ウンディーネの城 1
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……ええっと~、わたしはマリア、ここはどこ~?
なんてとぼけたくなるのも、仕方ないわよね。
だって、目の前にはあり得ない光景が広がっているんだもの。
気づけば目の前には真っ白なお城があって、わたしはその玄関前の白い砂浜の上に、ごろーんと大の字になっていたわけよ。
「こ、がばばばばっ」
ぽこっと口から空気の泡が出てぷかぷかと浮かんでいく。
ここはどこ~と言葉にしようとしたけれど、無理だった。どうやらここは海の底らしい。と言うかなんで海の底⁉ 水の中⁉ ぺっぺっ、しょっぱっ!
口を開けた瞬間に入って来た海水をぺっぺと吐き出し、わたしはむーんと唸った。
……その前に何でわたし、呼吸ができているの⁉
自慢じゃないけど、水の初級魔法なんて使えないわよ‼
海に落ちた時、あ、これ死んだって思ったもの‼
わけがわからないけれど、いつまでも人様のお城(というか海の中に何でお城が?)の前で大の字でい続けるわけにもいくまい。
起き上がり、わたしはまた首をかしげる。
……夢かしら? それとも死後の世界かしら? え? ってことはやっぱり死んだの⁉
ざーっと青くなったわたしだったけれど、死後の世界が海の中ってことはないはずだと思いなおす。前世でも今世でも、死後の世界は天上界にあるっていうのが常識なのよ。海底に死後の世界なんてないわ!
なんて思いつつ、そう言えばずーっと昔に海の底に死者がいるとかなんとか聞いたことがあるような気がしたけれど、きっと気のせいだと思うことにした。だって怖いもん。
それにしても、どうしたものかしら。
わたし、泳げないからここから海面まで泳ぐなんて無理よ? というか、ここ、どのくらい深いところなのかしら。
目の前を悠々と熱帯魚のようなカラフルな魚が泳いで行く。
浦島太郎に出て来る竜宮城を思い浮かべたが、現実にそんなものがあるはずがない。
……いや、あるのかしら? なんたって魔法ありの乙女ゲームの世界だし。
わかんなくなってきたわよ。あれ? わたし浦島太郎になったの?
……え⁉ ってことは玉手箱貰っておじいちゃんならぬおばあちゃんになるの⁉ 嫌なんですけど‼
玉手箱をくれると言われたら全力で拒否しようとわたしがどうでもいいことを考えていたとき、くぐもった唸り声のようなものが聞こえてきた。
何だろうと思って振り向けば、離れたところに誰かが寝転がっている。
わたし以外の人発見~っと、喜び勇んで近づいて行ったわたしは、けれどもむっと眉を寄せた。
……よりにもよってなんでギューデン伯爵なのよ。違う人がよかったんですけど!
気を失っているみたいだし、見なかったことにしようかしら。
いやでも、他に人はいないし、ギューデン伯爵でもいないよりはましかしら?
むーん、悩ましいところだわ……。
それに、いくら相手がギューデン伯爵でも、こんなよくわからない場所にぽつんと残しておくのも心苦しい。
しばし考えて、わたしはとりあえず声をかけてみることにした。
「ぎゅばばばばばっ」
……そう言えば海の中だった。
つい先ほどやらかした失敗をうっかりまたもやらかして、わたしは口の中に入って来た海水をぺっぺと吐き出す。
それにしても謎だ。口を開けば海水が入って来るのに、呼吸はできている。どういう仕組みだろう。これが魔法? いや、水の魔法は初級であろうとも使えないから使っていないのだけど。
自分の体にどんな現象が起きているのかはわからないが、考えたところで無駄だなとわたしは割り切ることにした。
だって、わたしの頭脳じゃあ、考えてところで無駄だもんね!
