「現実と未来」
蘭は、律と付き合う意味をようやく理解できた。
“互いを大切に思える存在”。
その確かな安心感が心地よかった。
そのせいだろうか。
職場のあの不協和音も、今日はなぜか遠くに感じられた。
世界がすこし変わった気がした…
***
夕方、スマホが震えた。
咲からのメッセージだった。
「今夜時間ある? 蘭に話したい事があるんだ…
「うん。私も咲に話したいことある!」
そうして、あっという間に会う予定が決まった。
***
久しぶりに、二人だけで向かい合う食事。
懐かしい空気が戻ってきて、話が尽きる気がしなかった。
咲は少し照れたように、けれど嬉しそうに言った。
「蘭…私、結婚することになった。
一緒にフランスに行くの。向こうで暮らすって決めた。」
「えっ……咲、ほんとに!?
すごいじゃん!! おめでとう、おめでとう〜!!」
蘭は椅子から立ち上がりそうなくらい喜んだ。
咲も笑いながら、蘭を見つめる。
「でもさ、蘭も……素敵な彼氏ができてよかったね?
水城さんって誠実だし、安心できる人じゃん。
蘭も、やっと幸せ掴んだよね。おめでとう。」
「ありがとう……。」
そんな風に、二人は乾杯を何度も繰り返した。
外に出ると、夜風が冷たくて心地よい。
別れ際――蘭がそっと咲を抱きしめた。
「咲……幸せにね。
私も、ちゃんと幸せになるから。」
咲は強く抱き返した。
二人はゆっくり離れ、笑い合った。
***
家までの帰り道、蘭は夜風を胸いっぱいに吸い込みながら、
ひとりでぽつぽつと心の中で呟いていた。
”結婚か”…まあ二人のことだから大丈夫だろうけど
結婚か〜
私は律との結婚考えたりするのかな…
律は結婚とか考える人なのかな…
それにしても…
咲も海外に行っちゃうし、ちょっと寂しいな、
私も仕事探さなきゃな〜
この先、どうなるんだろ。
どう、変わっていくんだろ。
未来は見えない。
蘭は空に向かって、深く長いため息をついた。
「……はぁ……どうなるのかな、私。」
でも、そのため息の最後には、ほんの少しだけ微かな笑みが混ざっていた。




