第99話 背中を預けて
青白い光に照らされた巨大な空間で、数え切れない魔物の群れがこちらへ動き出した。
「下がってください!」
竜爪剣を抜く。
正面からはアーマーリザード。その左右からは大型の蜘蛛や、太い角を持つ四足の魔物まで近づいてくる。
「アレンさん、左右からも来ます!」
「分かっています!」
《魔力感知》を広げる。
多い。
五十体どころではないかもしれない。
ただ、一体一体の反応を確認すると、レッドドラゴンやゴールデンゴーレムのような明らかに別格の魔物はいなかった。
「この数で細い通路に戻ったら、身動きが取りづらくなりますね」
フェリシアが言う。
俺も同じことを考えていた。
後ろの通路は三人が並んで戦えるほど広くない。
それなら、この広間の方がいい。
「ここで迎え撃ちましょう」
「はい!」
「うん!」
「三方向を見ましょう。背中は任せます!」
三人で少しだけ距離を取り、互いに背中を預けるように別々の方向を向いた。
俺の背後にはフェリシアとルナがいる。
不思議な感覚だった。
これまでは、後ろにいるフェリシアを守ることを考えながら戦うことが多かった。
でも今は違う。
後ろは二人に任せられる。
俺は前だけを見ればいい。
「来ます!」
三体のアーマーリザードが走ってきた。
先頭の一体が飛び込んでくる。
横へ半歩ずれ、竜爪剣を振る。
狙うのは甲殻そのものではない。
首元の継ぎ目。
刃が深く入った。
【900P獲得】
二体目が噛みついてくる。
身体を沈めてその下へ入り、腹を斬る。
体勢を崩したところへ、もう一撃。
【900P獲得】
三体目が横から迫った。
「アレンさん、そのままで!」
フェリシアの声が聞こえた。
振り返らない。
ドンッ!
魔弾がアーマーリザードの頭へ直撃し、巨体が横へよろめく。
そこへ踏み込み、首を斬った。
【900P獲得】
「助かりました!」
「前をお願いします!」
「はい!」
今度は角を持った四足の魔物が突進してくる。
真正面から受ける必要はない。
軌道から外れ、すれ違いざまに前脚を斬る。
「ブオオオッ!」
巨体が傾いた。
首へ竜爪剣を振り下ろす。
【700P獲得】
次。
その後ろにも、もう一体いる。
◇
「《魔弾》!」
背後でフェリシアの声が響く。
六つの光が周囲へ浮かび、一斉に飛んだ。
ドンッ!
ドドンッ!
大型の蜘蛛が次々に吹き飛ぶ。
以前のフェリシアとは明らかに違う。
《魔聖》。
《魔力操作》。
そして《共有》で増えた魔力。
一発ずつ撃っていた頃とは、戦い方そのものが変わっていた。
「まだ来ます!」
さらに魔弾が浮かぶ。
右からフェリシアへ飛びかかろうとした蜘蛛へ、別方向から矢が飛んだ。
ドスッ!
目に突き刺さる。
「ルナさん、ありがとうございます!」
「まだそっちに二体!」
「はい!」
フェリシアの魔弾が飛ぶ。
俺の前にも次の魔物が迫る。
だが、そのさらに向こうでルナの方向へ三体が走っていくのが見えた。
「ルナ!」
「大丈夫!」
ルナが矢筒へ手を伸ばした。
取り出したのは一本ではない。
三本。
「この距離ならいける!」
三本の矢を同時につがえる。
ルナが弦をゆっくり引いた。
以前より遥かに上がった筋力。
それでも三本を同時に扱うのは初めてだ。
「……まずは三本」
小さく呟く。
狙う。
そして放った。
ヒュンッ!
