「裏と表」
四月になってから、蘭も律も慌ただしい日々が続いていた。
そんな中、久しぶりに律の部屋で二人きりの時間を過ごしていた…。
「咲と樹くん、向こうで楽しくやってるかな〜」
「そうだな…二人は大丈夫だろ、
… 蘭、淋しいんだろ…咲さんがいなくて」
「うん……、 でも、律がいてくれるから平気だよ。
律と出会ってなかったら、孤独死してたかもね…」
律は微笑み、蘭の頭をそっと撫でた。
二人は蘭の買ってきたケーキを食べながら、穏やかな時間を過ごしていた
「そうだ! この前、恭兵さんが可愛い子って言ってた女の子なんだけど…」
「ん?彼女がどうかしたの?」
「実はね… 恭兵さんを紹介してほしいって…頼まれたの…
なんか好きみたいなの…まあ 憧れみたいなところもあるとは思うけど…」
彼女のことをよく知らない蘭は、あまり乗り気ではなかった…
「随分積極的な子だね…蘭はあまり乗り気ではないみだいだな」
「え なんでわかるの? 律すごいねえ」
「蘭の気持ちくらい、見てりゃわかるよ」
流石に何もかもお見通しっていうのも、なんだか複雑な気持ちでもあった。
「彼女のことよく知らないしから、恭兵さんにはまだ言わないでね、
私が見極めてからにするね…」
「そうだな、恭兵が知ったら、わちゃわちゃしそうだからな。
蘭に任せるよ、進展があったらまた 教えてくれな」
「うん わかった。」
蘭は心の中でそっと決めた。
――池田千紘という人間を、ちゃんと見極めよう。
恭兵さんに紹介できる子なのか、確かめなきゃ。
****
翌日。
蘭は池田の様子を知るため、仕事を通して彼女に耳を傾け始めた。
「はい、今日はこんな感じかな…仕事内容も徐々に覚えるしかないし
私も、全部理解してる訳でもないから、お互い協力し合ってがんばろう!」
「わかりました!よろしくお願いします。」
明るい返事のあと、二人はランチに出かけた。
「そういえばさ、なんで派遣で働いてるの?年齢的にも正職員になれそうなのに」
と、蘭は彼女のことを聞き出すきっかけを作った。
「あ… これでも新卒で凹商事に内定もらって入社したんです。」
「へ〜すごいじゃん」
「でも、私、見た目がこんなんだから、センパイ(女)たちからは
好まれなくて…」
「嫌がらせ、されたの?」
「まあ そんな感じです。研修の間は同期と一緒だけど、配属された先で
いろいろあって… 休職しました。」
(ん……音が変わった。途切れ途切れの響き……)
「今は、落ち着いてる?」
「はい、今は嫌われる前提で接しています…その方がダメージが少ないから…」
「そっか…わかる気はするけど、…でもさ、
演じなくてもいいんじゃない?可愛いんだしさ、それを武器に
ありのままの自分でいいじゃん!
少なくとも私は、さっきの可愛げのない池田より今の池田の方が
好きだな。」
池田は目を丸くし、少し潤んだ声で言った。
「センパイ………ありがとうございます」
「それでさ
佐々木さんのことなんだけど、 もうちょっと時間ちょうだい。」
「わかりました…よろしくお願いします。」
池田とうまく距離が縮められるかもしれない――
蘭はほんの少し、希望のような音を感じていた。
最初に聞いたギシギシした音は、今はもうほとんど響いていない。
恭兵さんにいうのはもう少し…あとにしよう
池田と話を終えて、席に戻ると、珍しく恭兵さんが座席にいた。
――さて、ここからまた「何か」が動き出す予感がした。




