↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《剣聖》になった弟に追放された俺のスキルは《会員》でした ~ハズレスキルだと思っていたら、ポイントで好きな能力を買えるらしい~  作者: アカメノコバチ
第6章 南への旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/198

第95話 三人旅

 南へ続く街道へ戻り、俺たちは三人で歩き始めた。


 午前中いっぱい進むと、周囲の景色が少しずつ変わっていった。


 背の高い木々が減り、それまで枝に隠れていた空が大きく広がる。


 道の両側には緩やかな丘が続き、その斜面を区切るように畑が並んでいた。


 育てているのは小麦ではない。


 背の低い草や、紫色の花をつけた植物が規則正しく植えられている。


「薬草畑かな」


 ルナが言う。


「分かるんですか?」


「何種類かは里でも育ててるから。あっちは傷薬に使うやつ」


 畑では頭に布を巻いた人たちが籠を背負い、葉を一枚ずつ摘み取っていた。


 少し離れた集落から鐘の音が響くと、畑で働いていた人たちが次々に手を止める。


「お昼みたいですね」


 フェリシアが言う。


「俺たちも休みますか」


「賛成」


 街道から少し離れた草地へ移動した。


 フェリシアが《収納》からパンと干し肉、それに水を取り出す。


「やっぱりそれ便利ね」


 ルナがじっと見ている。


「昨日も言ってましたね」


「だって便利なんだから仕方ないでしょ」


 ルナが自分の荷物を見る。


「私だけ普通に荷物を背負ってるの、ちょっと損してる気がしてきた」


「食料や着替えくらいなら私の《収納》に入れますよ」


「いいの?」


「もちろんです」


「じゃあお願いしようかな」


 食事を終え、少し休んだところでルナが立ち上がった。


「ねえ、ちょっと試していい?」


「何をです?」


「弓。《共有》されてから、まだまともに撃ってないから」


「ああ」


 確かにそうだ。


 街道の周囲に人がいないことを確認してから、少し離れた場所へ移動した。


 ルナが南の丘を見る。


「あの木にしようかな」


「どれです?」


「あそこ。丘の向こうに一本だけ高い木があるでしょ」


 目を凝らす。


 かなり遠いが、一本だけ周囲より高い木が見えた。


「あの木ですか?」


「うん。一番上から少し右に伸びてる枝」


「……枝?」


「葉っぱが三枚だけ残ってるところ」


 もう一度目を凝らす。


 木があることは分かる。でも、一本一本の枝どころか、葉の数なんて分からない。


「フェリシアさん、見えます?」


「木なら見えますけど……」


 フェリシアも目を細める。


「私も枝までは分かりません」


「え?」


 今度はルナが驚いた。


「見えないの?」


「そこまで見えてるルナの方がすごいんじゃないですか?」


「そうなの?」


「少なくとも俺には無理です」


 《風読み》以前に、あの距離の葉まで見えていること自体がおかしい。


 ルナはあまり自覚がなかったらしい。


「まあいいや。あれを狙うね」


 弓を手に取り、矢をつがえる。


「風は……」


 ルナの表情が変わった。


 遠くを見る。


「あそこまでなら全部見える」


「風がですか?」


「うん。途中で二回流れが変わってる。最初は左から吹いて、その先で少し上に巻く。木の手前では右から」


 俺には何も見えない。


 足元の草が揺れているのは分かるが、そんな先まで風がどう流れているのかなんて想像もできなかった。


「こんな遠くまで《風読み》で分かるんですね」


「視界に入ってればね」


 ルナが弦を引く。


「……あれ?」


「どうしました?」


「軽い」


 もう一度力を調整する。


「今までよりずっと楽に引ける」


「筋力も上がってますからね」


「なんとなく分かってたけど、こんなに違うんだ」


 呼吸を整える。


 そして放った。


 ヒュンッ!


