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474 そして未来へ

「カオルちゃん、この状況はいったい……」

「それはいいから! とにかく、魔物の増産システムを止めて!

 そして魔物の大暴走スタンピードを阻止して、人間が殺されるのを防いで!!

 早く! 急いで!!」

「……え? あ、ええ、分かりました……」


 セレスがぼんやりと中空を見ているけれど、あれは多分思念波で何かに指示を出しているか、空間に浮かんだ私達には見えない画面で情報を確認でもしているのだろう。

 そしてしばらく経つと……。


「魔物の補充と、原住生物によるレベルを大きく逸脱した介入を排除するシステムを停止しました。

 そして、標準的な数を残し、異常に増えた分の魔物は時間の流れが停止した異次元世界にいったん隔離しました。森から溢れていた分を中心として……」


 ありゃ、セレスなら魔物なんかプチッと潰すだろうと思っていたのに……。

 下等生物に対する扱いが優しくなった? 地球の神様の影響かな?

 ……いや、それより……。

「どこに行ってたんだよ、セレス! そして、この事態はいったい……」

 そう、それを確かめねば!


「あ~、それそれ! 参っちゃいましたよ~。

 この世界のバランス調整をしていたら、歪みが発生したんですよ。なので慌てて現場へ行って、処理しようとした瞬間にバースト……空間の裂け目が一気に爆発的に広がって、それに巻き込まれちゃいまして……。

 そしてバーストと私の時空修復処置が変に作用しちゃいまして、両方の次元世界の間に挟まるみたいに閉じ込められたんですよ。

 無理矢理抜け出すこともできたのですけど、そうすると癒着面が裂けて両方の世界に被害が出る可能性がありましたから、何とか大きな影響が出ないようにと、ちょっと考えていたんですよ……。

 まあ、ほんの数時間のことですけど……。

 そこに、レイコさんの魔法の影響で次元の境目が緩んで……、って、私、レイコさんに言いましたよね! あの魔法は使っちゃ駄目ですよ、って!!」


 あ〜……。そういうコトかぁ……。

「セレス……、もう何十日も経ってるんだよ、セレスが挟まってから(・・・・・・)……」

「……え? ええ? えええええええ〜〜っっ!!」


「多分、こことは時間の流れが違う世界だったのだろうなぁ……。

 そして、セレスが魔物の調整をおかしな数値にしたまま長期間放置したせいで、大増殖。

 私達が数を調整しようとしたけれど、それに抵抗するかのように数の増加がエスカレートして、オマケにこっちの攻撃を無効化された。

 だから仕方なく、レイコがあの魔法を使わざるを得なくなっちゃったんだよ……。

 不可抗力……というか、セレスの尻拭いのためにね。

 ……それでも、レイコを叱る?」


「も、申し訳ございませんでしたああぁ〜〜!!」

 よし、これでレイコにはお咎めなしだな。


「……って、どうしてあなたがここにいるのですかああああぁ〜〜っっ!!」

 あ、セレスのヤツ、レイアの存在に気付いたか……。


     *     *


 セレスの罪悪感につけ込んで、状況を収拾させた。

 魔物は既に処理してくれていたから、広域魔法というか何というか、戦場の兵士達全体に治癒魔法のようなもので怪我を回復させて、皆をねぎらい、女神が不在の間に世界を護った勇者達としてヨイショさせたのだ。

