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音の届く場所  作者: 皐月 悠
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【11】


【11】


 しばらくして、路上ライブでどうするのか打ち合せをしてからライブが始まった。

ライブをしている時、上手くなりたくて、苦しくてもがいている事も吹き飛んでしまう。楽しさが辛いと感じていることを勝ってしまうから、自然と口元に笑みが浮かぶ事に気が付いてしまう。

 みんながライブしている様子を見ていた夏美は、そう感じていた。

 音楽がなければ、みんなと会う事もなくて、傍にいる事もなかったと思う。好きな事が仕事になって、周りからのプレッシャーになっていた過去があったとしても、音はいつも私の傍にいた。いつでも音は私の真ん中にあるから、苦しい事も経験しても嫌いになりきれない自分がいる事に気付かれたのは、彼らと出会ったおかげだ。

 最初は数人だった観客も、次第に人の輪ができるまでに集まっている。

 「あれ、バックで演奏している人たち、どこかで見覚えがある気がする」

 「そう?」

 「うん、思い出せないけど…」

 「でも、プロがやっているわけないよ」

 「そうだね」

 この頃には、そんな会話が出て来始めてきているものの、誰なのかまでは分かっていない様子だった。 そんな会話を聞いて、いたずらっ子のような笑みを美咲さんは浮かべて、私に視線を向けてくる。

 「プロがやっているわけないそうよ?」

 「その言い方、なんとなく嫌かな。仕事にしているプロの人だとしても、苦しさが楽しさ勝ってしまうから、その場所がどこだろうと関係ないよ。……周りの迷惑にならなければ」

 「そうよね。夏美が羨ましいかもしれないな。そう言えて。私は、まだ苦しさより楽しさが勝ってしまうとは思えないから」

 美咲さんは、苦笑を浮かべている。それは過去の私の姿に重なって見えた。嫌いなわけではないからこそ、苦い気持ちが強くなってしまうと先の見えないトンネルの中にいるように感じてしまう。

「今の状況を楽しもうと思えたら、楽しさが勝ってくる気がします。傍に楽しんでいる人がいたら、いつのまにかつられて楽しく感じられるようになっていました」

「ふーん」

美咲さんは私に視線を向けると、からかうような笑みを浮かべた。誰の事を言っているのか分かってしまったみたいだ。

「ルカが聞いていたら、喜びそうね」

「事実ですから」

直接会うようになる前は、言葉で傍にいてくれた。メールだったが、電子画面に映し出された文字は不思議と冷たさを感じないものだった。言葉から伝わってくる感情は、楽しそうで元気になれた。

「美咲さん、歌も好きですよね?」

「んー…聴くのは好きだけど、歌うのは苦手」

「聞くのは楽しいですか?」

「楽しいかどうかは、分からないかな。次はどうなるのか気になるし、曲によっては自分の感情と重なる部分もある曲もあるから、全部が楽しく感じているわけではない。でも、歌は好きだから、聴きたくなる」

「美咲さんなら、そのうち、楽しさが勝ってくる感覚になると思います」

「そうかな?」

「はい」

何かを一つやり続けていくという事は、楽しい事ばかりではない。上手くできなくて、自分の力のなさにイラついてしまい、壁にぶつかってしまうと、途中で投げ出してしまいたくなる。それでも、好きな事を続けているのなら、先の事が見えていれば、楽しさが勝ってしまうと思う。

 「いい表情、するようになったね」

 「みんなに出会う事ができて、充実しているのが嬉しくて」

 前よりもいろんな事にたいして興味をもてるようになって、自分の中で表現したい事や感覚が増やす事ができた。だから、これから先の事は不安よりも期待を抱けるようになって、心の余裕があるからかもしれないと感じる。

 ライブの一曲目が終わったらしく、周りの観客から拍手が起こる。楽しそうに笑っている2人…美月と葉月を見ていてよかったと思う。

 高校の同級生だった美月は、自分の歌声に自信がなかった。葉月は、独学で楽器を勉強しながら将来の事を悩んでいた。高校を卒業した2人は、今ではそれぞれ仕事をしながら、時々路上ライブを続けている。親しくなったのも、音楽がきっかけだった。

 バックで演奏している彼らが楽しそうに笑っているのを見て、音楽がなかったら今この場にいる人たちと出会う事がなかったと思うと不思議に感じた。

歌う事は最初、自分の感情をぶつけるためだけに始めた事だった。それが、いつのまにか、仲間ができてプロの仕事になり、自分一人のために歌う事が亡くなった結果、誰かを想って歌う機会が増えた。それは、仲間やファンなど周りにいる人たちが増えたから。

そして、その後、美月と葉月の2人に歌を教えるという事を始めた頃、人に教える事は、自分でまず十分に理解していないと伝わらない事を実感した。誰かが『自分で上手くできる人が、人に教えるのが上手いとは限らない』という事を言っているのを聞いた事がある。分かりやすく伝えるためには、知った知識をそのままの言葉で伝えても伝わりづらい。自分の中で消化した後に言うのと伝わり方が違う。

バイト先で、接客について学ぶ事も全部が、自分から興味を持って接する事によって充実感がある日常に変化した。ルカに出会ってから影響を受けた事もあるかもしれない。

「……私は、美咲さんが羨ましいです」

「どうして?」

「私より早くにルカに出会っていた事とか、悩んでも前を向いていられる性格がいいなって思います」

「そう? ありがとう」

笑みを浮かべてさわりとお礼を言えるところも、羨ましく感じてしまう。

「自分のほしい部分を持っている人を見ると、羨ましく感じるのかもしれないね」

「そうですね」

ヒットした曲を選曲したらしく、2曲目が始まると手拍子が自然となりはじめると、全体の空気に一体感がある。その様子を見て、美月と葉月は将来、プロになるかもしれないなと感じた。なんとなく、そんな予感がする。

「私、将来の夢決まりそうです。美咲さんも、夢に向かって挑戦してみてください」

「考えてみる」

2曲目に流れてきた曲は、夢をテーマにしている曲だった。歌詞の内容は、主人公が大人に成長していきながら、捨てきれない夢に向き合った時に、自分の真ん中にある変えられないモノの存在に気づかれる。周りにいる人たちと前を向く。そこで、曲が終わる。

夢を追い続けていれば叶う、とは曲の中で描かれていない事に疑問に思って、圭に聞いてみた事がある。すると、彼は苦笑を浮かべた。

『すべての夢が叶うわけではないけど、自分の真ん中にあるモノだけは捨ててほしくない。状況が許さない事だってあるし、何を叶ったのと感じるのかでも違う。捨てないでいれば、どこにいようと仲間とつながっていられるから』

ルカ達が笑いながら、こっちに手を振ってきたので、手を振りかえした。

音楽が好きな人にとって、心の真ん中に音楽がいる。音の届く場所が、私達の居場所になっていた。これから先も、この事だけは変わる事がない。


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