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第8話 再戦

「せっかくだし、少し付き合ってよ。兄さん」


「断る」


「……え?」


 カイルの笑顔が止まった。


「俺は依頼を受けに来たんだ。お前と遊んでる暇はない」


「久しぶりに剣を合わせるだけだよ」


「それを遊びって言うんだろ」


 俺はフェリシアへ向き直った。


「さっきの街道警護、見てみましょう」


「え、あ、はい」


「兄さん」


 カイルが後ろからついてくる。


「前はあんなに俺に勝とうとしてたのに」


「前は前だ」


「また負けるのが嫌なの?」


 足を止めた。


「そういう挑発には乗らないぞ」


「…………」


「用がないなら戻れ。」


 カイルの後ろにいた騎士も口を開く。


「カイル様。そろそろ侯爵様のもとへお戻りください」


「分かってる」


 カイルはそう答えたものの、俺から視線を外さなかった。


「でも、兄さんが何か隠してるのは間違いない」


「お前には関係ない」


「…………」


 しばらく見つめ合う。


 やがてカイルがギルドの奥へ歩いていった。


「行っちゃいましたけど……」


「放っておきましょう」


「いいんですか?」


「そのうち父上に呼ばれますよ」


 ところが、すぐにカイルは戻ってきた。


 両手には木剣を持っている。


「兄さん」


「いらないぞ」


 一本が飛んできた。


「おい!」


 反射的に受け取る。


 カイルが笑った。


「ちゃんと取れるじゃん」


「投げるな」


「少しだけでいいから」


「やらないって言ってるだろ!」


「じゃあ、俺から行くよ」


「カイル!」


 木剣を構えた。


「待てって――」


 地面を蹴る。


 速い。


 木剣が肩へ迫った。


「っ!」


 俺も剣を上げる。


 ガンッ!


 木剣同士がぶつかった。


「……え?」


 カイルの目が見開かれる。


 受け止めた剣を横へ押し返す。


 カイルが一歩下がった。


「兄さん……?」


「いきなり振るな!」


「今の、止めた?」


「見れば分かるだろ!」


「…………」


 カイルが木剣を握り直す。


「もう一回」


「やらないって言ってるだろ!」


 再び踏み込んできた。


 さっきより速い。


 右からの一撃。


 受ける。


 すぐに左から来る。


 身体を引く。


 剣先が目の前を通過した。


 さらに一撃。


 今度は俺から前へ出た。


「っ!?」


 木剣を振る。


 ガンッ!


 カイルが受ける。


 そのまま押し込んだ。


「ぐっ……!」


 カイルの足が半歩下がる。


「……何したんだよ、兄さん」


「お前に話すことはない」


「この前と全然違う」


 カイルの笑みが消えた。


 木剣を正面に構える。


 雰囲気が変わる。


「まだやるのか?」


「少しだけ」


「俺はやるって言ってないぞ」


 返事の代わりにカイルが踏み込んだ。


 剣が来る。


 受ける。


 弾く。


 すぐに俺も踏み込んだ。


 横薙ぎ。


 カイルが身体をずらす。


 追う。


 上から振る。


 ガンッ!


 受け流された。


 次の瞬間には、木剣の先が腹へ迫っている。


「っ!」


 横へかわす。


 間合いを取り直そうとした。


 だが、そこにもカイルがいる。


 ガンッ!


「くっ!」


 木剣を合わせる。


 離れる。


 もう一度踏み込む。


 ガンッ!


 ガンッ!


 ガンッ!


 先に動いたはずなのに、カイルの剣がもうそこにある。


 右へ回れば右。


 左へ出れば左。


 どこへ動いても先を塞がれる。


 それでも身体はついていく。


 大きく踏み込んだ。


「っ!」


 カイルが下がる。


 追う。


「速っ……!」


 もう一歩。


 木剣を振る。


 カイルも剣を上げた。


 だが、わずかに遅い。


 バシッ!


「……っ」


 木剣の先がカイルの肩を掠めた。


 二人とも動きを止めた。


 カイルがゆっくり肩を見る。


「……当たった」


「掠っただけだ」


「俺に?」


「もういいだろ」


「…………」


 カイルが顔を上げる。


「この前は、俺の剣を一度も止められなかっただろ」


「そうだな」


「なのに、なんで……」


「知らないよ」


 カイルが強く木剣を握った。


 来る。


「っ!」


 さっきまでより鋭い。


 振り下ろされた木剣を受ける。


 ガッ!