 矢が空気を切って飛んでいく。


 途中から俺には見えなくなった。


 かなり遅れて、遠くの枝が小さく揺れた。


「当たったんですか?」


 フェリシアが聞く。


「うん」


「さっき言ってた枝に?」


「そう」


 ルナは当然のように答えた。


 やっぱりこの子自身がおかしい。


 俺たちにはどの枝なのかも見えないのに、ルナはそこへ矢を当てている。


「もう一本」


 矢をつがえる。


 さっきより構える動きが速い。


 ヒュンッ!


「また当たった」


 フェリシアが感心したようにルナを見る。


「すごいですね」


 ルナは弓ではなく、自分の右手を見ていた。


「どうです?」


「変な感じ」


「変?」


「狙った場所に身体がすぐついてくる。矢をつがえるのも、弦を引くのも、放すのも今までより速い」


 もう一度遠くを見る。


「これ、慣れたらもっと遠くから狙えるかも」


「そもそも、そこまで見えるのがすごいですけどね」


「そう?」


「そうですよ」


 ルナが少し嬉しそうに笑った。


◇


 夕方になる前に、街道沿いの町へ着いた。


 エルフの里とは比べものにならないほど人が多い。


 通りを荷車が行き交い、その両側には乾燥させた薬草や香草を売る店が並んでいる。


 建物も森の中にあったものとは違い、石と木を組み合わせた二階建て、三階建てが多い。


 通りの奥には高い鐘楼も見えた。


「結構大きい町ですね」


「この辺りだと大きい方だと思う」


 ルナが周囲を見回す。


「今日はここに泊まりましょうか」


「そうですね」


 三人で宿を探し、しばらくして大きな建物の前で足を止めた。


 三階建てで、一階には広い食堂がある。入口の横には馬車を停められる場所まで用意されていた。


 ルナが建物を見上げる。


「……ここに泊まるの?」


「空いてるか聞いてみましょう」


「ちょっと待って。ここ、高そうじゃない?」


「そうですか?」


「どう見ても安宿じゃないでしょ」


 中へ入って値段を確認すると、一人部屋が一泊二万ジェニーだった。


「二万!?」


 ルナが小声で驚く。


「三人で六万だよ?」


「そうですね」


「そうですねって……」


「三部屋お願いします」


 俺が言うと、ルナがこちらを見る。


「本気?」


「はい」


「私、もっと安い宿でもいいよ?」


「無理に安いところを探す必要もないでしょう」


 代金を出そうとすると、フェリシアも自分の《収納》から財布を取り出した。


「アレンさん、自分の分は払います」


「分かりました」


「ちょっと待って」


 ルナが今度はフェリシアを見る。


「フェリシアも普通に払うの?」


「はい。あ、ルナさんの分はアレンさんが出すそうです」


「そ、それはありがたいんだけど、二人とも六万を高いと思ってない?」


「三人分ですから」


「そういう意味じゃないって」


 ルナが俺たちを交互に見る。