呼吸ができていて溺れていないのだから今はそれでいいのだ。そんな些細なことよりも、今はここがどこであの城が何で、どうやったら帰れるのかの方が気になる。
わたしは近くを探して、ホタテのような形の貝殻を発見するとそれを拾って来た。
貝殻の端っこを持って、つんつんとギューデン伯爵の肩のあたりをつついてみる。
……さっき唸り声がしたから生きているのよね~? もしも~し。
ギューデン伯爵の側にしゃがみ込んで、しばらく貝殻でつついてみたけれど反応はない。
けれども時折、呼吸しているのを示すように口から泡がぷかりぷかりと出てくるので多分生きているはずだ。
……うーん、困ったわね。
ここはおそらく海の底だろう。
その海の底を陸を歩くように歩けているが、このままだと移動は横方向にしかできない。海上に戻るには上方向に移動しなければならないのだけれど、どうやったらいいのかしら。
……とりあえず、飛んでみる?
ギューデン伯爵を起こすのは諦めて、わたしはぽーんとその場でジャンプしてみた。
体がふわりと浮いて、それからゆっくりゆっくり落ちていく。
……何これ面白い‼
ぴょんと飛ぶ。ふんわりと浮かぶ。それからふんわりふんわりと落ちていく。
これは妙に癖になる。楽しすぎる。
つい夢中になって、ぴょんぴょん飛んで遊びはじめたわたしだったけれど、体感時間で十分くらい経過したあたりでハッとした。
……遊んでいる場合じゃなかった!
よし、無駄かもしれないけれど一度考えてみよう。
わたしはその場に正座すると、腕を組んだ。
まず、わたしのステータスを思い出してみよう。
現在使用できる魔法は、ファイアボールとストーンブレット、それから無駄に魔力を消費するライトの三つだ。
だが、ライトはハイライドが近くにいるという条件下で発動するので、今この場では使えまい。
となると、ファイアボールとストーンブレットのみだが、海中でこれらの魔法がまともに使えるとは思えなかった。
……だってファイアボールは火でしょ? 水の中で火を出せば消えるに決まってるわ。
ストーンバレットは小石を飛ばす攻撃魔法だが、さっきのジャンプしたときの現象を考えるとこれもまともな威力があるとは思えない。
というか、ファイアボールとストーンブレットで、ここから海上に戻れるとは思えなかった。
……うん。詰んだ。
わたしは早くも結論を出した。
わたしにはもう一つ、サラマンダーと言うとっておきがあるが、また死にかけたら嫌だからあれは使いたくないし、そもそもこんなところでサラマンダーを召喚したらどうなるかわかったものではない。
……海と、精霊。どっちが強いのかしら。
仮にも精霊様なので、サラマンダーの方が強いかもしれない。
そうなるとどうなる?
……このあたりの海水が一瞬で沸騰するかも!
そんなことになればこのあたりを泳ぐ魚たちと共にわたしもお陀仏である。冗談じゃない。
……わーん! お兄様ああああ! 助けて~‼
こうなれば他力本願だ。助けが来るのを願うしかない。お兄様なら、きっと探し出してくれるはず。……だよね? 探してくれるよね? ああもうあいつ死んだなって放置したり……しない、よね? ね?
大丈夫大丈夫。だってお兄様だもん。きっと探してくれる。絶対に!
そしてたぶんこれは、お説教案件……ではないはず。
だってゴムボートが急にひっくり返ったんだよ? わたしが悪いわけじゃないもんね‼
……よし大丈夫、お兄様が助けに来てくれても怖くない!
お説教案件じゃないと判断して、わたしはホッとすると、改めて眼前の真っ白な城を見上げた。
……これって俗にいう海中遺跡ってやつ? でも海中遺跡ってここまで真っ白かしら? フジツボとかいろいろくっついていそうなイメージだけど。
実際に本物の海中遺跡を見たことはないのでわからないが、目の前の城のように異質なほど真っ白ってことはないはずだ。
よく見ると、城の外壁は白いけれど、玄関は青だし、窓もカラフルである。
……やっぱ竜宮城っぽいのよね。ってことは乙姫様が中にいるのかしら? でもわたし、亀を助けてないけど?
ギューデン伯爵を引きずっていくのはわたしの腕力的に無理だし、彼はひとまずここに放置しておくとして。
……乙姫様がいるなら帰る方法を教えてくれないかしら? 玉手箱は怖いけど……。
ここでぼんやりしていてもはじまらないと、わたしは意を決して、目の前の城の中に入ることにした。





