっちゃぐちゃですよ!
……うぅ、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ!
どんな顔をしてお兄様を見たらいいのかもわからない。
芋虫状態のまま動かないわたしに、お兄様がやれやれと嘆息した。
「悪かった悪かった。そのままでもいいから聞きなさい。話はまだ終わってないからね」
まだ何かお話がありましたか?
恥ずかしすぎて悶絶しそうだからしばらく一人にしてほしいなあと思ったのに、話の続きとやらのせいで一人にもしてもらえない。
シーツの中から頭のてっぺんだけひょこっと出せば、お兄様がけたけたと笑った。
「マリアはいくつになっても子供のままだねえ」
それ、褒めてませんよね。
「小さい頃も、拗ねたら今と同じようなことをしていたよ、お前」
え、そうなの⁉
急激に今の格好が恥ずかしくなって、わたしはそろそろと芋虫状態を解除した。
むくりと上体を起こすと、お兄様が赤くなっているわたしの頬を指先でつつく。
「……お話って?」
ぷっくりと膨れるわたしに、お兄様はまた噴き出して、それから続けた。
「イルカの施設と、それからイルカの保護についてだよ。それについて一時間後に来客がある」
話が見えず、わたしはきょとんと首を傾げた。
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