「二人って、どれくらいお金持ってるの?」


「どれくらいと言われても……」


 正確な金額は最近数えていない。


 でも。


「少なくとも、俺もフェリシアさんも一千万ジェニー以上は持ってますよ」


「…………」


 ルナが固まった。


「一千万?」


「はい」


 フェリシアも頷く。


「私もそれくらいならあります」


「二人とも?」


「はい」


「何で!?」


 受付の人がこちらを見る。


 ルナが慌てて声を小さくした。


「何でそんなに持ってるの?」


「冒険者をしていたら貯まりました」


「冒険者ってそんなに稼げるの?」


「色々ありまして」


「またそれ?」


 ルナが疑わしそうに俺を見る。


「能力がおかしいと思ったら、お金までおかしいんだけど」


「そのうち慣れますよ」


 フェリシアが笑っていた。


 ◇


 翌朝。


 朝食を済ませ、町の南門から再び街道へ出た。


 宿の人に聞いたところ、ここからセルヴァン王国との国境までは歩いて十日ほどらしい。


「まだ結構あるね」


 ルナが言う。


「急ぐ旅でもありませんし、ゆっくり行きましょう」


「そうですね」


 三人で南へ進む。


 町を離れると畑の数が減り、低い草に覆われた丘が続くようになった。


 午前中は何事もなかった。


 昼を過ぎた頃だった。


「……何か聞こえません?」


 フェリシアが足を止めた。


 俺も耳を澄ます。


「助けて!」


 風の向こうから声が聞こえた。


「前です!」


 《魔力感知》を広げる。


 人間が何人もいる。


 それとは別に、複数の魔物の反応。


「行きましょう!」


 三人で走り出す。


 丘を越えた先に、三台の荷馬車が止まっていた。


 その周囲を狼に似た魔物が取り囲んでいる。


 灰色の毛に、太い四肢。


 グレイウルフより一回り大きい。


 数は九体。


 商人らしい人たちは荷馬車の陰へ集まり、棒や短剣を手に必死に魔物を近づけまいとしていた。


「護衛は!?」


 ルナが叫ぶ。


「逃げた!」


 男が答える。


「魔物が出た途端に逃げたんだ!」


「ひどい……」


 フェリシアの表情が険しくなる。


 一体が荷馬車へ飛びかかった。


「行きます!」


 地面を蹴る。


 一気に距離を詰め、竜爪剣を抜いた。


 ザンッ!


 一体目が倒れる。


【120P獲得】


 すぐ横から二体が向かってくる。


「《魔弾》!」


 フェリシアの周囲に三つの魔弾が浮かび、一斉に飛んだ。


 ドンッ! ドンッ!


 二体の魔物が地面へ転がる。


「すご……」


 ルナが一瞬フェリシアを見る。


「ルナ!」


「分かってる!」


 荷馬車の反対側から別の一体が商人へ迫っていた。


 ルナの手が背中の矢へ伸びる。


 矢をつがえ、引く。


「……!」


 本人が驚くほど速い。


 ヒュンッ!


 矢が魔物の首へ突き刺さる。


 すぐに二本目。


 ヒュンッ!