 これで、兵士達は自分達の戦いが無駄ではなかったこと、女神に勇者として認められたことで満足してくれるだろう。


 既に兵士達は引き揚げ準備を始めている。

 遠方から来た連中は、魔物の素材を持ち帰るのは無理そうだな。

 それは、一番被害が大きかった、この森に隣接する2国にプレゼントかな。大部分は腐らせてしまいそうだけど……。


 レイアのことは、『遊びに来た、他の女神の分身体。今回の件では色々と助けてもらった』と説明することにより、セレスの追及をらした。

 自分の不始末をカバーしてもらったわけだから、文句は言えないよねぇ。

 そしてレイアは、セレスから『この世界で遊ぶ権利』をもぎ取った。

 ……そんなに気に入ったのかな、この世界を……。


 そしてフランセットのヤツ、ファルセットに向かってとんでもないコトを言いやがった。


「ファルセット、お役目、御苦労でした。

 カオルちゃんの護衛の任は私が引き継ぎますので、あなたは皆と一緒に帰国しなさい」

「……」

「…………」

「………………」

「ファルセット? どうかしましたか?」

「ふっ、ふざけないでくださいよおおおおォ〜〜っっ!!」


 ……そりゃ、怒るだろう。

 さすがにそれはちょっと酷すぎるぞ、フランセット……。


 女神の守護騎士(エインヘリヤル)軍団や各国軍の無断進入は、不問に付された。

 ……というか、感謝されて表彰やら礼状やら礼金やらが出されたようだ。

 各国の王都上空で、セレスが世界の危機を救った勇者達のことを告知したからね。

 勿論、私達のお願いで……。

 放置するとこの事件のせいで戦争が起きるかも、と言うと、セレスもふたつ返事で引き受けてくれたのだ。

 そのおかげもあって、国家間の交流が政治レベルでも民間レベルでも活発化して、貿易量とかが増えつつあるそうだ。


 ……そして勿論、私達のことが大々的にバレた。

 まあ、あれだけ大勢の兵士達の前でやらかしたからねえ……。

 でも、勿論変装した姿だったから、『新たな御使い様が御降臨なさっている』ということが知れ渡っただけであり、昔の偉人である『大聖女カオル様』とか、『リトルシルバー』経営者のカオルとかとの関係はないと思われている。……多分……。


 あ、そうだ。この機会に、ちょっと気になっていたことを聞いておこう。

「セレスの担当って、この惑星? それとも、この星系?」

「あ、このあたりの、一辺が10億パーセクくらいの立方範囲ですよ。

 本体が担当しているのがこの次元世界全体ですから、それをたくさんの分身体達が分割して担当しているんですよ。

 勿論、他の任務に就いている分身体とか、本体のアシストをしている分身体とかもいますよ」


「ええっ! なのに、ずっとこの惑星に張り付いてていいの?」

 他の場所は見なくていいんかいっ!


「何もない宇宙空間なら、歪みがかなり大きくなっても力尽くで消滅させられますからね。簡単に探知できるくらいになってからでも大丈夫なんですよ。

 でも、星系内とか生命体が発生している惑星上とかだと、すごく小さいうちに処理しないと、処理の影響で周囲が壊滅しちゃいますからね。それを防ぐために、生命体、特に知的生命体が発生しているところは優先して監視しているのですよ。私達の心遣い、サービスですよ。

 ……あ、勿論、『種として保護する』というだけであって、個体ひとつひとつには関与しませんし、ふざけた真似をしてくれた場合には、種が滅びない程度に教訓を与えたりしますけどね。

 だから、分身体達はみんな、自分の担当区域の中の生命が多い惑星を重点的に巡回してるんですよ。ここも、その内のひとつです。

 私も、ずっとここにいるわけじゃないんですよ。凄い高速で担当範囲内を巡回しているんです。

 ……まあ、ここには留守番役を置いていますから、カオルちゃんに呼ばれればすぐに戻りますけどね!」

 ドヤ顔で、そんなことを言うセレス。


「今回、その留守番役が役に立たなかった件について……」

「そっ、それは仕方ないのですよっ! 機械知性も人造生命体も、自我があるものを下僕のように使うことは禁則事項ですから、意志のない、ただの自動機械レベルのものしか使えないのですよ!」

「あ~、セレス達の種族の倫理観か……」


 金塊や宝石を作るのは構わないけれど、お金や芸術品の模造は駄目、とかいう拘りもあったなぁ、そういえば……。

 まあ、分からなくはないけど……。


「あっ、そうだ!!」

 え?

