473 決 戦 5
「ふはは、圧倒的ではないか、我が軍は!」
女神の守護騎士は、強い。それはそれはそれはそれは、強い。
それが、300人以上。一国を落とせるくらいの戦力なんじゃなかろうか。
……こんな戦力が他国に勝手に入り込んで、国際問題にならないのか?
それを言うなら、アリゴ帝国軍とか、ベリスカスの各領軍とかも……。
「ま、小さいことは気にしない!」
「小さくないわよ!」
レイコに突っ込まれた。
でも、まあ、とにかく戦況は巻き返せている。
女神の守護騎士は、魔物を倒すことにも力を入れているけれど、それよりも友軍に被害が出ないよう配慮してくれているみたいだ。
……一部の者達を除いて……。
「うおおおおおぉ〜〜!!」
張り切ってるなぁ、フランセットの奴……。歳を考えろよ。ぎっくり腰になるぞ。
あっ、危な……、切り抜けたか……。
やっぱり、歳には勝てないか。いくらフランセットでも、あれじゃあ持ちそうにないぞ。
周りの女神の守護騎士達も、気が気じゃない様子だし……。
あああ、また危ない……、仲間がフォローしてくれたか……。
さすがに、フランセットがヤバい。ヤバ過ぎる……。
いくら何でも、100歳オーバーだぞ。若く見えるって言っても、肉体的にはとてもまともに戦えるような状態じゃないだろう。
そんな身体で現場に出てくるヤツがいるか……。
いや、でも、来ないわけがないよなぁ。
……だって、あのフランだぞ。私の守護騎士にして、大陸の守護者、絶対英雄と呼ばれた戦闘狂、狂犬フランだぞ……。
駄目だ、気になって私が攻撃に集中できない!
……くそっ、仕方ない! やるか? やっちゃうか?
「恭ちゃん、フロートをあそこのお年寄りの近くへ!」
「え? あ、うん、分かった!」
そして、スピーカーのマイクを握って、と……。
『フラン! 受け取って!!』
剣を振る手を止めて、空を。私が乗るフロートの方を見るフランセット。
その眼前に、光の粉が舞う。
次第に形作られる、光の容器。
そして実体化する、赤い液体を湛えた小瓶。
その小瓶の下にあてたフランセットの両手の中に、ぽすんと収まった。
見覚えのある小瓶。見覚えのある赤いポーション。
フランセットがこれを見るのは、初めてではない。
昔、見たことがある。遠い昔に……。
栓を開け、迷わず一気に飲み干した。
そしてその身体が光に包まれて……、その光が収まった時……。
「……あは。あはは……」
そこに立っていたのは、神剣エクスグラムを天高く掲げた、15~16歳くらいの少女。
昔、アリゴ帝国の侵略軍が見た恐怖の具現化。満面の笑みを浮かべた、鬼神と呼ばれし少女。
……その目が、危険な輝きを放った。
「あはははははは!!」
裂ける大地、吹き飛ぶ魔物。
「「「「「「鬼神フランの復活だあぁ〜〜!!」」」」」」
女神の守護騎士達が熱狂の渦に包まれた。
「「「「「「うおおおおおおおお〜〜!!」」」」」」
もう、誰も彼らを止められない。
「……カオル、あなた、何て怪物を生み出したのよ……」
「香ちゃん……」
「あは、あはは……」
ヤベぇ……。
「これは聖戦だっ!!」
地上で、誰かが叫んでいる。
「女神の祝福を受けた我々が魔物如きに敗北するなど、決して許されぬ! 祖国を、民を、そして家族を護るのだあああぁっ!」
「「「「「「おおおおお〜〜っっ!!」」」」」」
女神の守護騎士以外の者達も、気合が入ったみたいだ。
……いける。この調子なら、死傷者数は当初の予想より遥かに少なく抑えられるだろう。
死傷者ゼロ、なんてことはあり得ないし、自分達の国は自分達で護らなきゃならない。神様や他国から来た者達だけに戦ってもらったのでは駄目なのだ。
だから、死者は出る。重傷者も出る。……しかし、できる限り損害は抑えたい。それが私達の……。
「空間の歪みを検知!」
「「え?」」
恭ちゃんが、慌てた様子で報告してきた。
「母艦から情報が送られてきた! 空間転送の兆候あり、だってさ。魔物が補充されるよ!!」
「どっ、どうして……」
「機関銃でも、やり過ぎて規制に引っ掛かった? それとも……」
そう言って、地上を見下ろすレイコ。
……うん、常軌を逸したペースで魔物が減ってるよね。フランセットとファルセット、そして女神の守護騎士達がいるあたりを中心として……。
あれがオーバースペック、許容を超えた兵器だと認識されたか?
