第9話 西へ
翌朝。
俺とフェリシアは荷物を持って冒険者ギルドへ来ていた。
「ベルガント方面の依頼……」
掲示板を上から順番に見ていく。
「ありました?」
「いや、これは北ですね」
「こっちは?」
「村の害獣退治です」
ベルガントへ向かうことは決めた。
「西へ向かう依頼を受けながら行けたらいいんですけどね」
「私もそれを探してます」
二人でしばらく掲示板を見ていると、端の方に一枚の依頼書を見つけた。
「あ」
「ありました?」
「これです」
依頼書を指差す。
【商人護衛】
【目的地:ローデル領・領都カルナ】
【予定日数:二日】
「カルナ……ベルガントと同じ西ですね」
「これにしませんか?」
「はい」
依頼書を持って受付へ行き、手続きを済ませる。
依頼人はギルドの前で待っていた。
「あんたたちが護衛か?」
四十代くらいの男だった。
名前はマルク。
その横には、一頭の馬が引く幌馬車が一台ある。
「アレンです」
「フェリシア・ロートです」
「よろしく頼むよ。荷物は布と塩、それに金物が少しだ」
マルクが荷台を指す。
「盗賊に狙われるような物じゃないが、街道には魔物が出るからな」
「分かりました」
「それじゃ、行こう」
マルクが御者台へ乗る。
俺とフェリシアは荷馬車の左右についた。
馬車がゆっくりと動き始める。
俺たちは西へ向かった。
◇
町を離れるにつれ、家の数が減っていく。
街道の両側には畑が続き、その向こうには低い丘が見えた。
さらに進むと畑も少なくなり、林が増えてくる。
荷馬車の車輪が土を踏む音が一定の間隔で続いていた。
「旅ってこんな感じなんですね」
フェリシアが言う。
「初めてですか?」
「えっと、は、はい」
ん?なんか含みがあるな。
「俺も領内ばかりでした」
昼を過ぎたころだった。
「止まるぞ」
マルクが手綱を引いた。
街道沿いに小さな川が流れている。
「ここで馬を休ませる。俺たちも飯にしよう」
「分かりました」
馬が水を飲んでいる間に、俺たちも街道脇へ腰を下ろした。
休憩を終え、フェリシアが荷物を背負おうとする。
「それ、持ちますよ」
「え?」
「貸してください」
「大丈夫ですよ」
「明日も歩くんですから、疲れは残さない方がいいです」
「でも、アレンさんも荷物ありますよね?」
「これくらい増えても変わりません」
フェリシアの荷物を受け取る。
「……本当に軽そうですね」
「軽いですよ」
「私も前より疲れにくくなってるんですけど」
「それでも無理する必要はないでしょう」
「…………」
フェリシアが少しだけ頬を膨らませる。
「じゃあ、お願いします」
「はい」
再び街道を進んだ。
それから一時間ほど経ったころ。
「止まってください」
前方の茂みが揺れた。
マルクが馬車を止める。
俺は剣を抜いた。
「フェリシアさん、馬車をお願いします」
「はい!」
茂みから三体のゴブリンが飛び出してきた。
「ギャッ!」
一体目が走ってくる。
踏み込む。
一撃。
そのまま二体目へ向かい、剣を横へ振る。
「ギャッ!」
二体目も倒れた。
残る一体が俺を避けるように回り込む。
「フェリシアさん!」
「見えてます!」
ゴブリンが荷馬車へ向かう。
フェリシアがその前へ出た。
「《魔弾》!」
バシッ!