 セレスのヤツ、何か『いいアイディアが浮かびました!』っていうような顔をしてるぞ。

 ……つまり、かなりの面倒事かヤバい案件である可能性が大きい、ってことだ。

 私達には関係のないことでありますように……。


「この星系の監視、カオルちゃん達が手伝ってくれませんか?」

「ぎゃあああ~! 藪蛇やぶへびったああァ〜〜!!」


     *     *


「……そして色々あって、今に至る、と……」

 人間工学の粋を極めて作られた椅子に腰掛けて、手にしたグラスに口を付ける、私。

 見上げる天井は透明で、夜空をパノラマとして一望できる。

 そしてその夜空に浮かぶ、大きな青い惑星。

 ……そう、惑星ヴェルニーだ。


 ここは、ヴェルニーを巡る衛星だ。

 その、常にヴェルニーの方を向いている面に母船の主砲で大きな穴を開けて、そこに球形の母船をスッポリと嵌め込んだのだ。


 今眺めている天井部分……母船の外殻の一部……は透明だけど、ガラスとかじゃなくて金属だ。

 ハーキュライト……歯科用のナノ・ハイブリッド・コンポジットレジンの方じゃなく、小説版の『原子力潜水艦シービュー号』で、艦体の材質だとされている方……みたいなものだ。だから、強度的な心配はない。

 それに、隕石等に備えてバリアも張ってあるから、安心だ。

 更に、ヴェルニーからは望遠鏡を使っても見えないように、光学的にカムフラージュしてある。


 衛星のこの面が常にヴェルニーの方を向いているのは、地球の月と同じで、引力やら何やらの釣り合いでそうなったのだろう、多分。

 月も、たまたま偶然に地球を一周する時間と自転時間が一致した、なんてわけがないよね。

 そんなの、偶然だったらどんな確率やねん、ってことだ。


「カオル、セレスは?」

「5号に行ってるよ」

 レイコに、そう答えた。

 セレスのヤツ、ひとりで管制室……亜空間にある、セレスの待機所……にいるのは退屈だとか言って、こことか5号とか、惑星上にある私達の秘密基地とか秘密じゃない基地とかにしょっちゅう出没しやがるのだ。

 多分、レイアが好き勝手にやっているのが羨ましくなったのだろうな……。


 あ、『5号』というのは、アレだ。

 惑星ヴェルニーの衛星軌道上にある、地上監視衛星。

 惑星上の『歪み』の警戒監視とか、助けを求める救難信号の狼煙のろしとかを見つけた場合の救助指示を出すためのヤツだ。


 ……どうして『5号』なのか? 1号から4号までもあるのか?

 い~んだよ、細けぇこたー!


 とにかく、あの後、セレスのヤツに『歪み』の監視や原住生物……人間以外も……の保護、その他諸々の手伝いを頼まれたのだ。

 自分は細かいことが苦手だし面倒だから、とか言って……。

 その代わり、私達に色々と便宜を図ってくれたり、できること……権限を増やしてくれたりした。

 まあ、ちょっとしたことでセレスが国を滅ぼしたり大陸を海に沈めたりするのを見るのはあまり気が進まないから、そういうのを防ぐための安全装置になれるならと、引き受けたのだ。

 ……仕方なく!!


 あと、他の惑星に工作艦(作業用ロボット付き)を送り込んで資源採掘基地を造らせたり、テラフォーミング……じゃない、ヴェルニーフォーミングを始めさせたりもしている。

 ……いや、いつヴェルニーに小惑星が衝突コースでやってくるか分からないからね。


 迎撃用の核ミサイルを発射するとか、小惑星を掘削して内部で核爆弾を爆発させるとか、南極部に超巨大なエンジンを建設して惑星を移動させるとかより、事前に移住先を用意しておく方が安全確実だよね。人口増加や資源の枯渇にも対応できるし……。

 レイコのヤツが、『そのうち、他の星系にも行ってみる? 5年間の調査飛行とか……』って言っていたけれど、スルーだ。


 ……あ、そうだ!

「明後日は、レイエットちゃんのひ孫の誕生日だから、ちょっと地上に降りてくるね」

「フランセット達は?」

 うん、若くなったフランセットが、おとなしく母国に帰るわけがないよね。

 私の護衛の任を巡ってファルセットと壮絶な戦い……言葉のみによる……を繰り広げ、真祖様相手に一歩も退かない『脳筋ファルセット』を言い負かすことができなかったフランセットは、ふたりで私の護衛役を務めることにしたのだ。