しかし、これはマズい。兵士達も、そして女神の守護騎士達ですら、所詮は人間なのだ。体力も持久力も、そして武器の強度にも限界がある。いくらでも無限に魔物が補充されるなら、ジリ貧になる。
どうすれば……。
「搭載艇を森に突入させようか? 森がひとつ消し飛ぶくらい、魔物の大群を殲滅させるためなら許容範囲だよね!」
恭ちゃんが、そんなことを提案してきたけれど……。
いや、大爆発が起きて地上の兵士達が全滅、半径数十キロのクレーターができるってヤツでしょ、それ……。
「「却下!!」」
勿論、私とレイコにより却下された。
……不満そうな顔をするな!!
「仕方ない。アレを試すわよ」
「え……」
レイコが口にした、『アレ』。
もうどうしようもなくなった場合のために、一応考えてはいた作戦。
でも、下手をすると、……せかいがはめつする。マジで……。
しかし、今ここにはレイアがいる。
ならば、万一の場合はレイアが時空の歪みを修復してくれるだろう。
その可能性に、全てを懸ける!!
「承認!」
「承認!」
私と恭ちゃんが、レイコの提案を承認した。
3人一緒なら、何も怖くない!
「やっちゃえ、バーサーカー!!」
「誰がヘラクレスかっ!」
ヤバい時ほど、軽いノリ。それが我ら、KKR!!
「行くよ! 時空間振動魔法、出力最大!
行っけえぇ〜〜!!」
レイコが放つ、セレスに禁止された禁忌魔法。
アレだ。私を自分のアイテムボックスの中から出すために、王城の中でぶっ放してくれたヤツの、自重なし最大出力版。
これで時空連続体の繋がりを揺さぶって攪乱し、敵の転送を妨害するのだ。
転送失敗で身体の内側と外側が反転して、ビクンビクンと蠢くピンク色の肉塊となって出現したり、岩の中に出現したりすればいい!
リスクはある。
セレスが、私をアイテムボックスの中から救出するためにこの魔法を使ったレイコに以後の使用を禁止した理由。
……そう、『歪み』が発生する原因となりかねない、ってことだ。
でも、今、ここには『歪み』を処理できるレイアがいる。
それに、大事になればセレスの上位個体も出張ってくるかもしれない。
セレスより上位の分体は、魔物の大暴走や原住生物のことなんか全く気にしていないだろう。
……でも、さすがに『歪み』の発生や、それを誘発しそうな暴挙があれば慌ててやって来る可能性はある。
とにかく、リスクはあるけれど、それをカバーできる可能性はあるってことだ。
駄目で元々。同じ三振でも、何もせずに見逃し三振するよりも、フルスイングでアウトになりたい。
……それが我ら、KKR!!
* *
「ぎぼぢわるい……」
蒼い顔をして、口に手を当てている恭ちゃん。
私とレイコも、同じような顔をしている。
地上の兵士達も、そして魔物達ですら困惑して動きを止めている。
そう。時空の振動というものは、三半規管の異常どころではない不快感と感覚の混乱をもたらすらしい。
……ま、それも無理はないか。人間如きが手出ししていい次元の話じゃないよね、これって……。
「恭ちゃん、魔物の補充はどうなってる? 母艦からの解析情報は?」
「……ん……、あ、特に変化は……、って、何? 空間に大きな捻れが発生してるって?
それって、どういう……、駄目か、自動装置じゃ対応不能、判断不能だって!」
「えええ!! レイア、歪みが発生したの? たっ、対処を……」
レイアの奴、動く様子がないぞ!
いったい、どうなって……。
ずばあっ!
あああっ、空が裂けたああぁ~っ!
や、ヤバ、ヤバいいぃ〜〜っっ!!
空の一部が歪み、裂けて、そこから……。
「助かりましたあぁ~! やっと出られ……、って、何ですか、これ?
魔物の大軍? 人間達の軍隊? そしてこの時空連続体の異状は、いったい……。
あああっ、魔物の調整システムが暴走してる! マズいですよっ!
……って、カオルちゃんと、お友達の皆さん?
こんなところで、いったい何を……」
「セ、セ、セ……、セレスううううゥ〜〜!!」
全ての元凶の、御帰還だ……。




