【9】
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大学の近くの食堂でお昼を食べていた永沢ミキは、携帯の着信音を聞いてメールを確認した。送ってきた相手は夏美で、メールの内容が可愛いものだったので、ふっと笑みを浮かべる。
あの歌の反応を聞かせてくれる事になっていたのだが、困らせるつもりが相手が上手だったという内容だった。
「ま、ルカが相手なら仕方ないかも」
最後までメールを読むと、『ミキは、その後どう?』と書かれていた。アキラとの関係について質問しているのは分かるのだが、あれから何もない。
私からメールも送っていない。何を書いて送ったらいいのか、話題すら思いつかない。彼は仕事をしているし、私も課題があったりして休日をあわせるのが難しいので、頻繁に会いたいと送るのは迷惑だろうか。なんて考えながら、メールを書きかけては消す事の繰り返し。
誰かが前の席に来た気配がしたが、特に視線をあげて確認しなかった。
「何が、ルカ相手だと仕方ないの?」
「困らせるつもりが、ルカの方が上手だったらしくて、なんでココにいるの?アキラ」
「お昼食べようとしたら、永沢ちゃんの姿見かけたから声をかけてみようかと思って」
「ふーん」
「相席していい?」
「どうぞ」
平日の昼間は、主婦のお茶やお昼休憩で食べに来た人などで席がうまってくる時間帯だ。そんな時間にお昼だけ食べにアキラが出てくるのが珍しい気がした。何か用事がないかぎり、外で食べる事をしなさそうなのに。
「……の後、何か予定ある?」
「授業。三限だけだから、その後の予定は決めてない」
「そうなんだ。じゃ、授業が終わったら、永沢ちゃん俺とデートしない?」
アキラらしいデートの誘い方に、思わず笑ってしまう。
「ひどいな、笑う事はないだろ」
「ごめん、アキラらしいなと思って。どこに行くかはアキラにまかせます」
「了解。じゃ、授業が終わったら連絡して」
「うん、分かった」
大学の授業が終了した後に連絡をすると、大学近くにあるデパート内にある本屋で待ち合わせをする事になった。
授業が終わってから連絡すると、大学近くのデパート内にある本屋で待ち合わせする事になった。
昼下がりのちょうどいい時間帯で、デパートの中は活気づいている。待ち合わせ時間まで、まだあるので雑誌コーナーで時間をつぶす事にした。ファッション雑誌を適当にパラパラとページをめくっていたが、ふと、デート特集でめくる手をとめる。服のコーディネートとデート場所について見開きの特集ページだった。綺麗な風景が見える場所や、落ち着いた雰囲気のカフェやバーが掲載されていた。
「お待たせ、永沢ちゃん」
後ろから肩に片手を軽く置かれて、雑誌を元に戻して振り向いた。
「待ってないよ。さっきついたところだから」
「ならよかった」
「どこに行く?もし、どこでもいいなら、カラオケ行きたい。歌いたいな」
「どこのカラオケにしようか」
なんて会話しながら、ゆっくり歩き始める。
ふと、ある歌手の歌詞が浮かび、その通りだなと笑みを浮かべた。
隣にアキラがいるなら、無理をして綺麗な風景を見なくても、デートの場所はどこでもいい。
「永沢ちゃんの歌、優しくて落ち着きのあるしっとりとした声だから楽しみだ♪久しぶりに聞けるし」
「アキラ、声フェチだったわね」
「この業界、そういう人が多いだろ?」
「……そうかも」
声に魅力を感じるからこそ、いろんな感情を聞きたいと思わせる気持ちが過去に夏美と周りの人を見ていて、そう感じた事があるのを思い出した。
「永沢ちゃんは、何フェチなの?」
「さぁ、何フェチだろう。考えた事ないから、分からない」
人の特定部位にたいして、ここが好きだとか考えた事がない。
「タバコの香りが街中ですると、アキラの事を思い出すことはある」
「そうか」
「うん」
ふと、その人の面影があると思い出してしまうほど好きなのに、本人を目の前にするとなぜ言う事すらできないのだろう。言う事すらできないからこそ、それを音で表現したくなるのかもしれない。
「今度、ギター教えてほしいな」
「いいよ。今度都合があう時にでも」
だから、表現できる方法はなるべく多く学びたいと思う。これから先も、私たちの間には音が届く場所にいるのだろうなと漠然と感じた。




