プロローグ
冷え切った廃倉庫の床に、荒い息遣いが響いていた。
床に横たわる一人の女は胸をさらけ出していたが、そこに快楽の色は微塵もなかった。むしろ、その瞳からは生気が失われ、男に凌辱されながらも虚ろなまま動かなかった。
「どうだ? 気持ちいいだろ?」
男は激しく腰を打ちつけたあと、ゆっくりと動きを緩めた。
「おい、聞いてるのか?」
パンッ! パンッ!!
男は女の頬を二度強く平手打ちした。しかし、女はまるで何も感じていないかのように反応を示さなかった。
「あーあ、ミック! もう一人連れてきてくれ。この女、壊れちまったみたいだ。」
そう言いながら、男は女の胸を乱暴につかんだ。
「……ミック?」
男は立ち上がり、無精ひげをかきむしる。
「このクズめ! 神の裁きを受けろ!」
「……は? お前、誰だ?」
闇に包まれた人影が、細長い何かを高く掲げる。
次の瞬間――それは一閃した。
女は身を起こし、目を大きく見開く。
自分を襲っていた男が、信じられない光景の中で四肢を切り刻まれていた。
目の前の惨劇を理解できず、呆然としたまま女はゆっくりと顔を上げる。
黒い人影は静かに彼女へ歩み寄った。
「お前もまた、神の恩寵によって裁かれる。」
そう告げると、人影は刃を振り下ろした。
アスガリサ
私はオラリオン帝国の王都を歩いていた。
この街を訪れるのは久しぶりだった……それでも、漂う臭いは昔と変わらない。尿と腐敗したゴミの悪臭が路地を満たしている。
もっとも、それも当然だ。私が歩いているのは、帝国の貴族たちから見捨てられた一角なのだから。
「主が彼らをお赦しくださいますように。」
石畳の路地を一つ、また一つと進みながら、私は両手を組み、静かに祈りを捧げる。
今回ここへ戻ってきたのには理由があった。
主人であるルシアの頼みで、ある骨董商から品物を受け取るためだ。
私は彼女と共に学院を発ち、王都までやって来た。しかし、交渉は思うように進まず、事態が動くのを待つしかなかった。
なぜ交渉が決裂したのか。
理由は単純だった。
路地を歩いていると、石畳の隙間に不自然な色が目に入る。
「……。」
夜の光に照らされた赤色。
その水面のような血溜まりには、星々の輝きが映り込んでいた。
私はゆっくりと視線を上げる。
そこには、骨董商の亡骸が家屋の薄汚れた壁に磔にされるように張り付けられていた。
手足は無残にも切り離されている。
「……これで二人目か。」
◇ ◇ ◇
表通りへ戻ると、ルシアが待っていた。
私が近づくと、彼女は煙草に火をつける。
「やり口は同じだった?」
「少し違います。今回は四肢で十字架を形作ったうえで、睾丸も切り落としていました。」
「……まさか、そこまで確認したの?」
「もちろんです。」
ルシアは深いため息をついた。
「状況が状況だから仕方ないとはいえ……この連続殺人鬼には、いい加減うんざりさせられるわ。」
「主が哀れな犠牲者たちの魂をお守りくださいますように。」
「今日はもう教会へ戻りましょう。」
そう言って彼女は、大きな十字架を頂く大聖堂へと歩き出した。