 別の一体の目元へ命中した。


「こんなに速く……」


 それでも手は止まらない。


 横から三体目が走り込んでくる。


 ルナが距離を取ろうと後ろへ跳んだ。


「わっ!」


 一気に数メートルも身体が飛ぶ。


「飛びすぎた!」


「ルナ、大丈夫!?」


「大丈夫!」


 着地すると同時に弓を構える。


「でも、まだ全然慣れない!」


 矢を放つ。


 三体目の眉間へ突き刺さった。


「三体!」


 ルナが少し嬉しそうに声を上げる。


 残りは四体。


 一体が俺へ向かってきた。


 剣を振る。


【120P獲得】


 フェリシアが残る二体へ《魔弾》を放つ。


 足元を狙われ、二体の動きが止まった。


「アレンさん!」


「はい!」


 そのうち一体へ踏み込み、胴を斬る。


【120P獲得】


 最後の一体が走って逃げ始めた。


「逃がさない」


 ルナが矢をつがえる。


 すでにかなり距離が開いている。


 俺なら細かい動きまでは見えない。


 でも、ルナには見えている。


 風が吹き、淡い金色の髪が揺れた。


「そこ」


 矢が放たれる。


 遠ざかっていた魔物の首へ、正確に突き刺さった。


 魔物が地面を転がる。


「……当たった」


 撃った本人が、自分の手を見る。


 《魔力感知》で周囲を確認する。


 もう魔物の反応はない。


「終わりましたね」


 剣を鞘へ戻す。


 ルナはまだ弓を持ったまま、自分の身体を確かめていた。


「どうしました?」


「今までと全然違う」


「《共有》ですか?」


「うん。矢をつがえるのも、引くのも、狙いを合わせるのも全部速い。

 それに、身体が思った以上に動く」


 さっき飛び退いた時も、自分で驚いていた。


「数字で見た時よりすごい」


「私も最初はそうでした」


 フェリシアが言う。


「本当に自分の身体じゃないみたいに感じるんですよね」


「そう、それ」


 ルナが頷く。


「でも、元々ルナの弓が上手いからですよ」


「え?」


「身体が速くなっても、狙った場所に当てられなかったら意味ないですから」


「……ありがと」


 ルナが少し照れたように視線を逸らした。


「本当に助かった!」


 商人の一人がこちらへ駆け寄ってくる。


「ありがとうございます! あと少し遅かったら……」


「怪我人は?」


「一人、腕を噛まれています!」


「見せて」


 ルナがすぐに走っていく。


 荷馬車の陰では、中年の男が左腕を押さえていた。袖が破れ、血が流れている。


「動かさないで」


 ルナが傷へ手をかざす。


 淡い光が広がり、流れていた血が少しずつ止まっていった。


「傷は深くないよ。でも今日はあまり腕を使わないで」


「あ、ありがとう……」


 やっぱり頼りになる。


「護衛を雇っていたんですよね?」


 俺は商人へ聞いた。


「はい……」


 男の表情が曇る。


「三人の冒険者を雇っていました。でも、この群れを見た途端に自分たちだけ逃げてしまって……」


「依頼を放棄したんですか?」


「はい。町へ着いたらギルドへ報告します」


「それがいいと思います」


 フェリシアが頷く。


「どこへ向かっていたんですか?」


「ベルガントです」


「ベルガント?」


 俺とフェリシアが同時に聞き返した。


「ご存じなんですか?」


「少し前まで滞在していました」


「そうなんですか!」


 男が驚く。


「私たちはミラディア南部から薬や香草を運んでいるんです。

 ベルガントなら高く買ってもらえると聞きまして」


「なるほど」


 俺たちはベルガントから南へ。


 この商隊はベルガントを目指して北へ向かっている。


 ちょうど逆方向だ。


「あなたたちも冒険者なんですよね?」


「はい」


 男が俺たちを見る。


「失礼ですが、ランクは?」


「俺とフェリシアさんはAランクです」


「私はBランク」


「…………」


 男が固まった。


「Aランクが二人に、Bランク……?」


「はい」


「どうしてそんな方々が普通に街道を……」


「旅の途中なので」


「旅……」


 男はしばらく俺たちを見ていた。


「本当にありがとうございました」


「気にしないでください。それより、北へ半日ほど行けば町があります。俺たちも今朝そこを出ました」


「本当ですか?」


「はい。近くにはもう魔物の反応もありません」


「反応?」


「あ……今のところ、他の魔物はいなさそうです」


 《魔力感知》の説明まで始めると、また長くなる。


 散らばった荷物を積み直し、倒した魔物を街道の端へ寄せる。


 しばらくして三台の荷馬車が北へ動き始めた。


「本当にありがとう!」


 商人たちが何度も手を振る。


 俺たちもそれを見送った。


「護衛が逃げることもあるんだね」


 ルナが呟く。


「本来は絶対に駄目でしょうけどね」


「ギルドに報告されたら、かなり問題になりそうです」


 フェリシアが言う。


「依頼を受けた以上は、最後まで責任がありますからね」


 三人で再び南を向く。


 ルナが弓を背負い直した。


「それにしても、《共有》って本当にすごいね」


「今さらですか?」


「実際に戦ってみたら全然違うよ」


 ルナが軽く地面を蹴る。


 今度は飛びすぎないように加減できていた。


「まだ変な感じだけど、少しずつ分かってきたわ」


「次は後ろに飛びすぎないでくださいね」


「うん」


 ルナが先へ歩き始める。


「さぁ、行くよ」


 フェリシアと顔を見合わせる。


「すっかり先頭ですね」


「ですね」


 俺たちもルナを追って歩き出した。


 セルヴァン王国との国境までは、まだ十日ほど。


 三人での旅は、始まったばかりだ。


【保有:37,290P】

【累計獲得P:315,500P】



最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。