一発目。
ゴブリンがそのまま走る。
フェリシアは横へ動いた。
「《魔弾》!」
二発目。
「ギャッ!」
「《魔弾》!」
三発目が同じ場所に当たり、ゴブリンが倒れた。
【20P獲得】
【保有:80P】
「終わりました」
剣を鞘へ戻す。
マルクが御者台から俺たちを見ていた。
「……ずいぶん手慣れてるな」
「そうですか?」
「ああ。これなら安心して任せられそうだ」
マルクが再び馬を進ませた。
◇
その日は街道沿いの宿場町で一泊した。
通りの両側には宿や酒場が並び、その奥には馬小屋がある。
夕方になると、何台もの荷馬車が町へ入ってきた。
翌朝。
再びマルクの荷馬車とともに西へ向かう。
昼前には、街道脇に大きな石柱が見えてきた。
刻まれている紋章が変わる。
「ここからローデル領だ」
マルクが言った。
「ローデル領……」
一度だけ後ろを見る。
「アレンさん?」
「行きましょう」
「はい」
そのまま石柱の横を通り過ぎた。
午後。
三体のグレイウルフが街道へ現れた。
一体を俺が斬る。
二体目はフェリシアの《魔弾》が仕留めた。
最後の一体がフェリシアへ飛びかかる。
「アレンさん!」
「はい!」
間へ入り、剣を振り抜いた。
【30P獲得】
【保有:110P】
日が傾き始めたころ、大きな城壁が見えてきた。
「あれがカルナだ」
ローデル領の領都。
門の前には荷馬車が列を作り、ローデル家の紋章をつけた兵士が出入りする人々を確認している。
「着いたな。助かったよ」
マルクが御者台から降りる。
「こちらこそ、ありがとうございました」
「これをギルドへ持っていけ」
マルクが署名の入った依頼書を渡してきた。
「護衛完了の証明だ」
「ありがとうございます」
「またどこかで会ったら頼むよ」
マルクと別れ、カルナの冒険者ギルドへ向かった。
冒険者証と依頼書を受付へ出す。
「確認しました。護衛依頼達成です」
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【累計獲得P:1,270P】
【保有:210P】
◇
その夜。
宿の部屋で《会員》を開いた。
【保有:210P】
「三回使えるな」
【筋力強化(中)を購入しました】
【筋力:140 → 170】
【耐久強化(中)を購入しました】
【耐久:130 → 160】
【敏捷強化(中)を購入しました】
【敏捷:180 → 210】
【150Pを使用しました】
【保有:60P】
翌朝。
宿を出ると、フェリシアが数歩歩いたところでこちらを見た。
「……昨日、全部上げました?」
「よく分かりましたね」
「歩いた瞬間に分かりました」
「筋力と耐久と敏捷を一回ずつです」
「全部じゃないですか……」
フェリシアが自分の手を見る。
「毎朝、身体の感覚が変わるのにも慣れないといけませんね」
「大変ですか?」
「嫌ではないですけど」
フェリシアが笑った。
◇
カルナのギルドでも西へ向かう依頼を探した。
「これならどうです?」
フェリシアが一枚を指差した。
小さな商店の商品を西の宿場町まで運ぶ荷馬車の護衛だった。
「ベルガントへは?」
「少し遠回りになりますけど、西には進めます」
「なら、これにしましょう」
「急がなくていいんですか?」
「特に急ぐ理由もないですし」
「アレンさん、こういう旅の仕方好きそうですね」
「依頼を受けながら進めば、旅費も稼げますから」
「やっぱりそっちなんですね」
「大事でしょう?」
「大事ですけど」
フェリシアが笑う。
俺たちは二つ目の護衛依頼を受け、再び西へ出た。
◇
三日目。
カルナの城壁が見えなくなるころには、周囲は一面の麦畑になっていた。
風が吹くたび、麦の穂が大きく揺れる。
途中でゴブリンの群れと遭遇し、俺が三体、フェリシアが二体を倒した。
【30P獲得】
【保有:90P】
四日目。
石造りの橋を渡り、小さな村をいくつか通り過ぎる。
街道沿いの林からグレイウルフが飛び出したが、俺とフェリシアで一体ずつ仕留めた。
【15P獲得】
【保有:105P】
夕方、西の宿場町へ到着。
荷物を無事に届け、依頼人から完了の証明を受け取る。
近くの冒険者ギルドの支所へ持っていった。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【累計獲得P:1,415P】
【保有:205P】
その夜もPを使う。
【筋力:170 → 200】
【耐久:160 → 190】
【敏捷:210 → 240】
【150Pを使用しました】
【保有:55P】
◇
翌朝。
「今日は荷物、大丈夫です」
宿を出たところでフェリシアが言った。
「まだ何も言ってませんけど」