 腕に衝撃が走った。


 二撃目。


 かわす。


 三撃目。


 剣で弾く。


「兄さん!」


「何だよ!」


「何したんだよ!」


「しつこい!」


 剣を振る。


 カイルが受ける。


 そのまま押し込む。


 カイルが横へ流して、俺の肩を狙う。


 しゃがむ。


 足を踏み込む。


 胴へ横薙ぎ。


 カイルが飛び退いた。


「くっ……!」


 距離が開く。


 すぐに二人とも前へ出た。


 ガンッ!


 剣がぶつかる。


 カイルが下から弾く。


 俺も剣を返す。


 肩。


 かわされる。


 カイルの剣が胸へ来る。


 半歩ずれる。


 今度は俺が突く。


 カイルが首を傾けてかわした。


「…………」


 カイルの顔から完全に笑みが消えていた。


 俺も木剣を構え直す。


 同時に地面を蹴った。


「カイル!」


 低い声が訓練場へ響いた。


「っ!」


 カイルが止まる。


 俺も木剣を下ろした。


 入口に父が立っていた。


 その後ろには数人の騎士がいる。


「父上……」


「カイル。遊んでいる場合ではない」


「ですが――」


「出発するぞ」


 父の声に、カイルが口を閉じる。


「……分かりました、父上」


 父の視線が俺へ向いた。


「……アレンか」


「はい」


 俺の手にある木剣を見る。


 次にカイルを見る。


「冒険者になったのか?」


「はい」


「……そうか」


 それ以上、何も言わなかった。


「カイル」


「はい」


「王都への到着が遅れれば、セリカ殿下の出立に影響する」


 セリカ・サハル第一王女。


 近くアルスレイン王国第一王子へ嫁ぐことになっている。


「父上たちは、セリカ殿下の護衛を?」


「ああ」


 父ではなくカイルが答えた。


「王都で殿下の一行と合流するんだ。そこからアルスレイン王国まで父上たちが護衛する」


「お前も行くのか?」


「同行する。《剣聖》を持っているから、俺も護衛に加わることになった」


 十五歳のカイルが護衛団を率いるわけではない。


 父たちとともに行くということらしい。


「行くぞ」


「はい、父上」


 カイルが木剣を元の場所へ戻す。


 訓練場を出る直前、こちらを振り返った。


「兄さん」


「何だ?」


「次は最後までやろう」


「俺はもうやるつもりないぞ」


「…………」


 カイルは何も返さなかった。


 そのまま父たちのあとを追っていった。


 ◇


 ギルドの外へ出ると、ヴァルディス家の一行が東の街道へ向かっていた。


「アレンさん」


「はい?」


「大丈夫ですか?」


「何がです?」


「弟さんと、お父さんに会って」


「大丈夫ですよ」


「そうですか」


「はい」


 フェリシアが少し安心したように頷いた。


「それにしても……すごかったです」


「さっきの?」


「カイルさん、《剣聖》なんですよね?」


「そうですね」


「互角に戦ってました」


「途中で止められましたけどね」


「でも、カイルさんの肩に当ててました」


「掠っただけですよ」


「それでもすごいです」


 フェリシアが少し興奮した様子で話している。


「もっと剣も鍛えないとな」


「今の戦いのあとで、もう訓練のことを考えてるんですか?」


「まだ剣の技術では追いついてないですから」


「……休む気はないんですね」


「休むのは夜でいいでしょう」


「そういう意味じゃないんですけど」


 フェリシアが苦笑した。


 ギルドへ戻り、もう一度掲示板を見る。


「……。フェリシアさん」


「はい?」


「昨日言ってたベルガントって、西ですよね」


「そうですよ」


「ここからどれくらいです?」


「歩きなら五日くらいですね。馬車ならもっと早いですけど」


「五日か」


「どうしたんですか?」


「行ってみませんか?」


「え?」


 フェリシアが目を丸くする。


「ベルガントへ?」


「はい」


「急ですね」


「ここのEランク依頼もそれほど多くないですし、ベルガントならもっといろんな依頼を受けられるんでしょう?」


「それはそうです」


「だったら行ってみたいです」


「ヴァルディス領を出ますよ?」


「はい」


 フェリシアが俺の顔を見る。


「本当にいいんですか?」


「問題ないです」


「…………」


「フェリシアさんはどうします?」


「私も行きます」


 答えは早かった。


「いいんですか?」


「ベルガントのギルドには私も興味があります。それに、一人で行くより二人の方が安心ですから」


「助かります」


「じゃあ、出発の準備をしないといけませんね」


「ですね」


 父とカイルは東へ向かった。


 俺たちが目指すベルガントは、その反対。


 西だ。


 累計獲得P=1,120P



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
え、アルスレイン王国の エドガーのお兄さんに嫁ぐ姫の護衛が 剣聖カイン君なのか。リオン達となんかあるのかなぁ。繋がるかもしれないのねー。 つながらなくてもアレン君の活躍 楽しみにしてます。
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