 ファルセットは、脳筋揃いの一族の中では頭がいい方らしいからね。

 それに、ひとりじゃ常時私に張り付いていることは不可能だということが分かっているしね。

 そのフランセットは……。


「ロッテちゃんに稽古をつけるとかで、母国の女神の守護騎士(エインヘリヤル)の道場に連れて行ってる。ハナノちゃんも一緒。

 勿論、ハナノちゃんはただの付き添いで、見学と応援だけだけどね。

 何でも、『私の血を引いていないとは思えないくらい、筋が良い』とか言って、弟子にしたがってるんだってさ。

 ……多分、駆け落ちしたとか何かで家系図から外れた傍系じゃないのかなぁ……。

 ロッテちゃんも長生きするから、自分の技を全て教え込みたいのだろうね。自分の流派が後世に正確に伝わるには、最適の人材だものねぇ……」


 私に会いたくて、旅を続けていたというふたりの少女。

 そのうちの片方は、何と、私の昔の知り合いだったよ。


 レイコとそんな話をしていたら、横から恭ちゃんが……。

「暇だなあ……。衛星上ここに人面岩や謎の構造物を造ったり、惑星上にピラミッドや海底神殿を造ったり、水晶ドクロを作ってあちこちの遺跡に埋めたりして、後世の歴史研究者達を困らせてやろうかなぁ……」


「「やめんかああああァ〜〜!!」」

 私とレイコの怒鳴り声がハモった。

 研究家肌のレイコが、額に青筋を浮かべてる。

 これ、本気で怒ってるぞ……。


 あ、恭ちゃんがレイコの本気怒りに気付いた!

 焦ってる焦ってる……。


 惑星上には、私達による色々な組織や拠点がある。

『リトルシルバー』は、『女神の眼』の連中に運営を任せ、私達はたまにお土産を持って訪問する程度だ。

 恭ちゃん……サラエットのお店は、支店も本店も、それぞれ孤児院へ寄付……譲渡した。

 私達からの商品の供給がなくなれば大儲けはできなくなるけれど、孤児院が経営すれば人件費がタダ同然だし、何とか稼いでいけるだろう。

 たまには、私達が大儲けできそうな商品を卸してあげるしね。


 他にも、大陸から遠く離れた無人島に別荘……というか、秘密基地というか……を造ったり、色々とやっている。

『夜の御使い様劇場』も、続けているしね。

 たまには、変装してごく普通の町娘3人組として観光旅行に行ったりもしている。


 のんびり、楽しく。

 そして、ちょっぴりこの惑星の人達のお役に立てれば、それでいいや。


「……ところで香ちゃん、この世界に来た一番の目的は、どうなってるの?」

「え?」

「そういえば、そうよね……。どんな調子なの?」

「えええ?」

 恭ちゃんに続いて、レイコまで何か言ってきたぞ……。

 何? 私がこの世界に来た目的? 何のこと……、って、ああっ!


「「「増殖大作戦!!」」」


 う……。

 うう……。

 ううううううう……。


「わ、私の……」

「「私の?」」


「私の婚活たたかいは、これからだああああァ〜〜!!」



『ポーション頼みで生き延びます!』、これにて完結です。

「小説家になろう」にて連載を始めてから、10年半。

 長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。


 連載は終わっても、あの世界でのカオル達の活躍は続いています。

 いつかまた、今までの幕間話や後日談をふと書きたくなるかもしれませんので、完結処理はせず、『連載中』モードのままにしておきます。

 完結済みにした方が、完結ブーストというか何というか、「エタらずに完結している作品だけを読む」という方々に読んでいただける確率が増すのかも、と思わないではないのですが……。


 10年半、本当にありがとうございました。

 そして引き続き、拙作『私、能力は平均値でって言ったよね!』、『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』、『神 獣』の3作品、よろしくお願いいたします!(^^)/


 あ、『ポーション』の書籍版、ちゃんと最後まで出していただける予定です。

 打ち切りじゃないよ!(^^)/

 コミカライズの方も、連載、コミックス刊行、共に続きます。

 併せて、よろしくお願いいたします!


 そして、5月1日に、『ろうきん』書籍11巻、刊行です。

 こちらも、よろしくお願いいたします!(^^)/

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― 新着の感想 ―
長い間お疲れ様でしたm(_ _)m 最後にフランセットが登場して15歳位に戻してもらえて本当に良かったです(^o^)
結婚(はんしょく)はあきらめて、さっさと女神候補生になればいいのに。
やっぱり大増殖に決着はつかなかったか。 連載お疲れ様でした!
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