「昨日また強くなったでしょう?」
「はい」
「だったら私も強くなってます」
フェリシアが自分の荷物を持ち上げる。
「ほら」
「疲れたら言ってくださいね」
「そのときはお願いします」
五日目。
また西へ向かう護衛依頼が見つかった。
今度も荷馬車は一台。
目的地はベルガントへ続く街道沿いの町だった。
昼を過ぎ、低い丘に挟まれた道へ入る。
前方から声が聞こえた。
「ギャッ!」
「ゴブリン!」
四体。
さらに、その後ろから大きな影が出てきた。
「オーク……」
フェリシアが杖を構える。
「ゴブリンを先に減らします」
「はい!」
二体が俺へ走ってくる。
一体目を斬り、その勢いのまま二体目へ剣を振る。
【20P獲得】
残る二体にはフェリシアが《魔弾》を撃ち込んでいた。
「《魔弾》!」
一体が倒れる。
最後の一体もすぐに仕留めた。
「ブオオオッ!」
オークが地面を蹴った。
「右から行きます!」
フェリシアが走る。
「《魔弾》!」
脚。
「《魔弾》!」
同じ場所。
オークの足が止まった。
懐へ入る。
「はっ!」
剣を振り抜く。
巨体が地面へ崩れた。
【100P獲得】
【保有:175P】
「終わりました」
フェリシアがこちらへ走ってくる。
「怪我は?」
「ないです。フェリシアさんは?」
「私も大丈夫です」
「なら行きましょう」
「はい」
護衛している荷馬車へ戻った。
◇
六日目。
街道は少しずつ広くなっていた。
東へ向かう荷馬車とすれ違う回数も増えている。
昼過ぎ、護衛先の町へ到着した。
依頼を完了させる。
【依頼達成を確認しました】
【100P獲得】
【累計獲得P:1,635P】
【保有:275P】
その夜。
【筋力:200 → 230】
【耐久:190 → 220】
【敏捷:240 → 300】
【200Pを使用しました】
【保有:75P】
翌朝。
宿の階段を下りていたフェリシアが、一段目で急に手すりを掴んだ。
「危なっ……」
「どうしました?」
フェリシアがこちらを見る。
「昨日、敏捷を二回上げました?」
「はい」
「それなら先に言ってください!」
「何かありました?」
「危うく階段を二段飛ばしするところでした」
「気をつけてください」
「アレンさんが言います?」
呆れた顔をされた。
◇
七日目。
ここからは依頼を受けず、ベルガントへ向かうことにした。
街道を歩く人の数は、これまでとは明らかに違う。
商人や旅人。
剣や槍を持った冒険者。
二頭の馬で引く大きな荷馬車とも何度かすれ違った。
「人が増えましたね」
「ベルガントが近いからですよ」
フェリシアが前方を見る。
「サハル王国でも有数の交易都市ですから」
昼過ぎ。
街道から少し離れた場所で三体のグレイウルフに襲われた。
「左、行きます!」
「お願いします!」
一体をフェリシアが引きつける。
俺は二体を続けて斬った。
【30P獲得】
【保有:105P】
夕方、最後の宿場町へ入る。
ベルガントまで、あと一日。
宿の部屋で《会員》を開いた。
【保有:105P】
【耐久強化(中)を購入しました】
【耐久:220 → 250】
【50Pを使用しました】
【保有:55P】
夕食を終えたあと、フェリシアが宿の窓から外を眺めていた。
「明日ですね」
「はい」
「ベルガント」
暗くなっても街道を荷馬車が通っている。
「どんな町なんでしょう」
「大きいんでしょうね」
「それは間違いないです」
「ちょっと楽しみになってきました」
「私もです」
◇
八日目。
朝から西へ進む。
道幅はさらに広くなった。
荷馬車が二台並んでも十分に通れる。
道沿いには旅人相手の店まで現れ始めていた。
昼前。
二体のグレイウルフが街道脇から飛び出した。
一体をフェリシアが《魔弾》で引きつける。
もう一体が俺へ向かってくる。
一歩踏み込む。
剣を振った。
【15P獲得】
【保有:70P】
振り返る。
フェリシアの方も終わっていた。
「行きましょうか」
「はい」
そのまま西へ進む。
午後。
長い坂道を上っていたフェリシアが、先に頂上へ着いた。
「あっ……」
足を止める。
「どうしました?」
「アレンさん」
フェリシアが前を指差した。
「見えました」
坂を上りきる。
「……すごいな」
遠くに巨大な城壁が見えた。
これまで見てきた町とは規模が違う。
城壁へ続く街道には何台もの荷馬車が並び、ここからでも人の流れが分かる。
「あれが……」
「はい」
フェリシアが笑った。
「交易都市ベルガントです」
八日かけて、ようやくその姿が俺たちの前に現れた。
累計獲得P=1,680P
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