「過去の執着と真実」
律の家まで来た二人は、エントランスで
インターフォンを鳴らそうとした時…
「あれ?恭兵じゃない?
え? なんでこの子と一緒にいるの?
どういうことよ… あなたまさか 恭兵まで…どういうつもりよ」
律の家にまた、訪れてきたカオリが、二人を見た途端、嫉妬の怒りは
蘭に向けられた…
「おい、おまえこそ どういうつもりだ!
”彼女は律の恋人だ!”
それに、俺の同僚でもある… お前は何か勘違いしているぞ」
「勘違い? 何を言ってるの?私は律と終わってないわよ…
律のために距離をとってただけ…まだ私たちは愛してるわ…
なのに、私たちの邪魔をしないでくれないかしら…」
「何をいってるんだ、お前…」
恭兵はこのままだと、蘭が標的になってしまう。
「蘭、先に部屋に行け」キーを渡された蘭は受け取って部屋に向かった。
「恭兵!何をしてるの」
カオリは蘭の後を追おうとしたが、
恭兵が阻止して、エントランスから連れ出した…
***
急いで律の部屋に向かった蘭は、部屋のインターフォンを何回も鳴らした。
「恭兵 なんだよ…何回も押すなよ」
ドアを開けた瞬間、律は思わず息をのんだ、なんで…
「………蘭………」
蘭はとっさに… 持ってきたケーキを落として 律に抱きついた。
「蘭…どうしたんだ。 何があった?」
「カオリさんがいた… 今、恭兵さんが阻止してくれて
先に律のところに行けって…」
「恭兵が…」
「律…私のこと見つけてくれて”ありがとう”」
律はハッとした。
「私も、律を見つけた。律が好き。
カオリさんじゃなくて、私があなたの隣にいたい。
愛してる。誰よりも。」
律は、蘭の言葉に気づかされた…
「蘭………ありがとう。
俺も蘭を愛している…愛おしくてたまらない…」
律は、蘭を強く抱きしめた。
(俺は何を迷っていたんだ…向き合うべき人は、最初から決まっていた)
「蘭 ごめんな…心配ないよ。もう大丈夫! 必ず終わらせてくる
ここで待ってて… 恭兵のところに行ってくる…
待っててくれるか?蘭。」
蘭は毅然とした態度で、
「うん。ここで待ってる!律のこと信じてるから!
カオリさんを、ちゃんと振ってきて」と笑顔で答えた。
「わかった! じゃ 行ってくる」
律は迷いなく、恭兵とカオリの元へ向かった…
きっと大丈夫…大丈夫! 私たちの波長は、同じところで響いてる。
本物の波長で繋がってる。
***
「離してよ。痛いじゃない 恭兵何よ!また邪魔する気?」
恭兵は冷たく吐き捨てるように言った。
「ーーああ そうだよ、あんたじゃ 律を救えないんだよ」
「私は、ずっと律のそばにいた、居たかった…なのになぜ、
どうして…私じゃないの? 」
カオリは、泣き喚き、過去のカオリと何も変わっていなかった…
律を思い通りにしたかった、思い通りにできなかった、
許せなかった、離れていった律を許せないと思っていた執着。
律がカオリにゆっくり近づいた。
「………カオリ……… すまない。」
律ははっきりと続ける。
「昔の俺は、弱くて情けない男だった。
カオリの声が、俺の中では濁って聞こえてた…
その不協和音の中から、抜け出す道を示してくれたのが
恭兵だったんだ。
恭兵をちらりと見て、律は言葉を強める。
そして 俺は俺自身を取り戻せた。
今は、前に進むだけ、その隣にいるのはお前じゃない。
もし今後、俺たちに何かしたら、絶対許さない。
今以上に俺を“お前のことが嫌いな男”にさせないでくれ。」
***
律はその場に立ち尽くし、長く息を吐いた。
その横で、恭兵がポケットに手を突っ込みながらぼそっと言う。
「……やっと言えたな。」
律は苦笑いを浮かべる。
「あぁ…。
長かったな」
恭兵が律の顔を横目で見て、軽く肩を小突いた。
「もう大丈夫だな。」
「そう言えば…
さっきの『あんたじゃ律を救えない』って台詞……
完全にキレてただろ。」
「当たり前だろ。
あいつ、まだお前を自分の所有物みたいに思ってるんだぞ。
ムカつかねぇわけがない。」
恭兵の口調は荒いが、その奥には確かな心配があった。
律はふっと目を閉じて、静かに呟く。
「でも……ありがとうな。
お前がいなかったら、ここまで来れなかった。」
恭兵は一瞬だけ視線をそらし、照れくさそうに鼻を鳴らした。
「……馬鹿やろう
お兄ちゃんだからな
お前が前に進むなら、背中くらい押すに決まってんだろ。」
沈黙が降りたが、それは気まずさではなく、心地よい余韻だった。
律は空を見上げるように息を吸い、ぽつりと言った。
「蘭を……守りたい。
次は、逃げない」
恭兵はニッと笑った。
「その意気だ。
蘭の前でウジウジすんなよ?
“昔の律”に戻ったら、俺がぶっ飛ばす。」
「おい、なんで蘭って呼び捨てなんだよ…」
「え〜だって、妹みてえなもんじゃん」
「そうだな……お前がいてくれてよかった。」
恭兵は肩をすくめて、歩き出しながら言う。
「礼なら、蘭に言えよ。
お前を“今の律”にしたのは、あの人だろ。」
そう言って振り返りもせず歩いて行く恭兵の後ろ姿を見ながら、
律は静かにその言葉を噛みしめた。
—ようやく、本当に前に進める。




