美貌の公爵と悪だくみ 1
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海から地上に戻って、わたしはお兄様の命令で強制的にホテルの部屋で休むことになった。
お兄様が許可を出すまで絶対安静だと、部屋の外に無断で出ることを禁止されたのである。
心配させてしまったのは理解しているけど、これはあんまりではないかとしょぼーんとするわたしだったが、ヴィルマにまで「心配したんです」と言われれば弱い。
お兄様が満足するまではおとなしくしておいた方がいいだろう。
お風呂に入れられ、オートミール粥を食べさせられ、そしてベッドにおしこめられたわたしは、「眠くなーい」とベッドの上をごろごろと転がった。
お兄様はわたしが大人しくベッドに入るのを見届けた後で、慌ただしくどこかへ出かけて行った。船の件とかで後始末があるとかなんとか言っていたので忙しいのだろう。
……そう言えばあのお城、お兄様には岩の塊にしか見えていなかったみたいなのよね。
気になったので、海の底のお城について訊ねたら、お兄様に変な顔をされたのだ。
「見方によっては城の形に見えなくもないが、岩の塊を城だと思うなんてお前の頭の中は相変わらずメルヘンだね。それとも海に落ちたせいで幻覚が見えているのかな」と言われ、わたしは慌てて岩の塊が城に見えたと言いなおしたのだ。
……幻覚まで見えると判断されたら、部屋に閉じ込められる日数が増える‼
早くわたしが元気だと証明して絶対安静と言う軟禁の憂き目から解放されなくては。
ギューデン伯爵を地上まで連れてきてくれたあと、ヒメルは仲間のイルカたちとどこかへ泳いで行ったが、あれから誰にも見つかっていないだろうか。
「あ、そうだ、ヴィルマ! わたしたちが乗ったゴムボートだけど、ギューデン伯爵が雇った男たちが転覆させたらしいわよ!」
「ええ。そのようですね」
ベッドの上をごろごろ転がるわたしにフルーツの盛り合わせを持って来てくれたヴィルマが、薄い微笑を浮かべて頷いた。
「知ってたの?」
「あの状況ですからね。すぐに気づきます。ちゃんと全員捕まえて、報復しておきましたよ」
「……ねえ、今さらっと、報復とか言った?」
「言いました」
「い、生きてるわよね」
「かろうじて」
かろうじて⁉
ひっと息を呑むわたしに、ヴィルマは変わらず微笑みながら、
「生かしておかないと証言させられませんからね」
などと宣った。
つまりは証言させる必要がなかったら息の根を止めていたと⁉ あんたちょっと振り切れた時の暴走がひどいわよ!
「でも、お嬢様が生きていてくださって本当によかったです。もしお嬢様に万が一があれば、ジークハルト様が何をなさるかわかりませんでしたからね。あの男たちは死ぬより恐ろしい目に遭ったでしょうし、ギューデン伯爵家に対しても、そうですね……一家郎党拷問の上に皆殺し、くらいはしそうでしたから。そうなると外聞がよろしくありません」
わたしはくらりと眩暈を覚えた。
そこで心配するのは「外聞」ですかヴィルマさん。
「お嬢様はわたくしたちの大切なおも……お嬢様ですからね。ご無事で何よりです」
あんた今、「おもちゃ」って言いかけなかった?
じっとりと睨みつけると、ヴィルマが笑みを深めてすっと果物の乗った皿を差し出してきた。
「さあお嬢様、栄養を取って安静にしてくださいませ」
安静にしてほしいなら、心臓に悪いことをぽんぽん言わないでほしいわ。
「せっかくの旅行だったのに、なんか台無しになっちゃったわね」
「旅行の日程はまだまだありますから。ジークハルト様もさっさと片付けるとおっしゃっていましたし、全部終わればまた観光を楽しめますよ」
お兄様の「さっさと片付ける」はちょっと怖いけど、わたしも早く楽しい旅行に戻りたい。
とろんと美味しいマンゴーを口に入れる。
もぐもぐと咀嚼しながら、能天気なわたしは、後日、お兄様の「さっさと片付ける」の意味を知って青ざめることになった。