三本の矢が扇状に広がる。
一体目の喉。
二体目の目。
三体目の口元。
ほぼ同時に突き刺さった。
三体の魔物が次々と倒れる。
「当たった!」
ルナが自分でも驚いたように目を見開いた。
「すごいですね!」
フェリシアが声を上げる。
「今の身体ならできる!」
ルナはすぐに次の矢を取る。
今度も三本。
「近い相手は三本でいく!」
ギリッ。
弦を引く。
放つ。
三本の矢が別々の魔物へ飛んだ。
一本ずつ狙う時ほど遠くまでは撃てない。
でも、この距離なら十分だ。
元々の弓の腕。
遠くまで見える目。
《風読み》。
そこへ《共有》で増えた筋力と敏捷が加わっている。
ルナの戦い方まで変わり始めていた。
◇
魔物は途切れなかった。
アーマーリザードを斬る。
【900P獲得】
横から来た大型蜘蛛を斬り伏せる。
【600P獲得】
角を持つ魔物の突進をかわし、首へ剣を入れる。
【700P獲得】
次。
また次。
Pの表示が現れては消えていく。
「右から二体!」
「任せてください!」
身体を回しながら竜爪剣を振る。
甲殻の隙間へ刃が入った。
【900P獲得】
今度は左。
大型蜘蛛が飛びかかってくる。
剣を戻すより先に、矢がその頭へ突き刺さった。
「そのまま!」
ルナの声。
俺は足を止めない。
蜘蛛の横を抜け、さらに奥のアーマーリザードへ向かう。
後ろで魔弾が炸裂した。
誰かが倒しきれなかった魔物を、別の誰かが仕留める。
「アレンさん、前を!」
「はい!」
「こっちは任せて!」
二人の声が聞こえる。
背後を確認する必要はない。
目の前の魔物だけを見る。
動き。
重心。
甲殻の切れ目。
《剣聖》で身についた感覚のまま、竜爪剣を振る。
一体。
また一体。
それでも魔物は来る。
地面を蹴る音。
鳴き声。
魔弾が炸裂する音。
矢が風を切る音。
巨大な空間に戦闘音が響き続ける。
「ルナさん!」
フェリシアが声を上げた。
「何!?」
「矢です!」
振り返らなくても分かった。
フェリシアが《収納》から矢の束を取り出している。
「助かる!」
ルナが受け取る。
昨日、町で買った百本の矢だ。
「これならまだ撃てる!」
三本をまとめてつがえる。
「右の三体!」
「見えてる!」
放つ。
三本の矢が飛ぶ。
その直後には、すでに次の矢へ手を伸ばしていた。
◇
戦い始めてどれくらい経ったのか分からない。
呼吸は荒くなっている。
フェリシアも最初ほど連続して魔弾を撃たなくなった。
ルナの足元には使い終えた矢筒が転がっている。
それでも、魔物の数は確実に減っていた。
「あと少しです!」
《魔力感知》で分かる。
さっきまで広間を埋めていた反応は、もうわずかだ。
「分かりました!」
「最後までいくよ!」
残っていたアーマーリザードが俺へ走ってくる。
一体。
その後ろにもう一体。
最初の一体の噛みつきを外し、首元へ竜爪剣を通す。
【900P獲得】
二体目。
尻尾が横から飛んでくる。
身体を沈めてかわし、一歩踏み込む。
甲殻の継ぎ目へ一閃。
【900P獲得】
さらに奥から大型蜘蛛。
「《魔弾》!」
フェリシアの攻撃が脚を砕く。
蜘蛛が体勢を崩した。
「アレン!」
ルナの矢が目へ刺さる。
走る。
竜爪剣を振り下ろした。
【600P獲得】
巨体が地面へ倒れる。
そして、静かになった。
「……終わった?」
ルナが弓を構えたまま周囲を見る。
《魔力感知》を広げる。
近くに動いている反応はない。
「はい。終わりました」
フェリシアがゆっくりロッドを下ろした。
「全部……ですか?」
「この広間にいた魔物は全部みたいです」
三人で周囲を見る。
青白く光る苔に照らされた地面には、大量の魔物が倒れていた。
アーマーリザード。
大型蜘蛛。
角を持った四足の魔物。
あれだけいた魔物が、一体も動いていない。
「本当に三人で倒しちゃった……」
ルナが息を吐く。
「さすがに疲れましたね」
フェリシアも額の汗を拭った。
「魔力は大丈夫ですか?」
「まだ残っています。でも、かなり使いました」
ルナも残った矢を確認する。
「私も結構撃った。三本ずつ使うと減るの早いね」
「それはそうでしょうね」
「でも使いやすかった」
ルナが弓を見る。
「三本ならちゃんと狙える。まずは三本で慣れることにする」
「その方がいいと思います」
いきなり欲張って本数を増やすより、その方がルナらしい。
俺も息を整えながら《会員》を開いた。
【保有:52,890P】
【累計獲得P:331,100P】
「……五万超えた」
「Pが?」
ルナが聞く。
「はい。戦う前は三万八千四百九十Pだったので、俺が倒した分だけで一万四千四百P増えています」
「そんなにですか?」
フェリシアも驚いている。
「これだけいましたからね」
でも五万Pという数字を見て、一つ思い出した。
プラチナ会員になった時に追加された固有スキルを開く。
【固有スキル購入】
【《鑑定》 取得済み】
【《剣聖》 取得済み】
【《魔聖》 取得済み】
【《弓聖》 50,000P】
【《斧聖》 50,000P】
【《槍聖》 50,000P】
【《拳聖》 50,000P】
視線が一か所で止まる。
【《弓聖》 50,000P】
「どうしたの?」
ルナが聞く。
「……五万Pで買えるスキルがあるんです」
「どんなスキル?」
俺はもう一度、その名前を見た。
【《弓聖》 50,000P】
そしてルナを見る。
「ルナに合いそうなスキルです」
「私に?」
「はい」
《弓聖》。
今でもこれだけの腕を持つルナが、このスキルを手に入れたらどうなるのか。
少し見てみたくなった。
【保有:52,890P】
【累計獲得P:331,100P】
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